LV21「仮面夫婦」
「あー、えがったぁ」
弛緩した声に、シズカが股間から顔を上げた。彼女は、不意に蔵人を突き飛ばすと起き上がって背をそむけ身繕いをはじめた。
(行為の最中とすぐその後はとろんとした顔してたくせに、女というのはよくわからん)
蔵人は甘えてみたかと思うと、急に不貞腐れてみせる彼女の態度に戸惑いながら、水差しを渡す。シズカは、口中の残滓を洗い流すと、再び表情を消して黙りこくった。
「勘違いするなよ。さっさと済ませたかっただけだ」
「んんん? ちょっと、いってる意味がわからないですね」
「もういい。ひとりにしてくれ、少し休む」
「あー、はいはい。わかりました。じゃ、ちょっとそのあたりをブラブラしてくるんで」
「とっとと行け。いや、ちょっと待て」
首だけ振り返ると、足と足を擦り合わせ、もじもじする姿が目に入る。先ほどには見せなかった、少女らしい恥じらいだ。それまでのはっきりとした口調ではなく、判然としない小さな声でもごもご呟く。焦れた蔵人は、唇を尖らせた。
「なんだぁ、用があるならはっきりいってくれ」
「その、小用だ」
「小用? ああ、しょんべんか!」
勢いのついた陶製の水差しが頭を直撃した。蔵人はその場に片足を突いてうめく。
「失敬、お花摘みでござるな」
「無駄口を叩くな」
「あー、はいはい」
もはや隠しようもなく真っ赤に頬を染めたシズカに近づくと、怪我に触らぬよう慎重に横抱きにして立ち上がる。いわゆるお姫様だっこだった。
「なんのつもりだ。おまえじゃなく女手を寄越せ」
「そんな大層なもんはねえよ。アルフレッドの奥さんは、昼間は名主の家に賃稼ぎに出てるんだ。おまえの世話は俺がするっていったろ」
百八十を優に超える蔵人にとって、百五十半ば程度の背丈しかないシズカは羽毛のようなものだった。もっとも、金のために肉体労働のバイトばかりしていた蔵人は同世代の学生よりはるかに筋力が上だったということもあったが。
小屋の木戸を開けて屋外に出ると、向かって左手に雑木林が見えた。遥か遠景に粗末な百姓屋が点在している。この時間は、誰もが野良に出ているのだろうか、隣の家からも人の気配はしなかった。
「不本意だ」
「文句ばっかいうな。俺はいま、奉仕の精神に目覚めている」
「なぜ、林の中に向かう。おまえは、人の話を聞いていたのか」
「……いいいんだよ、ここで」
「な、なっ、なにをする!」
蔵人は雑木林の茂みに入ると、少女の身体を持ちかえた。
すなわち、背後から、両足の太ももを持ち上げて、M字開脚をとらせる。
母親が、幼児に小水をうながす際にとる、しーしースタイルだ。
シズカは、あまりの事態に口をパクパクさせながら、視点を下ろした。
なんだか、すーすーすると思ったら、ショーツもつけていないではないか。
「おまえは、私の身体に、なにを」
「シズカってば、五日も目ェ覚まさなかったですしおすし。その間なんて、下はジョビジョバ大洪水だったんだぜ。いや、往生したよ。介護って、甘いもんじゃねえよな。んで、何回も濡れションぱんつちゃんとっかえるのメンドイんで。……そこで、ノーパンですよ。下着はいま洗って乾かしてるからさ。ま、気にするな。礼には及ばないってことよ」
シズカの顔が、羞恥と怒りで火照った。
「この――」
せめて抗議しようと身をそらそうとしたとき、露わになったシークレットポイントが外気にさらされたせいか、羞恥で忘れていた尿意が爆発しそうになった。
「あっ。おい、下ろせ。早くどっかいけ!」
「んんん。聞こえんなぁ」
「いまならまだ許すから、許してやるから、ほら、だから」
「まったく聞こえませんなぁ」
蔵人は鼻歌を歌いながら、シズカの身体を上下にゆさぶり続ける。少女の下っ腹は自重の衝撃で激しくノックされ、我慢の喫水線をいとも簡単に割り切った。
「おい、ゆらすな、やめろ、出る、出るからっ、ゆらすなっていってるだろうがあっ、あっ」
「それ、しーしー」
「わ、わかった! 私が悪かった。な? な? 早まるな? なあああっ!?」
「しーしーしましょうねぇー」
声が笑っている。悪魔だと、シズカは思った。
「おー、すっきりすっきり。よかったな、はは」
シズカは、自分を抱えながらひと仕事終えたぜオーラを放出している男を、絶対に殺すと心の中で決めた。
蔵人はシズカを人形のように抱え上げると、傷にさわらぬよう丁寧に運びながら小屋に戻った。シズカは作り物のように脱力していた。
「これはクランドさま」
小屋の戸口で、粗末だが手入れの行きとどいたチュニックを着た、二十五、六ほどの婦人に会った。
アルフレッドの妻、ヘレンだ。
明るい茶の髪を肩口で切りそろえている。
眼差しは昏いがどこなく儚げで、いかにも男の庇護欲を誘う印象があった。子供をひとり産んでいるとは思えないほど、ほっそりとした身体つきをしている。五十年配であるアルフレッドとは親子ほどの年の差があった。
ヘレンはかつてアルフレッドと同じ貴族に使えていた侍女らしく、ただの農婦らしからぬ洗練された所作があり、この農村には不釣合いな存在だった。
「これは、手間をおかけしまして」
蔵人は頼んでいた衣服の洗い物を受け取る際、手が触れ合った。白くつやめいたすべすべした感触に片眉をを上げる。ヘレンは恥じらう素振りを見せ、小さく肩を震わした。
蔵人はシズカを抱いたまま頭を下げる。ヘレンは、少しだけ目を見開くと再び視線を伏せた。それは、貴人に仕える者にありがちな長年の習慣だった。
ヘレンは実に口数少なく、静かに目礼すると母屋へと去っていった。
余計なことは喋らない性質なのか、整った容姿ではあるが、なんとなく陰鬱な感じがしないでもない。だが、ひどく視線を惹きつけてやまない部分があった。
「なんでもいいのだな、まったく」
腕の中のシズカが鼻を鳴らす。嘲るような態度にたじろいだ。
「なんだよ、急に」
「気分が悪い、下ろせ」
「わあーったよ、ったく」
なんだかんだいって、戸口に運ぶまでは落ち着いていた彼女の態度の急変をいぶかしみながら、そろそろと小さな身体を横たえさせた。
シズカは、長い髪を弄びながら、切れ長の目を釣り上げる。美人が怒ると恐ろしいというが、視線にはかつてない熱が篭っているのを蔵人は感じた。
「ちょっ、なぜ睨むん?」
「睨んでなどはいない。おまえも、道端にゴミが落ちていれば自然と気分が悪くなるだろう。それと同じだ」
「おいおい、こんなに献身的に接してる紳士に向かっていうにことかいて」
「おまえのいう紳士とは、他人に性器を見せびらかしたり、排泄行為を人前でさらしたりして性的興奮を得る異常者のこというのか」
「わかったよ」
蔵人は、口の大きな陶製の物体を突き出すと頬を掻いた。
「なんだこれは」
「しびんだ」
「そうか」
「あれ、もしかして使い方わからない?」
「いや、理解した」
シズカはボロ切れを巻いてしびんをつかむとおもむろに振りかぶった。
「あーっちょっと待ったぁ! それ、中に入ってるからぁあっ! シズカたん汁たっぷり百二十パーセント黄金水満載してるからああっ」
「この、変態がっ! 私の、それを集めていったいなにをっ」
「誤解だからって、俺は変態スカトロマニアじゃねえからっ」
「こんなものがあるのに、あんな屈辱的な格好を! やっぱり、いますぐ殺すっ」
蔵人は、しびんを投げつけようとしているシズカから飛び退くと、身をかばうようにして身体を縮める。
「なあーなあー、兄ちゃんたちなにして遊んでるんだ。おいらも混ぜてくれよう」
一触即発のふたりの行動をなにかの遊びと勘違いしたのか、小屋の戸口で様子をうかがっていたドミニクが好奇心一杯に近寄ってきた。
シズカは咳払いをすると、藁の上の毛布に寝転び、蔵人を手招きした。当然のようにドミニクもついてくる。シズカは猫なで声を出すと、ドミニクを上手く遠ざけた。酷いストレスだった。
「なんでせうか、おじょうさま」
「寝る。いいか、あの小僧を連れて日が落ちるまで戻ってくるな」
「はい」
「それと、財布は置いていけ」
「はい」
肯定以外の返答は許されない蔵人であった。
ポルボは小さな村だった。
軽車両一台通れないような道がだらだらと続いている。畑と畑の間に、ぽつぽつと粗末な板塀や、泥壁の百姓屋が申し訳程度にあった。これらから類推するに、アルフレッドは元騎士というだけあり、村内では裕福な部類に入っている。ドミニクに聞くと、アルフレッドが身体を壊してからは、常に寝たり起きたりの毎日を送っているらしい。
妻のヘレンが、村の名主の家の手伝いをすることでようやく口に糊することができている状態だった。
自分が食うや食わずのときに人を居候させるとは、中々できないことである。
そもそも、俺自身は別に怪我人でもなんでもないんだよなぁ。
蔵人は、召喚されてから、ようやく今日までのことを振り返るゆとりが出来た。
(とりあえず、なんだっけ? 出会い系サイトで一発抜こうとしてたんだよな。んで、わけのわからないセイウチが出てきて、気づいたらこの世界にいた。牢屋にぶち込まれて、カマ野郎をぶっ殺して、マリカと別れて、ハーフエルフの子供の面倒を見て、謎の人買い軍団をぶちのめして、あーにしても、ドロテアのおっぱいもんどきゃよかったなぁ。んんん? そもそも、なぜ追われてるんだ? 確か、召喚が失敗で、わけのわからんゴタゴタに巻き込まれて。日本に帰る道を模索したほうがいいのか? でも、あんま戻っても意味ねえしなぁ。面白くもねえし。この世界の方がヤバイけど、いろいろ無茶苦茶できるし。シズカにはしゃぶってもらっちゃったし、そう考えると、こっちのほうがアリか?)
「なあーっ、なあーってば!」
「うおっ、なんだぁ? ああ、すまんすまん」
蔵人が追憶に耽っている間に、ふたりは村はずれの川辺に到着していた。
「さかなとりしよう、兄ちゃん!」
「あー、そだったそだった。魚たくさんとって母ちゃんや、父ちゃんに見せてやろうな」
「うん」
ドミニクは、亜人特有のケモノ耳をぴこぴこ動かしながら、両手を振り回して喜んでいる。蔵人はこの川まで来る途中で何人かの村人を見かけたが、彼らがドミニクを見る目はどれも差別的なものだった。アルフレッドとの会話を思い出し、蔵人は口中に苦いものを噛み締めた。
アルフレッドは、獅子の頭と人間の体を持つ、獅子族の亜人で、昔はその武勇を買われて騎士としてとある貴族に仕えていた。
けれども、代替わりした貴族の嫡男とはソリが合わず、侍女であったヘレンと駆け落ちの形でこの村に落ち着いたらしい。
ポルボ村は、ヘレンの母の生まれ故郷であったらしいが、系累はほとんど残っておらず、名主のフェデリコの度量にすがるしかなかった。騎士として持ち出した財産はほとんどなく、おまけにアルフレッドは逃走の際に、貴族の追っ手と戦った傷から病気になり、不具同然の身体になってしまった。
そんな中、妻のヘレンとの間に生まれた、ドミニクは一家にとっての希望だった。
ほとんどゆかりの無いヘレンに賃仕事をさせ、見合わぬ金穀を定期的に与え続ける。
一種の社会福祉とはいえ、それだけ聞けばフェデリコは大度量の人物といえた。
だが、そんな彼ですら村に根づく差別の温床を払底することなどできないのだ。
本来、亜人は亜人だけで固まって暮らし、人間との間に子が出来るケースは、貴族や富裕層などが見目麗しい使用人や奴隷に手を付け、一方的に孕ませるといったことがほとんどだ。
ありていにいえば、口には出さないが、人間族は亜人、特に獣人を一段低く見ていたことにほかならない。
獅子族は、敏捷性や筋力、勇猛さなど人間よりはるかに優れているが、それらはマイナスとしか映らなかった。
歴とした人間のヘレンが、獣人の子を孕み、あまつさえ産み落とした。こういった差別に対する侮辱は閉鎖的な空間では長く続くの通例で、村の子供たちもドミニクという少年を混血として見、仲間になど加えない。父親に遊んでもらえばいいのだろうが、病に伏しがちではなかなかそうもいかない。ドミニクが歳の近い蔵人に妙になつくのも無理はなかった。
蔵人は、ドミニクと川原で魚を漁ったり、石切りをしたりしてたっぷり遊んだ。
お昼は、釣った魚を焼いたり、持ってきた黒パンを炙り直したりして胃に納めた。
輝き続けていた陽がやや陰った。おおよそ、午後三時くらいだろうか、見当を付けると蔵人はしぶるドミニクをうながし、撤収の支度を始めた。
帰り際、ドミニクは両手いっぱいに紫色の花弁を抱えて運んでいた。蔵人が聞くと、この花はすり潰して塗ると打ち身によく効くらしい。
「姉ちゃんも早くよくなって、こんどはおいらたちみんなでこよな!」
「ふふ、こやつめ」
蔵人がドミニクの頭を撫でると、くすぐったそうに目を細める。アルフレッドがかわいがるのがよくわかった。ドミニクを抱え上げるとギュッと抱きしめた。大柄でもまだ六つなのだ。ふかふかしたドミニクを抱きしめると、お日さまの匂いがした。構ってもらえるのがうれしいのか、ドミニクは手足を振り回しながらきゃっきゃっと奇声を上げてはしゃいだ。
蔵人は、あぜ道をシズカのいる小屋に向かって歩いていた。なだらかな坂の上にヘレンの歩いている姿があった。当然のところ、ドミニクが駆け寄るか声を掛けるかするだろうと思っているうちにヘレンの姿がどんどん遠ざかっていく。向こうから気づいたのか、蔵人に向かって軽く頭を下げた。だが、その姿はわざと息子の存在を無視しているようにも思えた。
「おい、母ちゃんに声くらいかけたらどうなんだ」
「うん。でも、名主さんのところへいくときには声かけちゃダメだって」
ドミニクの獅子耳がぴょこんと力なくうなだれる。不意に、耳へと鍬の手を止めて話し出す百姓の会話が聞こえた。
「見ろ、ヘレンのやつがいくぜ」
「まったく、あいつもうまいことやっただ。あの獣野郎の旦那はアッチのほうはいかんらしい」
「野良着と変わらんもの着てても、まったくウチのカカアとは大違いだ」
「さすがお貴族さまのお慰みものってもんだ。一度手合わせしてもらいてえや」
「旦那も旦那だ。あんな片手間仕事で、銭コが手に入るわけねえだに。知らぬは、亭主ばかりなりってか」
「三日に一度は、すす払いってわけか、やい。ひひひ、名主さまのすりこぎ棒もなくなっちまうぞ」
「ったく、ガキこさえた身体にゃ見えねえだ。押さえつけてひざまずかせて、喉の奥までオラのもんを突っ込んでやりてぇだ」
「もっとも、名主さまのお気にいりだ。おめ、そげなことしたら、もう村にはいられねっぞ」
「きひひ。そいつはちっと困っただ。だが、一度くらいヘレンみてえなべっぴんさんと一戦まじえてみてえや」
「名主さんも、いろいろあるだよ。三十そこそこで婿に来て、さんざん舅にいじめられて。その上、奥方には先立たれて。四十の坂越えて残ったのは七つになるレオナお嬢さまだけ。いい気晴らしくらいにはなっただ」
「もしかすると、後妻に収まろうって寸法じゃなかんべぇ、あっ」
ふたりの農夫は、蔵人とドミニクの姿を見つけると慌てて畑へ戻っていった。
ドミニクも、話の内容は理解してはいないが、母親を悪くいわれているのだけは理解できたのか、うつむいたまま目に涙をためていた。
「バカ、男がいちいち泣くんじゃない。おまえは、アルフレッドの、獅子の子だろうが」
「うん。おいら、獅子の子だから、どんなにつらくても泣かないよ」
繋いだドミニクの手をぎゅっと握り締める。ふと、違和感を覚えて自分の手を開いてみたがなんともなかった。
蔵人は、母屋に居るアルフレッドの所へドミニクを届けると、なんとなく気になって名主の家に向かった。
元々が小さい村であるし、名主の家はひときわ目立って豪奢な造作だったので苦労せずにすんだ。
妙だな、やけに目つきの悪い奴がゴロゴロいるぜ。
あきらかに農夫とは思えない、武装した男たちが庭をうろついているのを見て警戒せざるを得なかった。正面から、ヘレンのことを聞いても埒があかなそうな雰囲気だった。
つーか、お話できそうな人たちじゃないよね、こいつら。
蔵人は、斥候兵さながら、家の周りをぐるりと囲む石垣を一周して、人の気配がない場所を探し当てると、忍者さながらに乗り越えた。男たちは、別段この家を警備しているわけではないらしい。守備的にいえばザルだった。だが、見つかればただでは済みそうもない。蔵人は、農夫たちの噂話をただの根拠のないやっかみだと思いたかった。
アルフレッドは、蔵人とシズカを助けてくれた命の恩人であるといえる。この話は嘘でなければ気分が悪すぎるし、正直な所、確かめなければ落ち着いて今夜は眠れそうもない。
ただ、普通に働いてるところだけちらっと見れれば充分なんだよ。
蔵人は、厩舎らしき前に来ると、厩番らしい中年の男が手持ち無沙汰にぶらぶらしているのを見つけた。不審に思い、壁からそっと様子をうかがうと、緊張な面持ちのヘレンの肩を抱いて、四十年配の恰幅の良い男が厩舎に入っていく。いつものことなのか、厩番は男に頭を下げると、歳には似つかない速さで駆け出していく。
あの男が、たぶん名主のフェデリコだろう。男の紺色の頭巾がやけに印象に残った。
「んっ、フェデリコさま……」
「随分わたしを待たせるじゃないか、ヘレン。そんなに厳しくお仕置きをされたいのかい?
悪い子だ」
蔵人は、物陰から目を見開くと咄嗟に口元を手で塞いだ。
厩舎の中で、フェデリコとヘレンが恋人同士のように立ったまま抱き合い、くちづけをかわしているのが見えたからだ。
フェデリコは、かなり大柄な男だった。背丈は百九十を超えているだろう。小柄なヘレンの身体はすっぽりと両腕におさまる形になっていた。ふたりは、互いに舌をねっとりと絡ませながら唾液を交換している。それは、無理矢理という言葉は当てはまらない情熱的なものであった。
「だ、だめです。フェデリコさまぁっ……ああっ」
「そんなこといって。今日は三日ぶりの逢瀬なんだよ。待ちきれなくて、ホラ、君のここだってこんなに」
「いやっ」
もはや誰にも否定できない決定的な不貞であった。
蔵人は、昏い瞳で、ひとつになった肉塊から視線を離した。
両手には、ぐっしょりとした汗がしたたるように絡みついていた。




