第20話 妖精の問題児
「というわけで、半田の変身の許可をもらってきた」
「なんで通ったんだよ……」
半田はとても嫌そうな顔をした。
夜ご飯はチャーハンだ。男飯というやつらしく、シーチキンや卵、ネギと冷蔵庫の中に余っていた食材を入れて作ったらしい。おいしい。
「上の人たちはよく許したな」
「俺もびっくりした。男でも仕方ないなんて、よっぽど人が足りていないんだろうな」
問題を起こさなければいいと実質認められたようなものなのだ。
「でも僕が変身するのは緊急時だけだろ」
「まあな。……そうだ、半田に渡すものがあった」
俺は手を叩いて緑のステッキを出す。それを半田に渡した。
「緊急時に俺が半田のそばにいるとは限らない。半田のことは信頼してるから、特別にステッキを預ける」
「うーん、複雑な気分……」
半田は嫌そうな顔でしぶしぶ緑のステッキを受け取る。
「魔法少女に変身している間はいつもどおり時間が進むが、変身を解除すると時間が変身した瞬間に巻き戻る。時間の巻き戻し機能を解除したい時はスイッチを切ればいい」
「すごい機能がスイッチでいじれるのバグ過ぎるでしょ……」
半田がまじまじとステッキを見る。
そういえば。半田に行っていなかったことがあったのを思い出す。
「もう一つ半田に伝えることがあった」
「なに? またなんかやらかしたの?」
「違う。妖精がもう一匹この家にやってくることになった」
半田が思い出したようにはっとした。
「そうだ。さっき魔法少女協会のやつらから電話があったんだよ。うちに来る妖精がどんな奴か、咲は聞いてないの?」
「問題児だとは聞いたが、俺も詳しくは知らない」
「ええー、咲よりも大変なのか」
「俺は妖精の中だと優秀なほうだぞ」
「そうなの? 金銭感覚バグってたけどな。……ってことは、咲とそいつの分で僕のバイト代も2倍になるのか!」
「かもな。今度管理官に聞いてみる」
「頼む!」
半田が今日一嬉しそうな顔をした。
***
鳥の声がして、意識がだんだんと浮上する。目を開けると暗闇が広がっていた。
日本の家に移動したはずだが、ここはいったいどこだろう。ワープは他の人間に見つからないように隠していることもあるという。ということは、何かの中にいるのかも。
短い手を伸ばしてあちこちを触りまくると、一面だけ動く壁があった。扉が動く方向に押すと難なく動く。開けたところから光が差し込んで眩しい。
ミーは暗いところを飛び出して周りを見渡す。さっきまでいたところにはいろいろな服がかけられていた。なるほど、ミーはクローゼットにいたらしい。
ベッドには人間が眠っていた。この人がこれから面倒を見てくれる人か。その隣の棚にはクッションが置かれており、その上にはぬいぐるみと見間違いそうなもふもふしたものが乗っかっていた。仲間だから分かる。あれは妖精で、ミーにいろいろ教えてくれるっていうセンパイだろう。
「チッ」
ミーは舌打ちを打つ。何がセンパイだ、偉そうに。魔法を使えるくせに自分で戦わず、人間に代わりに戦ってもらってる弱い奴の間違いでしょう?
妖精の国の奴らは、戦いたくないというくせに戦うための準備をする。戦いたくないならさっさとやめればいいのに。意味が分からない。
ムカつくのでいたずらを仕掛けることにした。
ミーはセンパイに顔を近づける。上から見下ろすのは気持ちがいい。
ぐっすり眠ってるセンパイの頬をつっついて起こす。ぴったりくっついていた瞼がゆっくりと開いた。
「……ん。……んん?」
「おはようございます、S4kuセンパイ」
寝ぼけ眼のセンパイにミーは笑顔を浮かべて見せる。
「U3ra。人間名は夢見 琉亜です。弱っちいセンパイなんかに教わることなんてないですけど、ミーをよろしくお願いしますね?」
ウインクをする。センパイの表情が驚きに変わった。
「うわあぁああ!」
センパイが驚いて上体を起こす。鈍い音を立てて、センパイの頭とミーの頭がぶつかった。
***
悲鳴で起きてしまった半田に、俺とU3raのおでこにできたこぶを手当てしてもらい、改めて3人で向き合う。
俺は目の前の妖精を観察する。U3ra。人間名、琉亜。リボンが好きなのか、体のいろんなところにつけている。背丈は俺の一回り小さい。といっても人間と比べたら大した差ではないだろう。
俺が人間のつま先から膝下ぐらいの高さだとすると、琉亜は手の親指一本分ほど小さい。
「それで君が、俺が面倒を見る予定の琉亜なんだな」
「そうですヨ」
ふてているようで、そっぽを向いている。
「琉亜。まず、人間界にいる間は人間名で呼び合うルールは守ろう」
「別に名前くらいどうだっていいじゃないですか」
「偉くなった時に狙われないためだ。授業で学んだだろう」
「ふんっ」
琉亜はこちらを見る気配はない。それすら分かってない見習い妖精を現場に送り出すのは危険なのでは。
見習いとはいえ多少は俺の仕事のサポートを頼もうと思ったが、基礎すら分かっていないのでは厳しいな。
ようやく管理官の罰がどれだけのものか理解する。なるほど、魔法少女のサポートに加えて琉亜に教えるのはかなり大変そうである。ちゃんと罰だ。
半田がひそひそと俺に耳打ちする。
「なんか、生意気な子だな」
「そうだな。俺もどうしたらいいか迷ってる」
ふいに携帯が鳴った。日和からの着信のようで、俺は電話に出る。
「日和、どうした?」
『今日は、魔法少女になって特訓しても大丈夫ですか!』
意気込む日和に微笑ましくなる。魔法少女と真剣に向き合ってくれて嬉しい。
目の前の琉亜を見やる。魔法少女には興味があるのかちらちらとこちらを見る。今後魔法章の妖精としてサポートするなら、お互い顔は知っていたほうがいいだろう。
「分かった。それじゃあ特訓しよう。いつものカフェでいいか?」
『うん!』
「それと、二人に会わせたいやつがいるから一緒に連れて行く」
「えっ!?」
琉亜から驚きの声が聞こえたが聞こえないふりをする。
「それじゃあまた後でな」
『うん、また後で』
向こうが返事をしたのを聞いて電話を切る。
「ちょっとセンパイ、ミーは行くっていってないんですけど!」
「先輩からの命令だ。魔法少女のサポートをするなら琉亜の紹介が必要だろ」
「ミーはサポートするなんて言ってないですヨ」
「魔法少女をサポートしないなら妖精としての存在意義はない」
「っ、そんなことないし!」
琉亜が大声で叫ぶ。俺は驚いて琉亜を見た。もしかしたら、サポートをしたくないのには理由があるのだろうか。
少し考えて俺は琉亜に声を掛ける。
「分かった。サポートしたくないならしなくていい。ただ俺が面倒を見る以上、魔法少女と関わることになるだろうから、後輩とだけ紹介する。それでどうだ」
「……分かりました」
琉亜はしぶしぶといった様子で了承した。
「ありがとう。それじゃあ準備をしよう」
俺はほっとして、カフェに出かける支度を琉亜に促した。




