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【書籍化】公爵家の料理番様 ~300年生きる小さな料理人~  作者: 延野正行
第五部

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179/290

第174話 公爵の祝辞

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挿絵(By みてみん)

 たくさんの馬車が校門の中へと吸い込まれていく。

 家族とともに、そして馬車を使って入学式にやって来た学生は少なくない。

 さすがは名門というだけはある。学費もそこそこするから、ほとんどが貴族なのだろう。


「学生のほとんどが有力な貴族なのですね」


「いや、そうでもないぞ」


 クラヴィス父上は首を振った。


 僕は制服姿だが、父上もまた余所行きの恰好だ。白を基調としたコートは決まっていて、いつもより格好良く見える。


「前にも少し言ったが、爵位の序列が高い貴族などは、屋敷に家庭教師を招いて、教育することもある。学校に行くことは義務ではないからな」


「クラヴィス父上は僕に友人を作れと言われました。そういう子どもの場合、どうやって友人を作るのでしょうか?」


「人脈という意味では社交界だろうな。序列が高い場合、向こうから寄ってくることも多い」


「それは友人と言えるのでしょうか?」


「半々だな。それがきっかけで親友として友情を育むこともあれば、主従、あるいはビジネスだけの関係になることもある。他にも――――」


 クラヴィス父上は何か言いかけて、口を噤んだ。

 何故か頬が赤い。何を言おうとしていたのだろう。


 そんな父上に代わって、ソフィーニ母上が僕たちに微笑みかけた。


「ルーシェルも、リーリスも、ユランも……。爵位を気にせず、同級生を見るんですよ。大事なのは心なのですから」


 クラヴィス父上の側で手を繋いだソフィーニ母上も美しい。紫色の基調としたドレスに白のレースがあしらわれている。帽子が華やかでワンポイントの薔薇がとても美しい。

 他の貴族の当主が振り返るほどにだ。


「はい。わかりました」


「しかしだ。ルーシェル」


 クラヴィス父上は僕の肩に手を置いた。

 膝を折って、目線を合わせると、やや切迫した感じで僕を睨んだ。


「くれぐれもリーリスに悪い虫が付かないようにしてくれよ」


「お、お父様ったら……」


「あは……。あはははは……。が、頑張ります」


 僕は苦笑で返すので精一杯だった。



 ◆◇◆◇◆



 入学式会場に入れば、さすがに家族とは別行動だ。

 僕、リーリス、ユランの3人は新入生の椅子に座る。中には心細くなって泣き出す子どももいたけど、入学式は概ね厳かに始まった。


「ご入学おめでとうございます」


 和やかな表情で祝辞を述べたのは、学校司祭長と紹介されたアルテンさんだった。


 ジーマ初等学校は聖霊リアマイン様を敬う聖霊教団の中にある学校だ。その歴史は古く、僕が生まれる前にはもうあったらしい。


 リアマイン教は300年前にもあって、ある程度のことは知っている。

 でも、学校を運営していると聞いたのは、ごく最近のことだ。


 次に王国代表として祝辞を述べたのは、今の国王陛下の弟――エイリック・グランナ・ミルデガード王弟陛下だった。


「すごい……。学校の入学式に王弟陛下が来るなんて」


 それだけジーマ初等学校が国の教育機関として重要視されているってことかな。

 いずれにしても、すごいところに入学したな、僕。


「……であるからして。君たちにはミルデガード王国の更なる発展のため粉骨砕……」


 しかし、それにしても……。


「なあ、ルーシェル。あのおっさん、話が長くないか」


 不平不満を口にしたのはユランだった。


 ユランはジッとしていられない性格だ。

 ただそれにしたって、ミルデガード王国王弟陛下の話は長かった。


 不満を口にしたのは、ユランだけじゃない。

 他の学生たちもムズムズと身体を動かして、せわしない。


 王弟陛下の話は結局、1時間以上も及んだ。


 一応お話は聞いていたけど、ほとんど同じ話の繰り返しだ。まとめようと思ったら、多分5分もないんじゃないかな。


 一方、王弟陛下はご満悦といった感じで、壇上の椅子に座った。


 会場の空気が重くなる。

 「次に……」という進行役の人の声を聞いて、「まだ祝辞があるの?」とげっそりする子どもがほとんどだった。


「保護者代表クラヴィス・グラン・レティヴィア公爵様よろしくお願いします」


「え?」

「お父様?」

「あやつが祝辞を?」


 僕、リーリス、ユランは思わず声を上げる。

 クラヴィス父上が祝辞を依頼されているなんて、初めて聞いた。

 たぶん、僕たちを驚かせるためずっと黙ってたのだろう。

 すると、父上は席についた僕たちを見つけると、軽くウィンクした。


 こんな空気の重い中でも、クラヴィス父上は決して茶目っ気を忘れていない。


「でも、父上……。こんな空気の中で大丈夫でしょうか?」


 リーリスは心配する。

 さっきの王弟陛下の話のおかげで、すっかり新入生の緊張感は途切れていた。

 登壇した人間が、公爵と聞いても反応すらしていない。


 最悪の空気の中、父上は声を発した。


「みんな、まず少し立とうか」


 クラヴィス父上の第一声は「おめでとう」でも「お喜び申し上げます」でもない。

 いきなり新入生の僕たちに立つように促したのだ。


 場内がひんやりした緊張感に包まれる。

 新入生をいきなり立たせようというのだ。学生たちの態度に何か含むところがあるのではないか。特に教職員たちが、いきなり「立て」と言い始めた公爵閣下を見て、おろおろし始める。


 けれど、クラヴィス父上は終始笑顔だ。


「では、次に大きく伸びをしよう」


 手を組み、腕を天井に向かって伸ばし始める。


 僕たちは戸惑いながら、クラヴィス父上の真似をする。僕たちだけじゃない。大半の新入生が、公爵閣下の言う通りに従った。


「続いて、大きく深呼吸をしよう。はい。吸って……、吐いて……」


 伸びが終わったら、今度は深呼吸だ。


 それが終わって、ようやく座るように言った。

 久しぶりに腰と足を伸ばせたことで、身体がスッキリしたような気がする。

 ユランも「はー」と落ち着いた様子だった。


 新入生が落ち着いたところで、クラヴィス父上はようやく口を開く


「みなさま、ご入学おめでとうございます」


 月並みな挨拶から始まり、学業を熱心にして、たくさんの仲間を作ってほしいと続けた。


 さらに保護者である他の貴族に対しては、教職員ばかりに頼らず、日頃の家庭内においても子どもの成長に注視し、ともに成長していく家庭を作ってほしいと促した。


 そうして、わずか5分のスピーチは終わり、クラヴィス父上は頭を下げた。


「え? それだけ?」


 ユランは思わず口にする。

 本当に短い祝辞だった。最初の体操も合わせても、10分あるかどうかだ。


 さらに最後に告げた名前を聞いて、新入生が驚く。


「今、公爵って言わなかったか?」

「公爵閣下が保護者?」

「すごいな。さすが公爵閣下だ」


 ちょっと遅れて、拍手がやってくる。

 公爵閣下という爵位ではなく、空気を読んで和ませた手腕に、皆が驚いているようだった。


「すごいな、父上」


「ええ。空気を一変させてしまいました」


 リーリスにとっても、先ほどのクラヴィスさんを見るのは初めてだったらしい。

 目を丸くして、実の父親に向かって手を叩いていた。


 僕はすごい人に助けられたのかもしれない。


 壇上の椅子に座るクラヴィス父上を見て、その息子であることを、僕は改めて誇りに思うのだった。

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