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【書籍化】公爵家の料理番様 ~300年生きる小さな料理人~  作者: 延野正行
第七部

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第253話 奇跡の回復

☆★☆★ 昨日発売 ☆★☆★


『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』が、昨日発売されました。

『公爵家の料理番様』をお読みの方にはご満足いただける作品かと思っております。

書店でお見かけの際には、是非よろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

 それは突然の出来事だった。

 国王陛下が『竜牙の呪い』に苦しみ、フェニックスの肝臓が腐り落ちる。


 その時だった。


 腐り、腐臭すら放っていたフェニックスの肝臓が突如光を帯び始めた。


「何?」


 僕は陛下に【天使の祈り】をかけつつ、状況を見守る。すぐ側でロラン王子が立ち上がる。その手には肝臓が握られていた。たった今腐り落ちたはずの肝臓は光を放ち、眩く部屋を照らす。もはや目が開けていられないほど、激しかった。


 まるで王子の願いに呼応するかのように……。


「この光って、まさか――――」


「そのまさかだな」


 声は予想外のところから現れる。

 天井を見ると、何枚も服を重ね着して蓑虫になったユランがぶら下がっている。そんな状態でも寒いらしく、カチカチと歯を鳴らしながら、それでも竜としての威厳を保つに、不遜な声で語りかけた。


「ふふ……。良かったな、子ども王子。そなたの願いは果たされたぞ」


「ユラン! え? でも、願いの力は使えないって」


「ルーシェル、お前勘違いしていないか?」


「え?」


「願いの力が使えないわけではない。『竜牙の呪い』を解くほどの力は時間がかかるといったのだ」


 あ。そうか。僕は勘違いしていた。


 てっきり僕はソフィーニ母上の『竜牙の呪い』を解いたことによって、ユランの力が一時的になくなったと勘違いしていた。その認識は大きな謝りだったんだ。つまり『竜牙の呪い』を解くのが難しいだけであって、他の願いなら解くことができるということだ。


「じゃあ、この場合……」


「子ども王子は願ったのだ」



 フェニックスの肝臓が元の状態に戻るようにとな。



 ユランはニヤリと笑った。

 まるで自分の功績かのように自信満々に。


「フェニックスの肝臓を元に戻すのは確かに骨の折れる願いだが、『竜牙の呪い』のようなややこしい呪いを解くよりは遥かに簡単だ。よって――――」



 その願い……。このユラン様が聞き届けた。



 瞬間、部屋の中は真っ白になる。ただ白だけの空間に放り込まれたかのような錯覚すら覚えた。薄く目を開けると、白い雪のようなものが天井へと上がっていく。それが1つの星となって集まっていった。


 願いの塊だ。


 さらにそれはフェニックスの肝臓へと注がれる。赤黒く、生命の息吹がまるで聞こえてこなかったその臓物は、やがて拍動し、赤く光り輝く。さらに火が付き、一瞬にして室温を上げた。


「フェニックスの肝臓が……」


「蘇った……」


 願ったロラン王子自身が呆然と呟く。


 艶のあるフェニックスの肝臓に思わず見とれてしまった。もしかして、僕がフェニックスの体内から抜き取った直後よりも、生き生きしているようにすら見える。おそらくそれだけ腐食が激しい食材なのだろう。


「何をしておる、ルーシェル。薬を使うのだろう」


「あ。そうだ」


 今、この瞬間もアウロ国王陛下は発作に苦しめられていた。この状況を脱することができるのは、もはやフェニックスの肝臓しかない。


「【知恵者】さん……」


『はい。フェニックスの肝臓を薬剤にする方法をお伝えします』


 【知恵者】を呼び出すと、懇切丁寧に薬の作り方を教えてくれる。取るのは大変だったけど、薬の作り方自体はさほど難しいわけじゃない。あまり時間をかけることなく、僕はフェニックスの肝臓を薬にする。


 【知恵者】さんが教えてくれた用法通り、粉状にした薬を水に混ぜると、苦しんでいる国王陛下に飲ませた。


「これで治るはず……うあっ!」


「ルーシェル!」


 思わず悲鳴を上げてしまったのは、訳があった。【知恵者】の言う通りに薬を飲ませた途端、国王陛下の身体から炎が噴き出したのだ。


 さっきまで白くなっていた部屋は、一転して赤くなる。炎が上がるのを目撃した大臣や典医は腰砕けになり、衛兵たちは水を用意するように叫んだ。


「ルーシェル、これは」


「大丈夫です」


 たぶん、これがフェニックスの肝臓の効果。

 『生まれ変わり』あるいは『再誕』の力だ。


「今、フェニックスの炎を浴びて、もう1度生まれ変わろうとしている」


 元々当初の目的は、『竜牙の呪い』の排除というわけではない。フェニックスの肝臓の『再誕』の力を使って、1度アウロ国王陛下には死んでもらい、その後復活してもらう予定だった。


 人が1度死ぬと、呪いはリセットされ、消えてなくなる。それがすべての呪いの理だ。僕と【知恵者】さんの推測では、これで『竜牙の呪い』を克服できるはずだった。


「むっ……」


 炎の中でついにアウロ国王陛下が目を覚ました。一体どういうことだ、と炎にまみれた自分の姿を見て、困惑していた。しかし、その炎は次第に止み、ついには消える。

 アウロ陛下が着ていた寝間着や、近くにあったベッドなど何も燃えていない。何事もなかったかのように、アウロ国王陛下はベッドから起き上がって見せた。


「これは……」


「陛下、失礼します」


 僕は【竜眼】で陛下の状態を確認した。

 国王陛下の状態に『強力な呪い』と書かれていた部分がすっかり消えているのを確認する。


 1度息を吸い込み、僕はホッと息を吐くようにこう言った。


「快癒しています」


「ルーシェル、それって」


「はい、王子。国王陛下はもう大丈夫です」


 僕は笑顔で答えると、周りから歓声が沸き上がる。一方で、ロラン王子の目からは涙が溢れた。普段は気丈で、滅多に泣かない王子はまさしく子どものように嗚咽をあげた。

 そんなロラン王子を抱きしめたのは、やはり国王陛下だった。


「ロラン……。ありがとう」


「おと…………。うわあああああああああああああああんんんんんんん!」


 まるで生まれたばかりの赤子のようにロラン王子は叫んだ。そしてその親の愛に包まれるように国王陛下を自ら抱きしめる。国王陛下の寝間着をギュッと握っている姿を見て、僕もまた泣きそうになっていた。


 ひとしきり泣いた王子は何度も涙を払いながら、僕の方を向く。いや、僕もまた抱きしめられた。


「ルーシェル、ありがとう」


「お、王子」


「なんだ。照れているのか。すまぬ。でも、こうさせてくれ。これぐらいしないと、もう余はどうにかなってしまいそうなのだ」


 どうにかって……。

 それぐらい嬉しいってことかな。

 当然だよね。お父さんの命が救われたのだから。


「ドラゴン娘にも感謝を」


「ふん。別に……。我は試練の竜だ。務めを果たしただけにすぎぬ」


「そう言わずに、お前も抱きしめてやるから」


「い、いらぬわ! お前……。なんかしばらくあわないうちに、なんかおかしくなったな」


「かもしれぬ……。生まれ変わったのは、父上だけじゃないかもな」


 ロラン王子は笑顔でそんなことを言った。

 それは当たっているかもしれない。王子の笑みは垢抜けていて、どこにでもいる子どものようだった。


「ところで、アルマはどうしたのじゃ? もう山に帰ったのか?」


「アルマにはちょっとお使いをね」


「あ。そうだ、ルーシェル。今から余が行く所に付き合ってくれるか」


 ロラン王子は真剣な表情で僕にお願いする。

 それがどこなのか、察しがついていた。


「はい。行きましょう」



 今回の黒幕のところに……。

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挿絵(By みてみん)


両方ともよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
呪いの……じゃなくて、流石に直情な兄を焚き付けた方かな……?
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