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ダンジョン+ハーレム+マスター  作者: 三島千廣
第2章「迷宮都市シルバーヴィラゴ」
71/302

Lv71「日記」

 






 一日目


 あまりに退屈なので今日から日記をつけようと思う。

 目標の隙を見て手帳に書き記す。

 もちろん、暗号文だ。どうせ、誰も読まないだろうが。

 両足を折損しているのでロクに動くことができない。

 目標を下男のように使って、ほどほどのところで処分しようと思う。

 疲れたので今日はここまで。


 二日目


 目標は男のくせにくだらないことをベラベラとしゃべっている。

 一日無言で通す。

 話すのは命令するときだけ。

 今日は身体を布で拭かせた。

 力の加減を知らないのかやたらと強くこする。

 私の肌を見て興奮しているようだ。

 処理はしない。クセになるから。

 今日はここまで。


 三日目


 目標は思ったより隙を見せない。

 殺気を消して近づいても後一歩のところで気づく。

 懐に入れば簡単だと踏んでいたが、計算違いだ。

 足さえ動けば造作もないのに。

 傷が疼く。

 眠れない。少し熱が出たようだ。

 今日はここまで。


 四日目


 朝起きると目標が目の前にいた。

 反射的に殴ってしまう。

 目標がいうには、一晩中傷を冷やしていたそうだ。

 うかつだ、気づかないなんて。

 そういえば、熱が引いている。

 愚かな男だ。お前の命は私の気分次第なのに。

 今日はここまで。


 五日目


 今日も肌を拭かせる。

 この中は案外と熱がこもるくせに、明け方は冷え込む。

 男は私の肌に布を当てながらひどく興奮している様子だ。

 そういえば、最後に処理してやってから、五日以上経っている。

 襲われてはたまらないので手で処理した。

 またくだらない世辞をいっている。

 今日はここまで。


 六日目


 男は自分の故郷の話をしだした。

 どんな遊びをしたとか、どんな食べ物が好きだったとか。

 私の反応はお構いなしに一方的にしゃべっている。

 どうやら、女性とほとんどつきあったことがないようだ。

 普通男は、どれだけの数を弄んだかを自慢したりするのに。

 正直なのか、馬鹿なのか。

 ふむ。

 少し、かわいそうになった。

 明日からは、少し暇つぶしに相手してやるか。

 今日はここまで。


 七日目


 今日は一日中雨。

 屋根がある分、いくらかマシだ。

 夕刻より少し熱が出た。

 これは、男が小用に立った際、隙を見て記している。

 私が喉が渇いたというと、谷川まで行って冷たい水を汲んできてくれた。

 たまには褒美を与えよう。手で処理してやる。

 うれしそうな顔をしていた。

 今日はここまで。




 八日目


 今日も朝から雨。

 暇なので物語をさせた。

 この男の故郷の物語だ。軟弱な話をしだしたのでダメだしをしてやった。

 ちょっと泣きそうな顔になった。

 ふむ。

 男はならばと、故郷の武将の話をしだした。

 オダノブナガ、タケダシンゲン、ウエスギケンシン、モウリモトナリなどだ。

 話をさせてみると、意外と男に教養があることがわかった。

 少なくとも下級層の、農民や職工にはない蓄積された知識を感じる。

 正直見直した。

 この男の故郷では、騎士のことをサムライというらしい。

 なるほど、話に出た四名の武将は確かにサムライらしい大貴族の騎士にふさわしい。

 この男もサムライの末裔だといった。

 ならば、納得がいく。下級貴族ならある程度剣も使えるし、教養もある。

 だが、不思議なことにこの男、文盲らしい。

 謎だ。

 私は、タケダシンゲンが好きだ。最期がはかなすぎる。

 明日はセタに旗を立てよ、か。

 今日はここまで。


 九日目


 今日も肌を拭かせた。

 背中だけ。前は自分で拭いた。なんだか気分が乗らない。

 男はやたらと私の身体に触りたがる。

 抱きたいのかと思ったが、そうではないらしい。

 よくわからない。

 手をぎゅっとされた。

 バカみたいに広くて分厚い大きな手だ。

 亡き父上を思い出した。

 ダメだ。使命を思い出せ。

 気分が下降する。

 今日はここまで。


 十日目


 暇なので唄を歌わせた。

 意外と上手でびっくりした。ドミニクが聞きつけて来て、踊りだした。

 小さな子はやっぱり無邪気だ。

 男は唄を褒めたら少し調子に乗ったので、調子に乗るなと、おもいきりけなした。

 泣きそうな顔になった。かなり楽しい。

 ドミニクが去ったあと、褒美に口で処理した。

 夜半、寄り添って眠る。

 これは、月明かりの中書いている。

 そもそもこの納屋は酷すぎるような気がする。大穴が空いたのだ。

 男にくっつくとあたたかい。

 もう眠る。おやすみ。


 十一日目


 男が戸口でヘレンと談笑していた。

 無表情な彼女が薄く笑っている。

 ひどく気分が悪い。

 今日は日記を書く気分じゃない。


 十一日目


 今日は一言もしゃべらなかった。


 十二日目


 今日もしゃべらない。


 十三日目


 いやだ……。


 十四日目


 あまりにみじめったらしく謝るので許してやった。

 仮にも夫婦であることを思い知らせるため、散々罵倒した。

 かなりすっきりした。

 けど、これだけではかわいそうなので、口で抜いてやった。

 七度目でようやく打ち止めだ。

 久しぶりに肌を拭かせる。目が獣のようにぎらついている。変態め。

 夜半、どうしても気持ちが高ぶって、三度も慰めてしまった。

 声を聞かれなかっただろうか。少し、心配だ。

 月明かりで記す。

 久しぶりにぐっすり眠れそう。

 今日はここまで。


 十五日目


 今日は朝から快晴。

 身体を清めるために小川へと移動した。

 男は楽々と私を担ぎ上げると、鼻歌混じりで歩き出す。

 少し日差しが暑いが冷たい水が気持ちよかった。

 こういう日もたまにはよい。

 足の傷はまだ痛む。

 気分がわずかに晴れた。


 十六日目


 男が軍盤を持ってきたのでルールを教えてふたりで差した。

 知っての通り、軍盤とは六つのコマ、

 “王”、“将軍”、“参謀”、“勇者”、“騎兵”、“歩兵”、

 を使って相手の陣地を先に占領する古来よりロムレスに伝わるゲームだ。

 私もかつては女だてらに良く兄とこの軍盤を楽しんだ。

 いささか自信があったが、男は意外と飲みこみがよく、

 ルールを覚えるとある程度かたちにはなりつつあった。

 だが、さすがにまだ勝負といえるレベルには到達しない。

 ふむ。

 明日から、少し鍛えてやろう。


 十七日目


 今日も軍盤を終日行う。

 男はようやくコマの動かし方を覚えたようだ。

 私が勝つたびに、歯噛みして悔しがる姿を見ているとすごく楽しい。

 ふふ。

 明日も揉んでやろう。


 十八日目


 おそらくマグレだろう。マグレだろうが、男が軍盤で私を負かした。

 ま、まあ、たまにはそういうこともあるだろう。

 負けてばかりではゲームはつまらないしな。

 こいつが飽きてしまうと、指す相手がいなくなってしまう。

 そう。わざと。

 私が負けたのはわざとなんだ。

 明日は、もう手を抜かない。

 メタメタにして、真の実力を見せつけてやろう。

 ふふ。

 あいつの泣いて悔しがる顔が目に浮かぶぞ。


 十九日目


 メタメタにされた。

 なんでだ、ありえない。こんなことないだろう。

 ちょっと、待て。少なくとも私はこのゲームを十年近くやりこんでいる。

 ルールも定石も知り尽くしている!

 はは、そうか。

 あれだな、素人がメタメタに動かすから、

 私のような正道を行くものはマレに混乱するのだ。

 うう。

 ちょっと、涙目になってしまった。

 明日こそは、どっちが上か頭に叩きこんでやる!!


 二十日目


 どっちが上か叩きこまれた。

 気持ちが異常に沈む。

 待ってといったのに、待ってくれなかった。

 私は女なんだぞ。手加減してくれてもいいじゃないか。

 あんなに笑い転げるなんて。

 クランドなんか、嫌いだ。


 二十一日目


 誰だ、軍盤なんてつまらないゲームを考えたバカは。

 もうやらない。

 クランドは愚かだな。こんな幼稚なゲームにのめりこむなんて。

 そもそも、私のような淑女はこんな野蛮な遊びはしないものだし。

 やらないし、好んだ事実なんてなかった!

 なかったんだ!


 二十二日目


 軍盤のコマとボードを破壊した。

 こんなものがあるから争いになるんだ。

 これでよかったんだ、これで。


 二十三日目


 クランドと口論になった。

 ささいなコトだ。

 きっかけがなんだったか、わからない。

 足が自由にならないので、気分が悪く、つい当たってしまう。

 最終的には、私が一方的にクランドを罵るカタチなってしまった。

 あいつは、悪くない。

 すごく、ひどい言葉をぶつけてしまった。

 後悔しているけど、うまく謝れない。


 二十四日目


 上手くクランドに謝れない。

 気を使っていつもどおりに接してくるが、無視してしまう。

 私が返事をしないたびに、クランドの顔が歪む。

 こいつは、やさしいやつだ。

 見た目はガサツそうなのに、肝心なところはひどく繊細だ。

 仲良くしたいの。

 でも、うまくできない。

 やだよ、こんなの。


 二十五日


 クランドがヘレンと物干し場で仲良く喋っていた。

 頭の中がカッとなって罵りそうになってしまったが、なんとかこらえる。

 どうしよう、すごく胸が痛い。

 痛い、痛い、痛いよ。

 やだ、やだ、やだ。


 二十六日目


 書けない


 二十七日目


 書けない


 二十八日目


 書けない


 二十九日目


 もうヤダ。


 三十日目


 カッとなってドミニクを怒鳴った。

 完全にやつあたりだ。

 クランドが怖い顔で私を睨んだ。

 なんで、ちがうよ。ちがうんだよ。

 許して。私、そんなつもりじゃなかったの。


 三十一日目


 機嫌を取ろうと処理してやろうとしたら、手を払われた。

 すごく屈辱なのに、怒りよりも悲しみが大きい。

 ああ、やだよ。どうすれば、いいの。

 こういう場合。

 こんなとき、どうすればいいか、誰も教えてくれなかったの。

 どうしよう。

 どうしよう。


 三十二日目


 外は小雨。

 クランドが外出している際、なんとなく涙がこぼれだした。

 あいつのまえでは泣かないようにしていたのに、遊んでいたドミニクに見られた。

 ドミニクは、気を使って私を慰めてくれた。

 ああ、私はこんなに弱い女だったのだろうか。

 こんな小さな子に気遣われるなんて。


 三十三日目


 仲直りできた。よかった。

 それから、それから、キスをした。

 すごくやさしかった。

 いつもどおりにしていたが、うまくごまかせただろうか。

 うれしい。すごくうれしい。

 きょうはいい日。


 三十四日目


 足の痛みはだいぶ引いたが、直接地面につけるとじんじんとする。

 いままで不覚を取ったことがないとはいわないが、ここまで重症なのは、はじめてだ。

 クランドは気を使っていろいろと話しかけてくれる。

 今日で、三十四日目だ。

 なんだか生まれたときからずっとこうしているみたい。

 朝起きて、あいつがいないと、すごく不安になる。

 別に、怪我治らなくてもいいかも。

 ここにいる限り、外の世界のことを考えなくてもいい。

 すごく、楽だ。

 こんな日がずっと続けばいいのに。


 三十五日目


 風邪を引いたかもしれない。

 頭がぼーっとする。

 上手く字が書けない。

 眠い。

 クランド。


 三十八日目


 熱が引いたので、いまこれを書いている。

 だいぶ身体が楽になった。

 クランドが医者からもらってきた薬は、にがい。

 にがいのは苦手なんて知られたくない。

 無理をして呑みこんで咳きこんでしまう。

 夕方、クランドが桃を持ってきてくれた。

 川の水で冷やしてあり、きゅっとして美味しい。

 感想を述べたら笑われた。

 かわいい、だなんて。

 そんなこといままでいわれたことがない。

 恥ずかしくて、つい手が出てしまった。

 私、かわいいのかな。

 胸がモヤモヤした。


 三十九日目


 クランドに内緒で足のリハビリを行う。

 痛みはあまりないが、動こうとするとクランドがやたら心配するのだ。

 ので、隠れてこっそり行う。

 大丈夫なのに。

 でも、治ったら……。

 いまは考えるのよそう。


 四十日目


 やはり、薄々感づいていたのだが。

 少し肥えたような気がする。

 薄く、腹の皮がつまめる。

 なんて、ことだ。

 寝てばかりの生活なら仕方がないのだが。

 このまま、豚のように肥えたらクランドに嫌われる。

 どうしよう。

 痩せなくては!


 四十一日目


 足を使わない鍛錬をはじめた。

 腹筋、背筋、肩や、腕の筋骨を鍛える。

 特に気なるのは腹まわりだ。

 じっとりと汗が染み出るほど、負荷をかけながらゆっくり行う。

 無理をするなといいつつも、クランドの目がケダモノになっていた。

 いくらなんでも、この状態ではアレなので、冷たい水で念入りに汗を流した。

 なぜか、クランドががっかりしていた。


 四十二日目


 アレが来た。

 前回は軽かったが、今回は重い。

 気分が悪い。

 きょうはおしまい。


 四十三日目


 ほっといて!!


 四十四日目


 だいぶ気分がいい。


 四十五日目


 ダメだ。

 波が。


 四十六日目


 アレが終わった。

 期間中は、ずいぶんとひどい物言いをしてしまった。

 クランドは気にしていないといったが、こっちが気にする。

 やさしくしよう、やさしくしようと思うが、どう振る舞えばいいのだろうか。

 とりあえず、口でしてあげた。

 喜んでくれた。

 よかった。


 四十七日目


 夕食後、ふたりで外に出て星を眺めた。

 こうして心静かに空を見上げるなど何年ぶりだろうか。

 少し風が寒いな、と思っていたら抱き寄せてくれた。

 広い肩に、力強い腕。

 抱きしめられていると安心する。

 クランドはいままで私が知っている男とはまるで違う。

 ずっと、こうしていたい。

 ずっと。


 四十八日目


 クランドには毎日良くしてもらっている。

 なにかお礼がしたい。

 ということで、外套を縫うことにした。

 実は、こう見えて私は家事や裁縫は得意なのだ。

 材料の入手はヘレンに頼んだ。

 使い道のない金貨などぜんぶくれてやっても惜しくはない。

 かなり上等な衣が手に入った。

 さあ、がんばるぞ!


 四十九日目


 クランドの隙を見てひと針ひと針縫う。

 あいつは意外とじっとしていないところがある。

 常にチョコチョコ動き回っているのだ。

 子供みたいだ。

 子供。

 最近、余計なことを考えすぎるようだ。

 集中しなくてはならない。

 集中。


 五十日目


 手慰みにはじめた日記がここまで続いてしまった。

 そもそも、私は日記を読み返す性格ではないし、

 ならばなぜ付けているかと思うとわからなくなる。

 鍛錬は依然として続けている。

 クランドが冗談混じりにからかってくる。

 苦しませずにサクッとやってくれよ、などといった。

 すごく悲しくなった。

 ばか。


 五十一日目

 毎日蒸し暑いはずだが、今日のように雨が降り続けると若干肌寒い。

 クランドと並んで昼寝をした。

 腹を丸出しにして寝ている。

 風邪を引くぞ、まったく。

 子どもが出来たら、私もこんな風に毎日を過ごすのだろうか。

 ありえないことを考えると、胸の奥がきゅっとする。

 クランドが寝ているあいだに針を進める。

 しかし、すごく熟睡している。

 こいつは、もう私のことを危険ともなんとも思っていないのだろうな。

 たぶん、もう、殺せそうもないよ。


 五十二日目


 痺れもないので、クランドに手伝ってもらって当て板ごと足を動かす練習をした。

 とはいえ、固まりきった筋をちょっとづつ伸ばす程度だ。

 板を外して見ると、自分でもわかるくらい足の筋肉がやせ細ってしまった。

 代わりといってはなんだが、上半身はかなり鍛えこんでいる。

 胸だけは痩せないようにしないと。


 五十三日目


 昼食時、クランドが遊び食いをしてスープをこぼした。

 少し赤くなっているのを見て、思いきり叱りつける。

 すぐ治るとか、そういう問題じゃない!

 こいつは、私が見ていないとすぐ死にそうな気がする。

 不安だ。


 五十四日目


 クランドの国の文字について教えてもらった。

 思ったより、深い学識を有していることがわかった。

 隠してはいるが、おそらく貴族階級の人間だろう。

 さもありなん。

 多岐に渡った知識がそれを示していた。

 そこはかとない奥ゆかしさを感じる。

 謙虚な男だ。

 もし生まれ変わることが出来たら、

 ガッコウという場所へいっしょに通ってみたかったな。


 五十五日目


 ニホンゴというのはかなり難しい。

 いまは、カタカナというのだけを教えてもらっている。

 木の箱に入れた砂に、教えてもらったカタチをいくどもなぞる。

 ときどき、クランドの指が触れると顔がカッと熱くなる。

 自分の名前が書けるようになりたい。

 少しでも、クランドに近づきたいから。


 五十六日目


 外套はほぼ縫い終わった。

 予想以上の出来に自画自賛。

 いつ、渡そうかな、と思う。

 タイミングが難しい。

 こっそりと、一箇所イタズラをしておいた。

 どうせ、字が読めないから気づくわけもないだろう。

 喜ぶ顔が目に浮かぶ。

 喜んでくれるよね。


 五十七日目


 正直なところ、足の怪我はほとんど完治している。

 だけど、治ったら終わりが来てしまう。

 いやだ、そんなのは。

 クランドが寝静まったあと、小屋の外に出て、もう一度足を折ろうかと思案する。

 石を握ったまま、気づけばかなりの時間が経っていた。

 ダメだ。

 おそらくクランドはすぐに気づくだろうし、そんなことをすればきっと悲しむ。

 苦しくてたまらない。

 寝床に戻って、しがみつく。

 ぎゅっと抱き返してくれた。

 こうして、ずっと眠っていたい。

 いつまでも、ずっと。


 五十八日目


 明後日、馬医者が峠を越えて来るらしい。

 治ったことがわかってしまう。

 怖い。


 五十九日目


 明日だ。


 六十日目


 治ったとそれだけいって医者は去っていった。

 クランドがリハビリのために、杖と履物を用意してくれた。

 やさしいけど、悲しい。

 クランドとふたりで外に出て、風に当たる。

 最高の気分だ。

 なのに、あんなことになってしまうなんて。

 ばかだ、おまえは。

 私をかばう必要なんてなかったのに!!

 こんなにボロボロになって。

 悲しくて、つらくて、胸が壊れそうになった。

 いっしょに来ないかと誘ってくれた。

 うれしいけど、行けない。

 私には、家名を守る使命がある。そのために、今日まで生きてきたんだ。

 クランドは少年のように夢を語った。

 大迷宮に潜ってお宝を見つけるんだと。

 キラキラした瞳はまぶしいくらいに輝いて見えた。

 そうだ。私は、この光に心底惹かれたんだ。

 夜、クランドと契を結ぶ。

 ひとつになれて、よかった。

 外套もちゃんと渡せた。

 ずっと、いっしょだからね。


 日付不明


 延々と意味をなさない殴り書きが続く

 これを最後に、以下は空白のページのみ。













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― 新着の感想 ―
[良い点] 滅茶苦茶いい章だった 細かい表現でうまくシズカの心境の変化や二人の関係を表している 日記という形で主人公のセリフがない一人称視点なのもまたプラス方向に味がある [気になる点] 普通なら前回…
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