第116話 あっっっっつ~~~~~~い!!
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有り難いことにリアル書籍の方が売れてる模様……。
うん。あの表紙絵は手に取りたいよなあ。めちゃわかる。
お買い上げいただいた方、本当にありがとうございます。
また週末書店にお出かけの際には、是非お手にとっていただければ幸いです。
「こいつはすげぇな!」
いつもぼんやりとしていて、八の字に垂れ下がっているヤンソンさんの瞳が、子どものように輝く。
たまらずもう一口と味見した。
「うめぇ!」
「でしょ?」
「決め手は例の氷漬けになった赤茄子か?」
「はい。その通りです」
「聞かせろよ、ルーシェル。お前はあの赤茄子にどんな魔法をかけたんだ?」
ヤンソンさんはニヤリと笑った。
◆◇◆◇◆
荷車を引いて、僕は家族が集まる食堂へとやってくる。
食堂には暖炉があって、ちょっと暑いぐらいだ。
でも、家族みんな僕の料理が待ち遠しくて仕方なかったらしい。
特に暖炉の前に占拠していたユランは、先においしそうな香りを敏感に感じて、いつも隠している竜の尻尾をニュッと立たせた。
「待ちわびたぞ、ルーシェル」
「ごめん。でも、おいしくできたよ。ほら、椅子に座って」
僕が促すと、早速ユランは椅子に座る。
ミルディさん、リチルさん、カンナさんと手分けしながら、家族の前に並べた。
「どうぞお召し上がりください」
みんなが一斉に銀蓋を上げる
「ルーシェル・グラン・レティヴィア特製の――――」
野菜の赤茄子煮込み薬膳風でございます。
銀蓋の下から現れたのは、赤い宝石のように輝かしい赤茄子煮込みだった。
濃い赤茄子スープには、サイの目に切られた野菜が沈んでいる。スープにはとろみがあり、さらに濃縮された味を彷彿とさせていた。
「野菜の……」
「赤茄子煮込み?」
「薬膳風?」
「野菜ばっかりなのだ……」
みんなが驚く一方、ユランはがっくりと肩を落とす。
一応、お肉も入っているのだけど、この料理のメインは野菜だから仕方ないね。
「ふむ。驚いてはみたものの……。こういうのもなんだが、ルーシェルの料理にしては随分大人しい見た目をしているのぅ」
「わたくしはこういうのも好きよ……」
クラヴィス父様が首を捻ると、横でリーリスが苦笑する。
「みんな、食べられる岩だったり、お菓子の家だったり、50年熟成させた魔獣の肉だったり……。ちょっと感覚がおかしくなっているのかもね」
カリム兄さんは涼やかに笑った。
確かに僕の料理には、派手なものが多い。全部が全部ってわけじゃないけど、見た目のインパクトという点では、今回の料理はさほどではないかな。
「でも、味のインパクトと効果は、もしかしたら僕の料理の中で1番かもしれませんよ」
「あら。自信があるのね、ルーシェル。楽しみだわ」
ソフィーニ母様は嬉しそうにフォークを握った。
「喋ってないで、早く食べようぞ」
ユランは机を叩く。
お行儀が悪いからやめなさい。
「ではいただくとしようか」
『いただきます』
ユランを含めた家族が口を付ける。
一口食べた途端、先ほどまで穏やかに談笑していたみんなの顔付きが変わった。
『おいひぃいいぃぃぃいいいい!!』
絶叫する。
思わず立ち上がってしまいそうになるほど、みんなが興奮していた。
やった! 大成功だ。
クラヴィス父様は信じられないとばかりに口を開けて固まる。
今起こっている事実を確かめるように、二口目を口にした。
「うまい……。これはただの赤茄子煮込みではないぞ。いや、赤茄子煮込みではあるのだが」
父様の感想に、カリム兄様も同調する。
「はい。なんというか、今まで食べた赤茄子煮込みよりも、非常に奥深い」
「野菜や薄切りにした豚肉の味がスープに染みこんでいて、とってもおいしいわ」
ソフィーニ母様も満足そうだ。
「お野菜やお肉もおいしいですけど、スープがいいですね。赤茄子煮込みって、酸味が主役という印象がありますけど、ルーシェルが作ってくれた赤茄子煮込みは口当たりがとてもよくて、まろやかな感じがします」
リーリスは噛みしめるようにスープを飲む。
「ルーシェルのことだ。きっと何か仕掛けをしているんだろ?」
カリム兄様が一旦手を止めて、僕の方を向いた。
「はい。まず第一にお水は一切使っていません。すべて野菜の水分だけです。だから、野菜本来の甘みがとても素直に味に染み出てるんですよ」
加えて、野菜だけの出汁も加わっている。
今入っている野菜にプラスして、様々な野菜の甘みや旨みを感じることができるはずだ。
「様々な野菜に加えて、そこにチーズも入れて、まろやかな味になっています」
でも、この主役はなんといっても、使われている赤茄子だ。
「う~~ん。この赤茄子のスープはやはり最高だ。野菜の旨みもそうだが、赤茄子本来の旨みが、他の赤茄子と違って段違いにうまい」
「濃厚でおいしいですわ~。こんな赤茄子、初めて」
「これには何かあるんだね、ルーシェル」
さすがカリム兄様は鋭い!
「はい。赤茄子を氷漬けにしました。そうすることによって、普通に切って食べるよりもさらにおいしくなるんです」
割とこれは知られていないテクニックだと思っていたけど、ソンホーさんは見抜いていたのだろう。
氷漬けすることによって、赤茄子の中の水分が凍って、旨みが凝縮されている壁を壊すことができるのだと、スキル【知恵者】は教えてくれた。
さらに鮮度が良い時に凍らせておけば、日持ちするし、皮も剥きやすくなる。
おいしくて、時短にもなるから、一石三鳥なのだ。
「なるほど。でも、ソンホーが知っている知識なら、ここまでおいしくはならないと思うけど」
「そうだな。この赤茄子煮込みは料理長のよりもおいしい気がする。他にも理由があるのではないのかな?」
クラヴィス父様は僕を覗き込むように尋ねた。
参ったな。お見通しか。
「その通りです。実は、これは普通の赤茄子ではありません。冬眠していたカットマトを使いました」
「冬眠!」
「カットマト!!」
カットマトというのは、赤茄子によく似た魔樹系の魔獣だ。
赤茄子の部分は擬態で、本体は土の中にあって、取ろうとした動物や冒険者を丸呑みするという恐ろしい魔獣である。
ただこの赤茄子部分がとてもおいしく、普通の赤茄子よりも濃厚な味がして、僕も大好きな食材の1つだったりする。
「カットマトが冬眠するのは知っているが……」
「特に雪が降る地方のカットマトはとてもおいしいですよ。擬態部分の赤い実が雪の中で冷やされて、どんどん旨みが増していくんです。今回、時間がなかったので、熟成度合いとしては半分というところですが……」
「半分!?」
「こんなにおいしいのに?」
家族みんなが驚く。
でも、これで驚いてちゃダメなんだな。
完熟したカットマトの擬態はめちゃくちゃうまい。
それを薬草汁に合わせて、銀米にかけて食べると、ほっぺた落ちるぐらいおいしいのだ。
「聞いてるだけでおいしそう」
「1度でいいから食べてみたいものですねぇ、あなた」
完熟したカットマトは僕でもなかなかお目にかからないけど、いつか家族に食べてもらえるようになればいいな。
僕が和んでいると、突然ユランが椅子を蹴った。
何事かと思ったら、突然服を脱ぎ始める。
「あ、あ、あっっっっつ~~~~~~い!!」









