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【書籍化】公爵家の料理番様 ~300年生きる小さな料理人~  作者: 延野正行
第五部

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169/290

第164話 学校へ行こう!

☆★☆★ コミックス第2巻 発売決定! ☆★☆

おかげさまで、コミックス第2巻の発売が決定しました!

発売日は来月。7月20日になります。今回もおいしい料理を揃えておりますので、

是非ご賞味ください。


詳細は7月に入ってからお伝えしますね。


それでは新章をお楽しみください。

「ルーシェル、学校に行くつもりはないか?」


 クラヴィス父上の言葉に、僕は思わず固まってしまった。


 学校……。


 もちろん、そういう教育機関があることは知っている。

 けれど、僕は300年生きているけど、その場所に行ったことはない。何故なら学校に行く前に、昔の両親に捨てられたからだ。


 ただあのままトリスタン家にいても、僕が学校に行ったかどうかわからない。

 僕は次期【剣聖】として英才教育を受けていた。僕の教育を外部の機関に任せることを、あの父様がお許しになられるとは思わなかった。


 だけど、今の僕の家族は今目の前にいるクラヴィス父上であり、レティヴィア家のみんなだ。


 初等学校にはリーリスぐらいの歳の頃の子どもたちが、基礎物理、歴史、語学、マナー、魔法、剣術、薬学など、貴族やまた学者や騎士になるために、勉強をしているらしい。


「私はな、ルーシェル。勉学も大事だと思うが、お前にはもっと友達を作ってほしいと思っている。初等学校には様々な子どもたちがいる。お前に打って付けだと思うのだが……」


 1年前、初めてクラヴィス父上に出会った時、僕にこう言った。


 僕を救いたい、と……。


 300年、子どもらしい生き方をしてこなかった僕に、人生をやり直してほしいと言った。


 学校へ行くことも、クラヴィス父上なりの配慮なのだろう。


(行きたい!)


 クラヴィス父上から勧められたのもあるけど、何より興味深かった。昔から、いや――300年前から学校へ行く貴族の子どもが楽しそうにしているのを見て、1度行ってみたいと思っていたのだ。


 その願いが叶うと思うと、胸が弾んだ。


(でも――――)


「不安なのはわかるが……。私はお前を見捨てたわけじゃない。学校という社会を見るのも、勉強――――」


「いえ。学校に行くことに不安はありません。父上のご配慮については感謝以外の言葉はなく……」


「では、何故そのような顔をしているのかな?」


「はい……。僕は見た目こそ子どもですが、300年も生きています。何より成長が止まっている。周りの背が高くなり、大人らしい姿になっていくのに、僕は子どものまま……。いつか白い目で見られるようになるのでは、と」


 300年山に籠もっていた理由はここにある。


 僕はドラゴングランドを倒したことによって、不老不死になり、子どもの姿のまま成長が止まってしまった。老いない僕に周りはいつか気付く。その時、周りの白い目がどんなに強い魔獣よりも、僕は怖かった。


「なるほど。確かにお前の心配は当然であろう」


 そう言って、父上は僕の横に座り、安心させるように肩を叩いた。


「1つお前の心配を取り除いておこう。お前が通う初等学校の長は、私の古い友人だ。お前の生い立ちについて話してある。……ああ。とても口の硬い人だから安心してくれ。学校側は全面的にバックアップしてくれるそうだ」


「あ、ありがとうございます」


「だが、大人たちは納得できても、周りの子どもは違う。なんといっても、5歳から10歳までの子どもたちだ。それがどれだけルーシェルを苦しむ言葉であろうかわからず、使ってしまうこともある。お前を化け物のように見る者も現れるだろう」


「はい……」


「だからこそ、私は友達を作ってほしいと思っている」


「え?」


「何も100人、200人友達を作れとは、私も思っていない。たった1人でもいい。お前を色眼鏡なしで見てくれる、そんな友を私はルーシェルに持ってもらいたいのだ」


「色眼鏡なしで見てくれる……」


 本当にそんな子どもがいるのだろうか。

 確かにリーリスやロラン王子は、僕のことを全部知った上で友達になってくれたけど……。そもそも2人とも友達っていうよりは、家族や親族って感じがするんだよな(ロラン王子には失礼かもだけど……)。


 でも、怖がっていても仕方がない。


 クラヴィス父上は僕のためにお膳立てしてくれているのだ。

 その厚意を無下にすることは、僕にはできない。


「わかりました。行きます、学校に」


「よし。……だが、こう誘っておいて何だが無理する必要はないぞ。もちろん、私の顔を立てる必要もない」


「はい。ありがとうございます、クラヴィス父上」


「うむ。では、早速勉強の時間だな」


「へっ? 勉強??」


「ヴェンソン!」


 父上が指を鳴らすと、突然ヴェンソンさんが横から現れた。

 え? 今まで一体、どこにいたの? 全然気配を感じなかったのだけど。


「早速、初等学校の入学試験対策を行うのだ」


「かしこまりました」


「え? 試験があるのですか??」


「勿論です、ルーシェル様。……ルーシェル様が通う初等学校は王都でも名門中の名門校。倍率300倍という狭き門をくぐり抜けていただかなければなりません」


「さ、300倍!!」


 ヴェンソンさんの説明に思わず悲鳴を上げてしまった。


「なーに。ルーシェル様は剣術、魔法学、薬学といった部分ではパーフェクト。しかし、歴史と語学が弱い様子。面接もありますから、その対策も行いますぞ」


「め、面接……」


 知らない人と話すのは、ちょっと苦手なんだよなあ。


「ち、父上……。そんな名門でなくとも」


「さすがに公爵の子息が、下町の学校に通わせるわけにはいかん。それに、リーリスはすでに推薦でその学校に通うことになっている。悪い虫をつかないようにするためにも、ルーシェルがいてくれると助かる」


 リーリスも通うのか。


「え? も、もしかして僕を学校に通わせる理由って、リーリスを護え――」


「ゴホン! む、むろんルーシェルの教育のためでもあるぞ。妹を守ってやってやれ。ルーシェル」


 クラヴィス父上は軽くウィンクして、戯ける。


 父上ったら……。やれやれ。


「さっ! 行きますぞ、ルーシェル様。……あ! 先に言っておきますが、試験中いかなる魔法も使ってはいけませんぞ。【知恵者】を使うのも禁止なので、肝に銘じておいてください」


「つ、使わないよ!」


 自分で言うのもなんだけど、すでに身元が怪しいんだ。これ以上、変に罪を犯して、目立つのは控えなければ。


 こうして僕は初等学校の試験が始まる1ヶ月間、みっちりヴェンソンさんに鍛え上げられるのだった。

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挿絵(By みてみん)

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[気になる点] 最初のほうでドラゴングランドの肉を、食べて若返ってたので、不老でないのでは?
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