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【書籍化】公爵家の料理番様 ~300年生きる小さな料理人~  作者: 延野正行
第三部

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111/290

第108話 大好評でした!

◆◇◆◇◆ 書籍1巻 発売 ◆◇◆◇◆

いよいよ9月2日発売です!

かわいいルーシェル、リーリス、さらに新キャラアルマを加えた300年の物語を是非ご堪能下さい。

TAPI岡先生による飯絵も最高なので、一読の価値ありですよ。


挿絵(By みてみん)

「どうだ、クライス?」


 クライスさんが思わずふた切れ目に手を伸ばしかけた時、ロラン王子はちょっと意地悪な感じで尋ねた。


 ハッと我に返ったクライスさんは、顔を赤らめる。


 1度襟元を直し、喉を整え顔を上げたけど、時すでに遅しだ。


 それでもクライスさんは、言葉を続けた。


「申し分ありません」


 太鼓判を押す。


「サックリと上がった衣。肉質はちょっと硬めですが、層状になっていることによってとても柔らかい。豚か鳥――あるいはその中間と言ったところでしょうか。それにこの肉汁が素晴らしい。旨みがたっぷりで、少し甘さも感じられました。独特の臭みはありますが、普段食する肉との違いが出ていて、一種風味として楽しむことができるように思います。それに――――」


「クライスよ。余は別に味のことを聞いておらんぞ。この料理は安全かどうか質問しているのだが……」


 ここでもロラン王子の意地悪な質問だ。


 完全にクライスさんをからかっている。


 何か恨みでもあるのかな? クライスさんに。


 これが魔獣料理であることをクライスさんに明かした上で食べてほしい、といったのはロラン王子だけど、多分何か考えがあってのことなのだろう。


 当然、クライスさんの顔は真っ赤になっていく。


 我に返ったと思ったら、やはりまだ本調子を取り戻していなかった。恥ずかしい――――といったところかな。


 表情が読めない人だけど、意外と素はお茶目でわかりやすい人なのかもしれない。


「す、すみません、ロラン王子」


「良い。それで、どうだ?」


「……も、問題ありません。どうぞお召し上がり下さい」


「うむ。どこぞの側付きが勿体付けてくれたからな。お腹がペコペコだ」


 ロラン王子は改めてナイフとフォークを握る。


 そして揚がったばかりのキマイラ肉のミルフィーユ揚げの香りを楽しんだ。


「う~ん。いい香りだ」


 タネトバシの油は、胡麻油と似ているが、それよりもさらに香り高い。おかげで、さらにお腹が空くのだ。


 ロラン王子はナイフを入れる。


 先ほどクライスさんがやったようにザックザクと小気味良い音を立てた。


「まるで宝箱の蓋を開ける心地だな!」


 今食べてるのは、肉を重ねただけのプレーンタイプだ。


 そこから染み出してきたのは、トロッとした肉汁だった。


 見た目にも、香り的にも食欲をそそられる。


 となれば、後は味だけである。


「いただくぞ」


 口を大きく開けて、キマイラ肉のミルフィーユ揚げを食べる。


「うっっっっっまあああああああああ!!」


 ロラン王子は絶叫した。


 テーブルマナーの講師が横にいれば、目を光らせて叱ったかもしれない。


 だが、ロラン王子は夢中で頬張っていく。


「クライスも言っていたが。肉質は硬い。――が、薄切り1枚1枚を味わうとガツンとした食感が返ってくる。だが、ミルフィーユ状にしたことによるものか、とても柔らかい。胸肉というが、まるで高級牛のロースのような噛み応えがある」


 料理を評しつつ、ロラン王子はサクッと音を響かせた。


「この衣も絶品! 音が良い。少し塩気があるな。これは――――」


「パン粉の中に、粉チーズを入れました。チーズの塩みが、キマイラ肉とよく合うんですよ」


「チーズか! なるほど! このサックリした食感もパン粉だけではなく、チーズのおかげでもあるのだな」


 まるで聞かせるように、ロラン王子はサクサクと音を奏でる。


「うん。肉の味も良い。肉を薄くすると、旨みをあまり感じないものだが、この薄さでも十分独特の旨みを感じる。クライスの言う通り、少々臭みを感じるが、これもこれで実に雅だ。食用では感じられない、野生の息吹のようなものを感じられる」


 顔いっぱいに幸せを浮かべながら、ロラン王子は頬張る。


「王子、如何でしょうか? 息子の料理は?」


「うまい! この一言に尽きる!」


 少し脂っぽくなった口内を、ロラン王子は葡萄を搾ったジュースで潤す。


 朝にヴェンソンさんたちが摘んできた葡萄で作ったジュースだ。


 夜に溜めた水分を損なう事なく摘み取られた朝摘み葡萄は、甘くさらにさっぱりとした味わいで、肉料理に非常に合うのだ。


「見てないで、そなたらも食べるが良い。熱々のうちがうまいぞ」


 ロラン王子のご許可をいただいたところで、家族も食べ始める。


 すると父上も母上も、そしてカリム兄様も満足そうに笑みを浮かべた。


「うまい!! これはうまいぞ!」

「おいしいわぁ。お肉を層状に重ねるなんて。とても素敵なアイデアね」

「リーリスも手伝ったのかい?」


 最後にカリム兄様が尋ねる。


「はい。リーリスだけじゃなくて、ユランも手伝ってくれました」


「ほう。ユランもか。偉いぞ」


「むふふふ……。存分に褒めるがよいぞ」


 ユランはえっへんと胸を反る。


 良かった。ロラン王子も、クラヴィス父上たちにも大好評だ。


「ルーシェル、そなたもボウッと立ってないで、余の晩餐に加われ」


「はい。喜んで」


 僕とリーリス、ユランも席に着く。


 僕たちに代わって、給仕の人たちが持ってきてくれたのは、もう1つのミルフィーユ揚げだ。


「おお。そっちはもしかして……」


「はい。チーズを挟んだものですね」


「おお! なんと!」

「チーズですか」

「それは楽しみだ」


 皆が運ばれてきたミルフィーユ揚げに注視する。


 早速とばかりにナイフを引くと、肉汁とともにトロッとしたチーズが垂れてきた。


「おいしそう!!」


 ユランが皿を見ながら、目を輝かせる。


 もう見た目からおいしそうだった。


 そのインパクトに皆が言葉を失うほどだ。無意識に唾を飲み込んでしまう。


 作った本人すら飲んでしまうのだから、相当だろう。


 チーズは普通の牛酪だけど、水分量の少ない少しハードなタイプを選んだ。


 硬いチーズの方が熱を通した時のとろみ感がいい。


 さらに水分を落とし、熟成が進んでいるため香りも最高だ。


「いただきます!」


 ロラン王子を含めて一斉に口にする。


 シャッと鋭い肉汁のシャワーの後で、チーズの塩みと酸味が爽やかに広がっていく。


 熟成したチーズは旨みも良く、キマイラ肉の旨みにも負けていない。


 さらに薬草とトマトのピューレが、酸味を後押し、複雑ながら爽快感ある味に仕上がっていた。


 お肉を食べてる感覚はあるけど、どちらかというと野菜を巻いたお肉を食べてるみたいで面白い。


 チーズのとろみが、柔らかな食感の手助けにもなっていて、歯ごたえもプレーンとはまたひと味違う。同じ肉なのに別の肉を食べてるみたいだ。


 当然、ソンホーさんが作った料理も並ぶ。


 キマイラ肉の脂分が大目だからか。優しい味の料理が多い。


 特に(カーム)のスープが絶品だった。


 味付けは塩だけというけど、(カーム)の出汁がよく出ていて、脂でいっぱいになったお腹にはちょうど良い優しい味だ。


 そして、忘れてはならない。


 あの食材を使った料理が出てくる。


本日、拙作『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』の更新日となっております。ニコニコ漫画で無料で見れますので、こちらもよしなに……。

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