表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】公爵家の料理番様 ~300年生きる小さな料理人~  作者: 延野正行
第三部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

112/290

第109話 魔獣クッキー

☆★☆★ 書籍 9月2日発売 ☆★☆★


『公爵家の料理番様~三〇〇年生きる小さな料理人~』は、

9月2日発売されます。

TAPI岡先生による可愛いキャラクターとおいしい料理をご堪能ください。

さらにWeb版とは違った、モフモフのマスコットキャラクターも出てきますよ。

よろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

「本日のデザートをご紹介します」


 僕が言うと、食堂のドアが開いた。

 カンナさんが荷車を引いて現れる。荷車の上には、銀蓋を被せた皿が置かれていた。


 静かにテーブルの上にのせると、銀蓋を開く。


『おおおおおおおおお!!』


 濃い飴色と、暗色の実が散らばるケーキを見て、食堂にいる全員が声を上げた。

 甘いバターの香りに、ロラン王子は思わず唾を飲み込む。

 クライスさんも息を飲んでいた。


「ブルーシードを使ったクランブルチーズケーキです」


 料理名を紹介すると、事情を知らない家族や、そしてクライスさんも驚いていた。


「なっ!」

「ブルーシード!」

「あの伝説の……。王の食べ物と言われた?」


 どうやら、みんなはブルーシードがどんな食材かわかっているみたいだ。


「はい。そのブルーシードで問題ないです」


「あれは確か万能の薬『霊薬(エリクサー)』の主な原料になっていたはず」


 クラヴィス父上は髭を撫でた。

 カリム兄さんも、綺麗な顔を歪めている。


「種が絶えたとばかり思っていたけど」


 ここから割と近い場所の山の中にあった――なんて言ったら、また驚くんだろうなあ。


 僕は苦笑しながら、ブルーシードの出自については誤魔化した。

 あまり乱獲されて、争いの火種になっても困る。


 守護獣のキマイラも大変だろうからね。


 ふとクライスさんを見ると、何か考えごとをしてるみたいだ。

 ロラン王子には包み隠さず話していいと言われたけど、本当に良かったのだろうか。


「ふふん。このケーキに関して、我が1番頑張ったんだぞ!」


 僕の思考に割り込むようにユランは胸を反る。


「本当かい、ルーシェル」


「ええ。ユランにしかできないことですからねぇ」


 僕は調理を始める1時間前のことを思い出していた。



 ◆◇◆◇◆



 僕は屋敷を一旦抜け出し、竜の姿になったユランの背に乗って、近くの岩山へと赴いた。


 ブルーシードをおいしく食べるためには、もう1つの材料が欠かせないからだ。


「こんな岩山に食材などあるのか、ルーシェル?」


 人間の姿に戻ったユランが辺りを見渡す。

 荒涼とした岩場には、食材どころか植物も生えていない。水場の近くにないから、魔獣や動物の気配も存在しなかった。


「あるよ。むしろこういう岩場にしかいないんだ、あの魔獣は」


「あの魔獣? また魔獣の食材か?」


「ユラン、好きだろ? それにロラン王子のためにも、頑張って作らないと」


「カンナが言っていた〝誠意〟というヤツか」


「それもあるけど、ユランが頑張って作ったって聞いたら、とっても喜んでくれると思うよ」


「我を許してくれるか?」


「もちろん」


「良かろう。最善を尽くそうではないか」


 ユランはニヤリと笑い、銀髪を靡かせた。


 まるでその言葉に呼び寄せられたかのように突如、地面が膨れ上がる。

 それも1つじゃない。いくつもだ。


 まるで芽が出る直前みたいに土が盛り上がると、直後岩を纏った足のない巨人が現れた。


 黒目のない目に、大きな拳。全身を岩で包んでいる。足は地面に埋まったままだけど、スゥーッと僕たちの方に迫ってきた。


「なんだ、こやつらは?」


 濃い飴色の岩の巨人を見て、ユランは戦闘態勢に入る。


「クラッカーロック……。僕たちを食べにきたのさ」


「クラッカーロック? なんだ、そのおいしそうな名前は?」


「君にとっては、取るに足らないCランクの魔獣だよ。くるよ、ユラン」


 クラッカーロックは土の中から岩を持ち上げる。そのまま僕とユランの方に向かって投げた。


「ふん! この程度の岩! よけるまでもない」


「油断したらダメだよ、ユラン。その岩には秘密が……」


 バンッ!


 直後、岩は爆発したように弾けた。


 岩の破片が高速でユランに襲いかかる。


「痛ててててててて!! なんじゃこいつの攻撃は!!」


「クラッカーロックは、岩爆弾作りの名人なんだ。大量の岩の中に、爆弾の材料となる硝酸なんかを詰め込んで爆発させるんだよ」


「それを早く言わぬか、ルーシェル」


「君の鱗なら、傷一つ付かないくせに」


「当たり前だ。我を傷付けられるものなどおらん。でも、ひっかき傷みたいになるであろう」


 なるほど。

 気にはしてるんだ、そういうこと。

 ユランもだいぶ女の子らしくなってきたなあ。

 これも普段リチルさんや、カンナさんに色々洗脳――もとい教授してもらっているおかげか。


「もう! あったまに来た! お主ら、全員こうだ!!」


 ユランは岩飛礫をくらいながら、大きく息を吸い込む。

 直後、炎を吐き出した。


 まるで1本の槍のように飛び出した火線はたちまち周囲のクラッカーロックをなぎ払う。


 さすがホワイトドラゴンの炎だ。


「いいぞ、ユラン。ただ1匹だけ残してほしいんだ」


「良かろう!」


 ユランは指示通り、クラッカーロックを1匹だけ残す。


 先ほどまでの岩爆弾の勢いがなくなったおかげで、僕は楽に魔法を使うことができた。


【氷大次元地獄】!


 氷の魔法を放つ。


 一瞬にして、クラッカーロックは氷漬けになってしまった。

 この魔法は相手の動きを止めるだけじゃない。すべての機能を停止させる。

 つまり、魔獣に起こる消滅化という機能も、止めてしまうのだ。


 クラッカーロックの表面を叩き、魔法が正しく機能しているか確認する。


「よし。うまくいった」


「こいつを凍らせてどうするのだ、ルーシェル」


「まあ、ちょっと見てて」


【魔法殺し】


【スキル威力上昇】


【硬度上昇】


【腕力上昇】


【打撃上昇】


 僕は複数のスキルを手に宿らせる。


 ちょっとやり過ぎたかな。

 あんまり勢いよく叩くと、吹っ飛ばしてしまうかもしれない。


 僕はコツンとクラッカーロックを叩く。


 瞬間、その衝撃はクラッカーロックの核――魔晶石まで届く。そして一瞬にして砕け散ってしまった。


 それによって、クラッカーロックの外殻――つまり、岩の部分だけが綺麗に残った。


「相変わらず器用なヤツだな、お前は」


「そんなことないよ。ユランも訓練すれば、すぐにできるさ。じゃあ、ユラン。今度は、この氷を溶かしてくれる。火力は抑えめでね」


「そういうのは苦手だと言ってるだろ」


「これも訓練だよ」


 む~ぅ、とユランは頬を膨らませる。

 渋々といった感じで、僕の言うことを聞くと、炎を吐き出す。


 先ほどのように刺すようにではなく、ゆっくりと炎を浴びせる。


「うまいうまい。やればできるじゃないか、ユラン!」


 僕は拍手するけど、ユランの方は必死だ。

 応える余裕もないらしい。


 2分ほどかけて、氷漬けになっていたクラッカーロックを溶かした。


「これで良いか、ルーシェル? ――ん?」


 クラッカーロックを溶かし終えたユランは何かに気づく。

 僕も漂ってきた香ばしい香りを、胃の中いっぱいにため込んだ。


「なんだ? すごくおいしそうな匂いがするんだが」


「気づいた? クラッカーロックの岩はね。氷漬けにしてから溶かすと、クッキーみたいに甘い匂いがするんだ。……というより」


 僕はクラッカーロックの破片を手で割る。


 さらに割れた一部を口に入れて、硬い音をさせながら、クラッカーロックを噛み砕いた。


「ちょっと硬いけど……。クラッカーロックの身体は、全部クッキーなのさ」


 僕は微笑むのだった。


拙作原作『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』コミックス2巻が、

発売中です。ニコニコ漫画少年部門1位を取った作品となっております。

こちらもおいしいお話になっておりますので、よろしくお願いします。

(下記にリンクがございます)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第2巻12月15日発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


コミカライズ版もよろしくお願いします
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


シーモア様にて2巻発売!
↓※タイトルをクリックすると、シーモア公式に飛びます↓
『宮廷鍵師、【時間停止】と【分子分解】の能力を隠していたら追放される~封印していた魔王が暴れ出したみたいだけど、S級冒険者とダンジョン制覇するのでもう遅いです~』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


シリーズ大重版中! 第7巻が10月20日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本7巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本4巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


コミカライズ10巻5月9日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる10』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス9巻 5月15日発売!
70万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新小説! グラストNOVELS様より第1巻が4月25日発売!
↓※表紙をクリックすると、公式に飛びます↓
『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』書籍1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




3月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本3巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新作です!
↓※タイトルをクリックすると、ページに飛ぶことが出来ます↓
追放王子、ハズレギフト【料理】を極める~最強のもふもふ国家で料理番を始めます。故郷の国が大変らしいのですが、僕は「役立たず」だったので関係ないよね~



『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



<『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




今回も全編書き下ろしです。WEB版にはないユランとの出会いを追加
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』待望の第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] >「ちょっと硬いけど……。クラッカーロックの身体は、全部クッキーなのさ」 クッキーモンスター「アイデンティティの危機!?」
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ