第164話 学校へ行こう!
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是非ご賞味ください。
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それでは新章をお楽しみください。
「ルーシェル、学校に行くつもりはないか?」
クラヴィス父上の言葉に、僕は思わず固まってしまった。
学校……。
もちろん、そういう教育機関があることは知っている。
けれど、僕は300年生きているけど、その場所に行ったことはない。何故なら学校に行く前に、昔の両親に捨てられたからだ。
ただあのままトリスタン家にいても、僕が学校に行ったかどうかわからない。
僕は次期【剣聖】として英才教育を受けていた。僕の教育を外部の機関に任せることを、あの父様がお許しになられるとは思わなかった。
だけど、今の僕の家族は今目の前にいるクラヴィス父上であり、レティヴィア家のみんなだ。
初等学校にはリーリスぐらいの歳の頃の子どもたちが、基礎物理、歴史、語学、マナー、魔法、剣術、薬学など、貴族やまた学者や騎士になるために、勉強をしているらしい。
「私はな、ルーシェル。勉学も大事だと思うが、お前にはもっと友達を作ってほしいと思っている。初等学校には様々な子どもたちがいる。お前に打って付けだと思うのだが……」
1年前、初めてクラヴィス父上に出会った時、僕にこう言った。
僕を救いたい、と……。
300年、子どもらしい生き方をしてこなかった僕に、人生をやり直してほしいと言った。
学校へ行くことも、クラヴィス父上なりの配慮なのだろう。
(行きたい!)
クラヴィス父上から勧められたのもあるけど、何より興味深かった。昔から、いや――300年前から学校へ行く貴族の子どもが楽しそうにしているのを見て、1度行ってみたいと思っていたのだ。
その願いが叶うと思うと、胸が弾んだ。
(でも――――)
「不安なのはわかるが……。私はお前を見捨てたわけじゃない。学校という社会を見るのも、勉強――――」
「いえ。学校に行くことに不安はありません。父上のご配慮については感謝以外の言葉はなく……」
「では、何故そのような顔をしているのかな?」
「はい……。僕は見た目こそ子どもですが、300年も生きています。何より成長が止まっている。周りの背が高くなり、大人らしい姿になっていくのに、僕は子どものまま……。いつか白い目で見られるようになるのでは、と」
300年山に籠もっていた理由はここにある。
僕はドラゴングランドを倒したことによって、不老不死になり、子どもの姿のまま成長が止まってしまった。老いない僕に周りはいつか気付く。その時、周りの白い目がどんなに強い魔獣よりも、僕は怖かった。
「なるほど。確かにお前の心配は当然であろう」
そう言って、父上は僕の横に座り、安心させるように肩を叩いた。
「1つお前の心配を取り除いておこう。お前が通う初等学校の長は、私の古い友人だ。お前の生い立ちについて話してある。……ああ。とても口の硬い人だから安心してくれ。学校側は全面的にバックアップしてくれるそうだ」
「あ、ありがとうございます」
「だが、大人たちは納得できても、周りの子どもは違う。なんといっても、5歳から10歳までの子どもたちだ。それがどれだけルーシェルを苦しむ言葉であろうかわからず、使ってしまうこともある。お前を化け物のように見る者も現れるだろう」
「はい……」
「だからこそ、私は友達を作ってほしいと思っている」
「え?」
「何も100人、200人友達を作れとは、私も思っていない。たった1人でもいい。お前を色眼鏡なしで見てくれる、そんな友を私はルーシェルに持ってもらいたいのだ」
「色眼鏡なしで見てくれる……」
本当にそんな子どもがいるのだろうか。
確かにリーリスやロラン王子は、僕のことを全部知った上で友達になってくれたけど……。そもそも2人とも友達っていうよりは、家族や親族って感じがするんだよな(ロラン王子には失礼かもだけど……)。
でも、怖がっていても仕方がない。
クラヴィス父上は僕のためにお膳立てしてくれているのだ。
その厚意を無下にすることは、僕にはできない。
「わかりました。行きます、学校に」
「よし。……だが、こう誘っておいて何だが無理する必要はないぞ。もちろん、私の顔を立てる必要もない」
「はい。ありがとうございます、クラヴィス父上」
「うむ。では、早速勉強の時間だな」
「へっ? 勉強??」
「ヴェンソン!」
父上が指を鳴らすと、突然ヴェンソンさんが横から現れた。
え? 今まで一体、どこにいたの? 全然気配を感じなかったのだけど。
「早速、初等学校の入学試験対策を行うのだ」
「かしこまりました」
「え? 試験があるのですか??」
「勿論です、ルーシェル様。……ルーシェル様が通う初等学校は王都でも名門中の名門校。倍率300倍という狭き門をくぐり抜けていただかなければなりません」
「さ、300倍!!」
ヴェンソンさんの説明に思わず悲鳴を上げてしまった。
「なーに。ルーシェル様は剣術、魔法学、薬学といった部分ではパーフェクト。しかし、歴史と語学が弱い様子。面接もありますから、その対策も行いますぞ」
「め、面接……」
知らない人と話すのは、ちょっと苦手なんだよなあ。
「ち、父上……。そんな名門でなくとも」
「さすがに公爵の子息が、下町の学校に通わせるわけにはいかん。それに、リーリスはすでに推薦でその学校に通うことになっている。悪い虫をつかないようにするためにも、ルーシェルがいてくれると助かる」
リーリスも通うのか。
「え? も、もしかして僕を学校に通わせる理由って、リーリスを護え――」
「ゴホン! む、むろんルーシェルの教育のためでもあるぞ。妹を守ってやってやれ。ルーシェル」
クラヴィス父上は軽くウィンクして、戯ける。
父上ったら……。やれやれ。
「さっ! 行きますぞ、ルーシェル様。……あ! 先に言っておきますが、試験中いかなる魔法も使ってはいけませんぞ。【知恵者】を使うのも禁止なので、肝に銘じておいてください」
「つ、使わないよ!」
自分で言うのもなんだけど、すでに身元が怪しいんだ。これ以上、変に罪を犯して、目立つのは控えなければ。
こうして僕は初等学校の試験が始まる1ヶ月間、みっちりヴェンソンさんに鍛え上げられるのだった。









