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第七十五話 ニートだったあの子と幼女なあの子は、みんなの注目の的

 ひょんなことから知り合い二人と、三人体制で仕事する羽目になった。知り合いと一緒というと、気兼ねなく仕事が出来そうだが、戦力として期待出来そうにないので、あまり心が弾まない。


 下手をすると、俺一人で仕事を抱え込む展開もあるなと、暗い気持ちに沈む中、車は勤務先となる建物へと到着した。俺の気持ちなど知らないシロは、「一番乗り!」と叫びながら、真っ先に車を降りた。大人から見れば怪しいだけの建物群も、シロにとっては、興味を掻き立てられるらしい。遊園地にでも来たかのようなはしゃぎようだが、実際のところ、本気で遊園地と思っている可能性もゼロではない。


「こら、シロ! ここは遊び場じゃないんだからな。静かにしろ!」


「わ~い! ひゃっほ~!」


「駄目だ……。聞いちゃいねえ……。ていうか、俺が注意してから、明らかに故意でうるさくしている部分も見受けられるわ……」


「これは、後ほど各部署に騒いでしまったことを謝って周ることになりそうですね」


 やれやれ。これから大変なことになるなと、頭を抱えようとしたところで、周りの様子がおかしいことに気付いた。建物内の視線が、こちらに集中しているのだ。


 一体どうしたというのだろう。いつもは、俺の方など見向きもしない警備の連中が、襟を正して挨拶してくるではないか。いや、俺に対してではない。連中が声をかけているのは……、城ケ崎?


 見間違いではない。確かに、みなの意識が城ケ崎に集中している。まるでお偉いさんが訪ねてきたかのような眼差しで、仕事の手を止めて、凝視している。


 新入りのこいつに対して、そこまで畏まる理由は分からんが、一斉に敬礼しているではないか。送迎の車が、突如豪華になったことといい、ただのニートとは思えなくなってきた。敬礼のアーチの中を歩きつつ、俺は本人に恐る恐る問いただしてみることにした。


「なあ……。お前って、実はとんでもない金持ちなのか? ニートをやっていたのも、一生遊んで暮らせるだけの金があって、働くのが馬鹿馬鹿しくなったからとか?」


「は、ははは……。何を言っているんですか! 僕は親友の家に寄生するだけが脳の、ただのニートです。それ以上でも、それ以下でも……、ありません」


 きっぱりと否定したが、最後の方で、言葉に詰まったのを、俺は聞き逃さなかった。どうも城ケ崎は嘘をついているな。本当に金持ちだったとしても、ほんの少ししか接し方を変えないので、包み隠さずに話してくれて構わないのに。ともかく本人に話す気がない以上、食い下がっても仕方がないので、これから共に仕事をしていく過程で、何かにつけて探らせてもらうとするか。


「……む?」


 またも感じる、警備の連中からの視線。しかも、城ケ崎とは別の人物に向けられている。連中が次に注目しているのは……、シロだった。


 城ケ崎への不可解ともいえる歓迎ムードだけでも混乱しているのに、シロにまで奇異の視線が向けられるとは……。いや、訝しることではないか。スーツ姿の幼女が、職場に胸を張ってやってくれば、それはおかしいと思うわな。そうでなくても、シロがさっきから叫びまくっているのだ。これでは、うるさくて、顔をしかめたくなる気持ちも分かる。


 だいたいシロはここでは異分子なのに、堂々と振る舞いすぎなんだよ。親の職場にくっついてきた子供の如く、もじもじと可愛らしく振る舞っていれば目立たないのだ。


 そう解釈しようとすると、今度はひそひそ話まで始まった。警備員たちのイライラは、思っていたよりも深刻なのかと心配になったが、どうも様子がおかしい。


 シロを見る目が、敵意丸出しというか、動物でも見るかのような眼差しなのだ。「逃げ出した」とか、「急いで捕まえなければ」とか、不穏な会話まで聞こえてくる始末だ。


「何で『アルル』が外に出ているんだよ……。地下で身動きが取れないように、厳重に縛りつけている筈だろ……?」


 警備員の一人が呟いた『アルル』という名前が気になった。『アルル』って、誰? 聞いたことのない名前だな。もしかしてシロは『アルル』という子と間違われているのか? だが、シロには縁の深い人物のようだ。『アルル』という言葉が聞こえた途端、それまで威張りくさっていたシロの表情が一変したからだ。


「おぬしら、さっきからうるさいぞ! 黙って仕事に集中せんか!!」


 『アルル』とは何者か聞こうとしたところで、爺さんの怒声が木霊して、周囲が静まり返った。さっきまで話していた警備員たちはもちろん、俺や城ケ崎まで呆気にとられて立ち尽くしてしまった。


 不穏な空気を察した爺さんの一喝で、噂話はひとまず収まったのだが、みんなまだ何か言いたそうな顔をしている。爺さんを見ると、不機嫌そうにぶつぶつと愚痴をこぼしている。この様子じゃ、『アルル』について質問するのは、憚られてしまうな。


「『アルル』というものに対しては、時期が来たら、知ることになりましょう。今は聞いてくださいますな」


 俺の心を見透かされたように、釘を刺される始末だ。ここまで心中を察せられてしまっては、引き下がらざるを得まい。とりあえず分かったことをまとめると、シロとそっくりな何者かが、この建物に収容されているということか。


 自分のそっくりさんがコレクションとして愛でられているというのは、どういう心境なんだろうな。きっと不機嫌になっているだろうと見てみると、やはり口をへの字にして、頬を膨らませていた。感情が分かりやすい。


「本当に失礼な人たちだよね。人違いだっていうのに!」


「そうらしいな」


 お前の量産型なのかとうっかり聞きそうになったのを、直前で堪えた。ほら、RPGでは、色違いの敵キャラとか、よく出てくるじゃん。


 だが、どちらかといえば、騒ぎを起こす側のシロが、他人のやらかしたことの巻き添えを食らうなど、珍しいことだな。というか、シロのそっくりさんがコレクションの一つになっているということは、シロ本人も狙われているということではないのか? もし、シロを突き出したら、一億円をやると言われたら、ちゃんと突っぱねられるかね。


 こうして、異例のVIP待遇を受けながら、いつものパソコン部屋まで移動したのだが、ここも昨日までとは大きく様変わりしていた。同じ廊下を歩いて、同じ場所のドアを開けた筈なのに、明らかに部屋が広くなっている。具体的には、六畳一間だったのが、ざっと見ただけでも三倍の広さに膨れ上がっている。


「どうしました? 狐にでも化かされたような顔をしていますよ」


「狐か。もしかしたら、もっと強大なものに化かされているのかもしれないな」


「?」


 昨日までの物置部屋を知っている俺としては、異世界関連の力が働いているのは、容易に想像出来た。これも城ケ崎が同僚だから、起こったハプニングと思われる。


「何か腑に落ちないものがおありのようですけど、仕事を始めましょう。こんなところで呆けていたら、給料泥棒と蔑まれます」


「仕事熱心だな。良い心がけだよ」


 ちなみにシロは、三台あるパソコンの一つで、ネットゲームをいじりだしている。想定通り、働く気は皆無のようだ。まあ、こいつの見せ場はバトルの方なので、それまでゲームでもやらせて、大人しくしていてもらおう。


 さて。戦力的には、かなり心強くなったが、今日は何時に襲撃してくるだろうね。上手くいけば、あのフードの幼女も、捕縛出来るかもしれないと考えると、ほんのちょっと心が躍った。


密かに考えていること。作品のネタばれを登場人物紹介などに、人知れず追加して、黙っていたら面白そうだな。……まあ、やるかどうかは未定ですがね。もしかしたら、もうやっているかもしれませんが。

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