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【書籍化】公爵家の料理番様 ~300年生きる小さな料理人~  作者: 延野正行
第三部

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113/290

第110話 ブルーシードのクランブルチーズケーキ

☆★☆★ 小説 9月2日発売 ☆★☆★


発売まで10日過ぎましたが、みなさまご予約いただけましたでしょうか?

各書店、電子書籍サイトなどで予約が始まってますので、是非よろしくお願いします。


キャラデザをいただきました。本日は主人公ルーシェルになります。

【剣聖】の息子として生まれながら生まれつき身体の弱いルーシェル。

ある時山に捨てられ、そこで魔獣が食べられることと、その不思議な力に取り憑かれます。

ついには不老不死となった彼は、果たして真の家族と出会うことができるのか?


書籍ではなんと、レティヴィア家から出ていった後のルーシェルが描かれております。

Webとはまったく違う読み口になっていますので、是非ご一読ください。


挿絵(By みてみん)

 ◆◇◆◇◆ レティヴィア家 ◆◇◆◇◆



「「「「く、クラッカーロック!!」」」」


 僕の話を聞いて、家族は驚いていた。

 中でもクラヴィス父上は神妙な顔で、髭をさする。


「地中を住み処とする岩系の魔獣だが、まさかあの表面が食べられるとは……」


 にわかに信じられないらしい。


「表面が硬くて食べられないのではないかしら?」


 あらあら、とソフィーニ母上は首を傾げる。横でリーリスもうんうんと頷いていた。


「確かにそのままで食べるとただの岩なんですが、不思議なことにクラッカーロックは一定の温度で焼くと、岩が緩くなってクッキーみたいに食べることができるんですよ」


 こう説明しても信じられないだろう。


 僕はあらかじめ用意していたクラッカーロックのクッキーを、カンナさんに持ってきてもらった。


 見た目は普通のクッキー。

 それを見て、益々家族の疑念は深まったようだが、すでに僕の魔獣食に慣れている人たちばかりだから、思い切って囓る。


 穀物の塊を砕く小気味良い音が口の中から聞こえてくる。

 最初は眉間に皺を寄せていた顔が、次第に陽が差したみたいに明るくなっていった。


「「「「お、おいしい!!」」」」


 家族が声を揃えて称賛する。


「素朴な味だが、噛み応えはまさしくクッキーだ」

「咀嚼するたびに、ほのかな甘みがあって」

「風味もいい。麦畑に迷い込んだような芳醇な香りがする」

「香りもいいですわね」


 クラヴィス父上、ソフィーニ母上、カリム兄さんやリーリスも目を細めた。


「バターも使ってないのにこんなにうまいとはな」


 ロラン王子も感心しきりだった。


 父上の言う通り、素朴な味わいだけど、普段華やかな料理に囲まれている公爵家の家族にとって、このクッキーは新鮮な味わいなのかもしれない。


「クラッカーロックは地中にある様々な成分を吸収・分解すると聞くが、よもやそれを焼くとクッキーになるとはな」


 魔獣学者であるクラヴィス父上は、別の意味でも驚嘆していた。


 確かにクラッカーロックのクッキーは栄養価も高い。食べ過ぎは禁物だけど、非常食とするにはちょうどいいかもしれない。


 実際、山にいた時、冬場なんかはこのクッキーをため込んで飢えを凌いでいたこともある。

 焼かなければただの岩なので、日持ちするのだ。


 ちなみに納涼祭で作ったお菓子の家では、建材の一部としてすでにデビューしていたりする。


「さて! じゃあ、今度はクランブルチーズケーキを食べてみてよ。ブルーシードを使ったね」


 皆の前にカットされたクランブルチーズケーキが並べられる。


 先ほどのクラッカーロックのクッキーの上に、あのブルーシードが入っているケーキを見て、家族のみんなはうっとりする。


「まさかブルーシードを食べられるとは」

「あなた……。長生きしてみるものですね」


 今の両親は顔を合わせて、微笑む。


「さあ、早速食べてみて下さい」


 皆、フォークを握り、縦にカットする。

 思い思いの方法で、口の中に運んでいった。


 ロラン王子もクライスさんに味見をしてもらってから、自分も口を付ける。


「「「「おおおおおおおおおお!!」」」」


 一斉に唸り声が上がる。


「うまい!!」


 一際大きかったのは、ロラン王子だ。

 一口、二口と夢中で食べている。


「先ほどのクラッカーロックの生地がサクサクでよいのぅ」


「はい。王子。やっぱりクッキーにはバターが入っていると、またひと味違いますね」


 リーリスもご満悦な様子だ。


「クリームチーズは自家製か、ルーシェル」


「はい。自分で作りました」


「まろやかね~。檸檬の酸味もよく利いてる」


 ソフィーニ母上は目を細めた。


「何よりやはりブルーシードだな。ブルベリーよりも甘く、酸味も爽やかだ」


「うむ。クラヴィスの言う通りだな。それがチーズの酸味とよく合っておる」


 ロラン王子は幸せそうな顔をして、頬を膨らませた。


「あなた、気付いた? 同じクリームチーズでも、下と上の層とでは違うのよ。上は硬く、層が下にいけば下に行くほど、スフレみたいに柔らかいの」


「ソフィーニ母上の言う通りです。二種類のクリームチーズを使って、上と下で違いをつけています」


「言われてみれば……。なるほど。上にかかっているクランブルの硬さに、チーズが負けないようにするためだな」


「正解です、父上」


 それに上が柔らかいクリームチーズだと、下のスフレ状のクリームチーズが沈んで混ざってしまう。2つの性質を保持するためにも、クリームチーズを使い分けたのだ。


「この食感も最高だが、チーズとブルーシードの酸味の相性が抜群だな」


「その上、檸檬の酸味も加わって、口溶けがよく、爽やかに広がっていくのがいいですね」


 瞬間、しんと静まった。


 みんなが最後の発言者の方へと向く。


 僕も驚いたけど、本人も周りの様子の変化に戸惑っていた。


 クライスさんだ。


 どうやらブルーシードを使ったクランブルチーズケーキを気に入ってくれたらしい。


 口元にはちょこっと、クランブルの後がついていた。

 ちょっと惚けた顔からは、女性らしい可愛さを感じる。


「な、何か私……。変なことを言ったでしょうか?」


「いいや。……どうやらお前も魔獣食に取り憑かれたようだな、クライス。口にクッキーのカスがついているぞ」


 鬼の首を取ったりとばかりにロラン王子は意地悪く微笑んだ。


 すると、クライスさんは顔を真っ赤にして、慌てて口元をナプキンで拭う。


 平静を装ったがすでに遅かりしだった。

 意外と表情豊かなんだな、クライスさんって。


「お、お見苦しいところを見せてしまい申し訳ありません」


 ぺこりと謝ると、みんな堪えきれず、ドッと笑いが起こる。


 みんながブルーシードのクランブルチーズケーキを気に入ってくれたことと、クライスさんの意外な面を見れて、僕は満足だった。


 一方、ロラン王子は自分の手の平を見ていた。


「どうしました、王子?」


 クライスさんが尋ねる。


 ロラン王子は薄く微笑むと。


「いや、なんでもない」


 と返すだけだった。


小説は9月2日に発売です。

ルーシェルと、リーリス、さらに新キャラアルマとおいしい鱈のパイ包みが目印ですよ。

ご予約お待ちしてます。


ISBN ‏ : ‎ 978-4065290460


挿絵(By みてみん)

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