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魔法少女のマスコットは百合が見たい!  作者: ぬのきれタ
02.二人目の魔法少女
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第17話 ひめごと

 とあるビルの会議室。いつものように扉を開けて中に入る。部屋の中には既にボスと大上先輩がいた。


「そのもこもこした愛らしい見た目でアタシを従わせようだなんて、笑わせてくれるね」

「仮にも貴様たちのボスだぞ。貴様のほうこそ少しはわきまえたらどうだ。だいたい、我々妖精が何なのか知ってるか? 実は我々妖精は――」

「あ、李依奈様!」


 大上先輩はにこやかに笑みを浮かべながらウチの前にやってくる。何も言わずにじっとこちらを見てくる大上先輩が気になって、私は仕方なく聞いた。


「なにか言いたいことでもあるの?」

「李依奈様の匂いを覚えたいので脇をかがせてください」

「……」


 よくそんなキモいセリフをはっきり言えるね。一応芸能人だよね? 雑誌社にでも見つかったら大変なことになりそうだ。

 ウチはソファに座り、足を組んだ。


「せいぜい靴のつま先で我慢しなさい」

「あはぁ、李依奈様‼」


 大上先輩は恥じることなくウチの前にひざまづき、鼻をウチの靴底に無遠慮に押し当てる。だらしなく口を開けて、はあはあと息を荒くしているのだから気持ち悪い。


「大上先輩、舐めたら蹴るから」

「……」


 大上先輩がにやりと口角をあげたかと思うと、ぺろっとウチの靴底を一舐めした。

 約束通り私は大上先輩の顔を蹴り上げる。嬉しそうに恍惚とした表情を浮かべた大上先輩の整った顔からは鼻血が垂れた。


「はぁ、大上先輩……年上の癖に恥ずかしくないんですかあ?」

「っ、あはぁ、もっと罵って!」


 何がそんなに嬉しいのか、大上先輩のことはさっぱり分からない。まあ、いじめって言われることでもされて嬉しいことならやってあげたほうが親切だよね。


「……貴様たち、この聖域(サンクチュアリ)を汚すような真似はよしてくれ」


 よそでやってくれ、と言いたいのだろう。ウチはにっこりと笑みを浮かべる。


「ごめんなさい、ボス。でも悪いことをしたらすぐにお仕置きが必要でしょ。できそこないの頭で忘れられたら困るんだから」

「……君は徹底して悪を演じるんだな、デラヴィ」

「当然。だってこの世に悪は必要なの。みんな何かのせいにして生きている。ウチらはその理由になってあげてるだけ。むしろ慈善事業だよ」


 どれだけ素晴らしい才能を持っていても、どれだけ素晴らしい環境で過ごしても、自分が享受している幸せに気づけずに不満を持つ人は後を絶たない。そして人は無くしてからあの時の自分は幸せだったと気づくのだ。

 だから本当に無くす前にウチらが気づかせてあげるのだ。彼らが気づかない幸せを脅かす存在として大きくなればなるほど、彼らはきっと自分が持つ幸せをより大切に享受する。ついでに世界共通の敵として立ちはだかれば、きっと世界は団結して立ち向かうことだろう。巨大な悪が存在するだけで、数多の幸せが生み出される。光あるところに影ができるなら、影があるところにもまた光はあるのだ。


「悪いことをすることが、良いことなの」

「歪んだ考えだな、デラヴィ」


 ボスが顔をしかめる。私は首を傾げた。何か間違っていることを言っただろうか。


「だってそうでしょ、ボス。一回良いことをして一人を幸せにするより、一回悪いことをしたほうがたくさんの人を幸せにできるじゃん」


 一つの悪があれば、それに寄ってたかって戦うだけで正義になれる。だから世界を良くしたいなら、悪を作り出す方が手っ取り早いとウチは思う。だけどボスはそう思わないようで、呆れたようにため息を


「悪を正すのが必ずしも正義とは限らない」

「……どういうこと?」

「影を消すのは必ずしも光だけではない。どんなに大きな影だって、地球上の生物の生態さえ変えてしまうほどの、夜を生み出す月の影には敵わないだろう。デラヴィ、貴様なら分かるはずだ」


 つい大上先輩を見る。大上先輩は目が合うとにっこりと嬉しそうに笑みを浮かべた。

 悪者()を倒すのは、いつだってヒーロー(魔法少女)であってほしい。だけどそんな簡単なことすら現実は難しいなんて。

 ボスの言葉の意味が分からないほど子どもじゃない。だけど、それを認められるほどウチはまだ大人じゃない。

 この話題でボスと話しても私に得はない。だから話題を変えることにした。


「そんなことより、ボス……ついに“アレ”が完成したんでしょ。早く見せてよ」


 強引に話題を逸らせば、ボスは呆れたようにため息をついて特等席を立ち上がった。


「こっちだ。ついてこい」

「アタシはここでお留守番してるね」


 大上先輩は鼻血を拭きながら手をひらひらとこちらに振った。本当にウチ以外には興味がないらしい。別についてきてほしいとも思わない。ウチは振り返ることなくボスと会議室を出た。

 廊下を歩きながら、ウチはわくわくした気持ちが抑えられなくてふよふよと漂うように移動するボスに話しかけた。


「それにしてもボスはなんでもできるね♪」

「ふっ、我にかかればこんなもんよ。妖精の国のあの装置があればできないことはない」

「そんな装置を持ってるなんて、妖精って恐ろしいね」

「装置がすごくとも前時代的な妖精どもでは有効活用などできまい」

「ボスだって妖精でしょ」

「……我は、少し違う」


 ボスの言葉にウチは首を傾げる。他の妖精を見たことがないから分からないから何が違うのか分からない。妖精と何が違うのって聞こうとした時、先にボスが話しかけてきた。


「我のことはよい。ほら、あそこの研究室でお前の望みの物を作ってやったから見てこい」


 ボスは目線の先にある部屋を指さす。ウチは研究室と書かれた部屋に駆け寄り、扉を開けた。

 研究室とされた部屋の中心には大きな装置がある。これは『ドリーム・アウト』という妖精の国で作られた物らしく、この装置で作れば望みの物が何でも手に入るらしい。ただし、妖精にしか使えないなどいろいろ制約があるらしく、ウチは使ったことがない。


「ほら、こいつが完成したものだ」


 ボスが電気をつけて装置の前に近づく。暗くて気づかなかったが、装置の前には眠る様に座りこんだ少女がいた。

 セミロングの白くて綺麗な髪の毛に、可愛らしい顔立ち。見た目は私の妹と同じくらいの中学一年生って感じだ。


「ボス、その子が私のリクエストした人造人間ってこと?」

「そうだ。人間の生態をそのままに作ってある。面倒は貴様が見るんだぞ、デラヴィ」

「分かってるよ♪ ありがとう、ボス」


 ウチはその少女の肩を叩く。


「ねえ、起きて。ウチとお話ししよ?」

「…………」


 少女の瞳がゆっくりと開く。赤い目がこちらを捉えた。


「…………」

「ウチは雨宮李依奈。お姉ちゃんって呼んでね♪」

「……おねえ、ちゃん」

「かわい~!」


 あまりの可愛さにウチは思わず抱きしめた。


「ねえ、あなたの名前は何て言うの?」

「……なまえ、ない」

「じゃあウチがつけてあげる。あなたは今日から“ころね”ね!」

「ころね」


 虚ろな瞳が不思議そうにこちらを見る。まだ状況がよく分かっていないのだろう。大丈夫。これからウチが教えてあげるから。

 きょとんとこちらを見つめるころねにウチは笑いかけた。


「これから世界で一番悪い奴になろうね、ころね」


 すべては世界の平和のために。

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