第10話 二人きり
S4ku→妖精。人間界での名前は守里 咲。百合を見守りたい。
草加部 日和→魔法少女名はマジカル☆チェルア。気弱な女の子。頼られるような自分に変わりたい。
雨宮 怜奈→日和の幼馴染。優等生の女の子。日和のことが好き。
洗面台の前で歯を磨きながら私は昨日のことを思い出そうとする。けれどなぜか記憶にはもやがかかったようにうまく思い出せない。
「日和なんてもう知らないんだから!」
あの日、叫んだ私は勢いのままカフェから飛び出した。あてもなく街の中を歩きながら、私は一人で脳内反省会を開く。
『日和になんてひどいことを言ってしまったの! 早く謝らなきゃ!』
『でもあれくらい言ってもいいんじゃないかしら。日和は私のことなんかきっと考えてないのよ』
『そうは言っても、私は日和に、私の気持ちを話してない。だから日和が誰かと仲良くなるのを止める権利なんてないわ』
『だけど、――』
脳内反省会はでも、だけど、でもと繰り返すばかりで何も進まない。理由は分かってる。
結局、すべての原因は私が日和に恋心を抱いているのを秘密にしているからなのだ。
私が自分の気持ちを話してないから日和は知らない。頭では分かっているのに、日和には私の気持ちに気付いてほしいような、絶対に気付いてほしくないような気持ちだ。
だからといって日和に当たっていいわけではないとも分かっているけど、当たりたくなる気持ちも日和に分かってほしい。まあ、そんなに私に都合よくことが運ぶことはないし、実際そうならなかったから私はここにいるのだけど。
「ああもう、どうしたらいいのよ!」
「怜奈、大声出してどうしたん?」
振り返ると姉の李依奈がいた。
「姉さん、聞いてくれる? あのね――」
ばったり出会うことなんてあまりないけど、そんなこともあるかとあまり深く考えずにさっきカフェであったことを姉さんに話す。姉さんは私が日和のことを好きなのを知ってる。私は誰にも言わないつもりだったんだけど姉さんにはバレていたみたいで、昔姉さんに聞かれた時に日和への私の気持ちを話した。そしてこうやってたまに愚痴をきいてくれるようになった。今も、姉さんは黙ってうんうんと私の話を聞いてくれた。
「日和が優しいのは分かるけど、ずっと守里咲とかいう女ばっかり気に掛けるのは違うと思うの!」
「……怜奈は、まだ日和ちゃんのことが好きなんだ」
姉さんに聞かれて私は頷く。昔何度も諦めようとしたけど、嫌いになんてなれないし、日和のそばにはいたい。たとえ日和が選ぶ人が私じゃなくても、私は日和の友達としてそばにいたいのだ。
「私、日和のことが諦められないの」
「怜奈は諦めたいとは思うの?」
「そりゃあ、諦めたほうが楽だとは思うけど……」
「ふうん。それならウチがいい方法を知ってるよ」
姉さんはポッケから取り出した紫色の宝石を私に見せた。
「怜奈、今の気持ちを全部吐き出しちゃいなよ」
そこから私の記憶は無い。次に気付いた時に私は自分の部屋に寝かされて、泣きそうな顔で私を見つめる日和がそばにいた。
洗面台に姉さんがやってくる。姉さんと話してからの記憶がないので、姉さんなら何か知ってるかもしれない。
「姉さん、ちょっといいかしら」
「ん、なあに?」
「私、昨日姉さんと話した後のことが思い出せないの。私に何があったかわ分かる?」
「えー、私も分からないなあ。というかウチも知りたいくらいだよ! あの後怜奈と別れて、家に帰ってきたら怜奈が部屋で気を失ってたんだから。怜奈が気を失ってる間、日和ちゃんは心配してずっと怜奈と一緒にいてくれてたよ」
「ふーん……」
思わず頬が緩んでしまいそうなのを必死に食い止める。姉さんが面白そうににやにやと私の顔を見た。
「昨日、日和ちゃんと何話したん?」
「……別に大した話はしてないわ」
「その割には嬉しそうな顔をしてるけどねー?」
「なっ! ……ひ、日和が抱きしめてきたのが、ちょっと嬉しかったっていうか……」
「ふうん?」
「にやにやしないの! もういいわ!」
私はにやにやする姉から離れた。姉さんが知らなくても、日和なら何か知ってるかもしれない。
私はさっさと学校に行く支度をした。
教室に入って既に登校して荷物の整理をしていた日和に私は話しかける。
「日和、おはよう」
「怜奈! おはよう。その、体調は大丈夫?」
日和が心配そうに私の顔を伺う。上目遣いで私を見る日和はとても可愛い。私は思わず日和の頭を撫でる。
「大丈夫よ。ねえ、日和。聞きたいことがあるんだけどいいかしら」
「うん。何かな?」
「昨日のことなんだけど、カフェを出た後の私の記憶がないの。日和は何か知らない?」
「えっと、し、知らないよ」
日和の目が泳ぐ。明らかに嘘を吐いている。まさか日和が私に嘘を吐くなんて思わなかったので、私はショックを受ける。それを顔に出さないように日和に詰め寄る。
「日和、あんた本当に知らないの? 私が気絶したときに日和が運んでくれたって聞いたから何か知ってると思ったんだけど」
「…………うーん……」
日和は周りをちらっと見てから私に小声で囁いた。
「怜奈、ここでは言いづらいから後で二人きりになってから話そう?」
二人きり、というところに反応してしまう私はきっとチョロい。だけど日和から二人きりになろうって言われるのはやっぱり嬉しくて私は頷いた。
昼休みの時間になり、日和と二人で教室を抜け出して、普段あまり生徒が通らない廊下の奥にある階段に二人で座る。
日和はもじもじと恥ずかしそうに顔を赤くしながら私を上目遣いで見る。可愛すぎるわ。
「あのね、怜奈……これから私の言うことに絶対驚かないで聞いてほしいの」
「大丈夫よ。日和と何年幼馴染していると思ってるの? 何度も言うけど、私は日和が何を言っても見捨てないわ」
「……分かった。じゃあ話すね」
日和は深呼吸をしてから口を開いた。
「私ね、魔法少女になったの」
「……え?」
聞き間違いだろうか。顔を赤らめて上目遣いをする日和に見とれて私の耳が仕事を放棄したのかしら。
「だから私、魔法少女になったの」
日和が真剣な顔つきで私を見る。どうやら聞き間違いじゃないらしい。
「ねえ怜奈、なんで私のおでこに手を当ててるの?」
「日和に熱がないか確かめてるのよ」
「信じてないじゃん! 怜奈のうそつき!」
「嘘は吐いてないわ。見捨ててないから日和の面倒を見ようとしているんじゃない」
「それは確かに……? でもそうじゃなくて、その……と、とにかく私は魔法少女になったの!」
「わ、分かったから落ち着きなさい。それで、それが私の記憶がないことにどうやって繋がるの?」
日和があまりにも必死になっているので、さすがの私も一旦受け入れることにした。興奮して立ち上がった日和は、座り直してまた話し始める。
「怜奈がその……モンスターになったから、私が魔法少女になって元に戻したの」
「私が、モンスターに……?」
「怜奈の記憶がないのはたぶん、モンスターになっていた時のことを忘れているからだと思う」
にわかには信じられない。でも私には確かに抜けている記憶があって、自分の意見を言うのが苦手な日和が魔法少女になったと言い張る。現実的な話じゃないけど、嘘だと思えない。
「私、モンスターになっていたのね……」
口に出してみても実感はない。だけど日和が頷くのだからきっと本当にあったのだ。
「それでね、私は今日の放課後に守里さんから魔法少女のことについて教えてもらうつもりなの」
守里、という名前についピクッと反応する。私の気持ちに気付かない日和は構わずに話を続けた。
「怜奈の記憶がないことも何か知ってるかもしれないし、一緒に行ってみる?」
「行くわ」
日和の誘いに即答する。私の反応に日和が驚いた表情をした。
「即答なんだね」
「だって守里と日和を二人きりになんてさせられないもの」
「ふ、二人きりって……確かにそうだけど、別にそんなんじゃないよ」
日和が照れていることに内心イライラする。なんで日和はあんな奴にデレデレするのよ。私のほうが日和のことを好きなのに!
だいたい魔法少女と守里に何の関係があるのか分からない。けど、ともかく守里を日和と二人になんてさせないんだから!
私は拳と決意を固くした。




