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【書籍化】公爵家の料理番様 ~300年生きる小さな料理人~  作者: 延野正行
第四部

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123/290

第118話 雪遊び

☆★☆★ 重版しました ☆★☆★


「公爵家の料理番様」ついに、ついに重版しましたぁぁぁぁああああ!!

もうすぐ作家生活8年目に突入しようという中、

初めての小説での重版です。めちゃくちゃ嬉しいです。


お買い上げいただいた読者の方、またWebから応援いただいている読者のみなさまに

お礼を申し上げます。

検索してみると、あちこち書店さんの在庫が切れております。

初版を手に入れたいという方は、なるべく早めにゲットしてください。


というわけで、Web版も楽しんでいってくださいね。


挿絵(By みてみん)

 カットマトの赤茄子煮込みを食べ、食休みを獲った後、僕たちは早速外に出た。


 本来であれば、ヴェンソンさんの現代語の授業を受けなければならないのだけど、曰く「遊びも勉強のうちですぞ」と外で遊ぶことが許された。


 屋敷の玄関扉を開けるなり、僕とリーリス、そしてユランは目を輝かせる。


『うわ~』


 まさに一面の銀世界だ。

 窓の外から見ていて知っていたけど、外の空気を吸いながらだと、また違って見える。


 降り積もった砂糖みたいな雪がチラチラと輝いて見える。屋敷へ向かう道も、植木も、屋根にも帽子を被ったみたいに厚い雪が積もっていた。


「まるで夜空が落ちてきて、その裏側を覗いているみたいだ」


「ふふ……。夜空の裏側は白くなっているのですか?」


「リバーシブルになってるんだよ」


「なるほど。面白い発想ですね」


 リーリスは口元を抑えて笑った。


「おい。早く遊ぶぞ」


 ユランは辛抱できないようだ。

 その場で足踏みしている。

 飛び出したくて仕方ないらしい。


「待って、ユラン」


 僕はそのユランの手を取ると、【収納】から取り出した塗り薬を手に塗った。


「ひやっ! ひゃっこいぞ、ルーシェル!」


「ちょっとだけ我慢して」


 ユランは顔を真っ赤にしながらブルブルと震えている。


 この塗り薬はジェル状なので、しっかりと馴染ませないと、肌に浸透しないのだ。


「なんなのだ、この薬は……」


「これはスノースライムから作ったハンドクリームだよ。ひび割れやあかぎれを防ぐ効果があるんだ」


「我の肌はそんなに柔ではないぞ」


「ユランは雪遊びがしたいんだろ?」


「当たり前だ!」


「なら、ちゃんとケアしないとね。折角綺麗な肌をしてるんだから、勿体ないよ」


「~~~~~~!!」


 ユランの顔がさらに真っ赤になっている。

 おかしいな。触ってる手もさらに赤くなってるような気がするんだけど。


 もしかして、風邪?

 でも、ホワイトドラゴンって風邪引くの?

 聞いたことないけど……。


「ユラン、熱があるんじゃない」


「ふぇ?」


 僕は返答を聞く前に、ユランのおでこに自分のおでこを当てた。


 う~ん。結構熱があるなあ。

 本当に風邪だろうか。

 念のために【竜眼】で確認を……。


 そこで僕は気づいた。


 ユランの目がグルグルと回っている。

 やっぱり何か様子がおかしいと思ったのだが、ふとその時僕は以前、リーリスから聞いた話を思い出す。


 すると、僕の体温も急激に熱くなっていった。

 鏡を合わせたかのように、ユランと一緒に顔が赤くなる。


「ご、ごめん」


 反射的に飛び退く。

 その頃にはすっかり薬の成分が馴染んでいた。


「お2人ともとっても仲が良さそうですね。ほほほほ……」


 リーリスは声を弾ませ言葉にするのだけど、目は全然笑っていなかった。

 え? え? え? な、なんでそういう反応なのかな? かな?


「あ。リーリスにも塗ってあげるね」


「ありがとうございます!!」


 リーリスの顔が魔法灯を付けたみたいに明るくなる。

 どうやら薬を早く塗って欲しかったみたいだ。なんだ、そんなことか。


「ちょっっっっっっっとまったあああああああああ!!」


 突如、屋敷の玄関前で声を響き渡る。

 3階の窓から飛び下りてきたのは、カンナさんだった。


 結構落差があるにもかかわらず、難なく雪の地面に着地する。さすが吸血鬼族(ヴァンパイア)族である。


「リーリスお嬢様に私が付けて差し上げます」


「カンナさんが?」


 別に僕はいいけど……。

 何を考えているんだ、この人。

 きっとろくでもないことだろうけど。

 一応【心眼】で確認しておくか。


(嫁入り前のお嬢様の手を……。雪如きで汚すわけにはいきません。私が入念にケアして差し上げますわ)


「はあ……。はあ……。お嬢様の柔肌に触れる千載一遇のチャ~ンス! 穢れを知らない肌。そこにジェル状の薬……。まずい。まずいですわ。興奮ががががががが――はっ!」


 カンナさんはそこでようやく僕たちの視線に気づいた。


「しまったぁぁぁぁああああああ! 興奮してつい本音と建て前を間違えてしまったぁぁぁぁぁああああああ!!」


 カンナさんは「やっちまった!」とばかりに顔を覆う。


 どうやらこの人に至っては【スキル】を使う必要性もなかったようだ。


 そんなカンナさんに寄り添ったのは、リーリスだった。


「カンナ……」


「お嬢様……。私は……。私は……」


「あっち行ってて」


 カンナさんの顔がちょっと僕にはわからない芸術作品みたいに歪む。

 その後、トボトボと屋敷へと帰っていくメイドさんの背中は実に哀しゅ――――ん? あれ? なんだか嬉しそうだぞ。ま、いっか。


 それにしても、リーリスの顔……。怖かったなあ。


「ルーシェル……」


「は、はい!」


 僕は思わず背筋を伸ばす。


「私にも薬を塗っていただいていいですか?」


「う、うん。もちろんだよ」


 僕は大人しくリーリスの要望に従うのだった。





 2人の手に塗ったのは、スノースライムを原料とした塗り薬だ。

 スライム系の魔獣は、ある一定温度まで気温が下がると、凍ってしまう性質がある。


 だが、スノースライムには外殻を凍らせないようにする油脂(ワックス)のような成分が含まれている。

 この油脂は人間の手に優しく、体温を保つ役割もあるから、雪を素手で触る時には打って付けなのだ。


「わ~~い!」


 薬を塗りおえると、ユランは早速銀世界となったレティヴィア家の庭へと飛び込んでいく。


 手で掬い上げると、細かなパウダースノーが舞い上がって、空へと上っていった。


「おおおおおおお! これが雪の感触か!」


 ユランは目を丸くする。

 雪を見たのは初めてじゃないと思うけど、こうやって触ったのは、長い年月生きてて初めてみたいだ。


 ホワイトドラゴンは寒さに弱いからね。

 たとえ雪が降っても、例の繭の中で引きこもっていたのだろう。


「ユラン、見ててごらん」


「?」


 僕は両腕を水平に伸ばしたまま、無垢な雪の上に倒れ込む。

 すると、僕が倒れたポーズのままの形が雪の上にできあがった。魚拓ならぬ雪拓である。


「おお! 面白そう!!」


 ユランも僕を真似る。

 僕の雪拓の横に両手を突き上げた形のものができあがった。


「ふははははは! 面白い!!」


「でしょ! リーリスも…………ぶへっ!」


 次の瞬間、僕の顔に雪の塊が当たる。

 柔らかいからほとんどダメージがなかったけど、顔中が雪まみれになってしまった。

 冷静に払い落としながら、見据えた先にはリーリスの驚いた顔がある。


「あたっちゃいました」


 リーリスは悪びれなく口にする。


 すると、また僕の頭に雪の塊が当たった。

 今度は結構な衝撃だ。

 振り返ると、ユランが得意げに笑っていた。


 すでに雪玉を腕に抱えている。


「ほう……。リーリス、ユラン。2人ともその気なんだね」


 最初は雪だるまを作ったりして、ゆる~く遊ぼうと思っていたのだけど……。

 どうやら2人とも合戦(せんそう)がお望みらしい。


 僕もまた雪玉を作る。

 2人を交互に睨みながら、機を待った。


 一触即発の空気の中で、突然声が響き渡る。


「ちょっと待ったぁぁぁぁああああ!!」


本日拙作原作『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』の単行本4巻が発売されました!

こちらも大変笑える作品になっておりますので、

ちょっと気分が落ち込んでいる方は是非お手にとってみてください。


「公爵家の料理番」ともどもよろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

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