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「まさか魔王を討伐せずに帰って来ることになるなんてな……」


 俺は王国に帰ってきた。

 久しぶりの王都は戦場とは違い平和で皆が幸せそうだった。

 なんで俺だけはこの王都に帰ってきたかというと、それは魔王の作戦だった。

 勇者である俺が魔王側と手を組んだ事を隠し、王都に侵入。

 魔王は討伐した事にして、王国内の貴族や権力者から同士を探し出し、仲間に引き入れるのが作戦だ。

 俺一人で来た理由は他の仲間が生き返った事を知られないためだ。

 

「え……勇者様!?」


「あ、勇者様だ!」


「勇者様! 勇者様が帰ってきたぞぉ!!」


 王都内に足を踏み入れて直ぐに俺の回りに王都に住んでいる皆が集まって来た。

 皆きっと俺が魔王を討伐して帰って来たと思っているのだろう。


「皆ただいま」


「勇者様! 魔王を討伐されたのですね! しかし、他の仲間は?」


「流石勇者様だぜ!」


「これで安全に暮らせるのね!」


「あ、あぁそうだよ」


 嘘を付くのはあまりいい気分ではない。

 しかし、これも魔族と人間の未来、そしてこの世界のためだ。

 俺はそのまま城に向かった。

 

「ゆ、勇者様!! お帰りになったのですね!」


「魔王を討伐されたのですか!?」


「あ、あぁそうだ。陛下にそのことで謁見したい」


「かしこまりました! どうぞ中へ!」


「今夜は宴ですね!」


 城の門番にそう言い、俺は城の中に入る。

 煌びやかで美しい装飾の施された城の中は魔王城とは大違いだ。

 この城に来たのは俺が魔王討伐に旅立つ一年前以来だ。

 そう言えば姫様は元気だろうか?

 国王陛下の一人娘で俺と同い年の彼女はもう王都の学園を卒業したはずだが、何をしているだろうか?

 そんな事を考えながら歩いて宰相の部屋に向かおうとしていると、向こうの方から宰相が小走りでやってきた。


「ゆ、勇者様! お帰りになったのですね!!」


「あぁ、アーガレイスさんお久しぶりです」


「お、お久しぶりです……連絡が途絶えた時は心配いたしましたぞ!」


「あぁ、えっと……魔王城の中だと上手く通信出来なくて……」


「そうでしたか……失礼ですが、カリーナ様は?」


 やっぱりそれを聞くか……。

 カリーナが死んだ事は旅立つ前に掛けられた生存を確認するための魔法で気が付いているだろう。

 その魔法は掛けられた人間が死んだとき、術を掛けた人間にその人間の死を伝える。


「死んだよ……」


「申し訳ございません。お辛いのに私はなんと失礼なことを……」


「いや、大丈夫さ……至急国王に会いたい。これからの事を話したいんだ」


「はは、かしこまりました。陛下はただいまお戻りになると思われます、まずは私の部屋に」


「あぁ、それじゃぁ行こうか」


 宰相であるアーガレイスさんとはもう長い付き合いだ。

 俺が勇者としての運命を授かった10歳の頃からの付き合いなので、もう8年の付き合いになる。


「勇者様、王に会う前にお話が……」


「あの、その勇者様はやめてくれんませんか? いつものようにラルと呼んで下さい」


「それでは……ラル、貴方は魔王を討伐し戻ったのですね」


「……はい」


 長年良くしてくれたアーガレイスに嘘をつくのは心が痛い。


「そうですか……きっとお仲間も天の上で喜んでいるでしょう」


 ごめん、今頃きっと魔王城で三人はピンピンしてると思う。

 

「そ、そうだね。ところでアーガレイス……」


「ラル、私の事も今はレイスで構いません」


「ありがとう。それで話しっていうのは?」


「はい、この国の未来の事です」


「この国の未来?」


「そうです、ラル。私は貴方にこの国の王になって欲しいと思っています」


 レイスはそう言いながら俺に傅いた。

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