第101話 復活!
連載が空いて誠に申し訳ありません。
ちょっと6月は色々とお仕事が重なりまして……。
6月いっぱいは続きそうです。
その代わりですが、新作『Fランクスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、ゴミカス呼ばわりした帝国を滅ぼすことに決めました~』という作品を毎日投稿しております。第一部もクライマックスのところまで来ておりますので、是非読んで下さい。
後書きの下にあります!
「こんなものかな」
キマイラを倒し、それを解体し終えた僕は早速ロラン王子とともにブルーシードを集め始める。
ブルーシード自体の採取方法に難しい点はない。
ただ絨毛状になったエルドタートルの胃の突起の先についたブルーシードを取るのは、子どもの力ではなかなか困難だ。
結局、ロラン王子はブルーシードを採る僕の事を見ていることしかできなかった。
「ルーシェル、結論としてここはどういう場所だったと考える」
「というと?」
「先ほどのキマイラは明らかにここのブルーシードを守る番人として、何者かに仕込まれたものだ。とてもではないが、自然にできたものではない」
「さっきも言いましたが、おそらく昔の王様が敷いた禁足地だったという可能性が高いです。ブルーシードを誰かにとられないように、場所を隠し、万が一のためにキマイラを置いた。そういうことだと思います」
「要は王族で独占しようとしたというわけか。今も昔も変わらぬな」
ロラン王子は目を細める。
口調こそ乾いていたけど、言葉には強い怒気が滲んでいた。
もしかしてロラン王子は、王族――というものに対して、ある種の悪感情を抱いているのだろうか。
尋ねてみたいとは思ったけど、さすがに僕からは憚れる。
いくら仲が良くて、王子が友達だと認めてくれていても、少し踏み込みすぎるような気がして、僕は逡巡する。
僕の躊躇いを察するかのようにロラン王子は言った。
「ルーシェルよ。余は王族というものが好かぬ」
思わず手を止めた。
王族であるロラン王子が、自らを否定する言葉だったからだ。
「というよりは、権力者というものがあまり好かぬ。多種多様な考えを持つ人間を束ねるのは良い。国民を守る抑止となることもな。だが、個々人が得たものをさも自分のものだと言わんばかりに搾取する野獣の如き君主がほとんどだ。……恥ずかしながらミルデガード王家も過去の君主と変わらぬ。未だに魔族との戦争の爪痕が深く残り、戦後の復興もままならぬ国すらあるというのに、王宮では下らぬ権力争いが続いている」
「王子……」
ロラン王子はフッと息を吐く。
いつもピンと伸びている王子の背筋が、珍しく曲がっていた。
権力者たる重圧というよりも、その内部に抱える悲哀に、お悩みになっている様子だった。
「ロラン王子……。そこまで悲嘆に暮れることもないです。確かに王子の見てきたものは、頭の痛い問題かもしれません。でも、少なくとも僕やリーリス、レティヴィア家の人間が幸せに暮らせているのは、王子とそのご家族のおかげです。それに――――」
僕は顔を上げる。
「ブルーシードを独占したくて、この権力者はこの場所を禁足地としたわけではないと思います」
「ほう……。それはどうしてだ?」
「独占しようというなら、もっと近くに都を構えるはずです。あるいは、すべてのブルーシードを摘み取り、自分の手の届く範囲に置いておくと思います。ですが、この辺りは大自然が広がるばかりで文明を感じさせるものはありませんし、この通りブルーシードは実を付け続けている」
「では、時の権力者は何故ここを禁足地とした?」
「ブルーシードを悪意ある者に渡さないため、利用させないためではないですか?」
ロラン王子は目を細める。
「ブルーシードの稀少性はわかるが、それでも強力なキマイラを置いてまで守る価値があるのか? やはり余には権力者の傲慢が見透けてしまうのだが」
ロラン王子には王族としての視点があるのだろう。
同時に僕には食材に対する知識、300年生きる人間としての勘――その視点がある。
「あります。ブルーシードを悪意あるものに渡してはいけない理由が」
「それはなんだ?」
「ブルーシードが『霊薬』の材料になるからです」
「なっ! 『霊薬』じゃと! あの死人も蘇るという伝説の薬か!」
死人が蘇るわけじゃないけど、それに近いことができる薬――それが薬学の最高到達点といわれる『霊薬』だ。
どんな傷や欠損も立ち所に元の状態に戻す伝説上の妙薬。
傷だけではなく、視力や記憶力を回復させたり、不治の病を治したり、1滴飲むだけで、3歳若返るともいわれている。
「とても強力な薬ですが、1度その存在を知られれば、悪意ある者の悪事に使われる恐れがある。だから、時の権力者はブルーシードを誰にも採らせないようにしたんだと思います。……まあ、あくまで僕の言ったことは、その権力者がいい人だという前提でのお話ですが」
でも、ここを禁足地として、守護獣を置いてまでブルーシードを守ろうとした人間の思考をすべて窺い知ることはもうできない。
僕もロラン王子もだ。
「…………」
その王子は、腕を組み口のへの字の結んだまま微動だにしなかった。
気を悪くしただろうか。
王子様の言うことを全否定したんだから、仕方ない部分もある。
でも、ロラン王子が抱える悩みを少しでも軽くして上げたかった。
確かに王子が今まで見てきた王族や大人の世界は相当惨かったと思う。
けれど、悪い部分だけを目にしては大局を見誤る。
同時に、それはロラン王子の人生そのものを狂わせるかもしれない。
レティヴィア家に来る前。
僕は300年も生きる僕自身の存在が罪だと思っていた。
だから、勝手に悪い人間なのだと思い込むようになった。
だけど、今の父上――クラヴィスは、僕を救いたいと言って、家族として迎え入れてくれた。
あの時、ずっと山で生き続けていれば、取り返しの付かない人間として歪んだ存在になっていたかもしれない。
そして、僕もヤールム父様のように……。
ロラン王子にはそうなってほしくない。
少なくとも、家族を嫌いになってほしくなかった。
「そなたの言う通りかもしれんな」
「王子……」
「余が浅はかであった。……なんでもかんでも権力者を悪くいうものではない。個々人に考えがあるように、権力者とて十人十色ということか」
「その通りです、ロラン王子」
「しかしだな、ルーシェル。ならば、1つ困ったことがあるぞ」
「何でしょうか?」
「そなたは、その大事な守護獣を倒してしまったことになる。それはどうするのだ?」
あっ……。しまった。
そう言えば、そうだった。
「それどころか解体して食べようというのだ。……権力者が恐れた悪意あるものとは、そなたのことではないか?」
ロラン王子は意地悪く笑う。
半分冗談めかしなのはわかっているけど、キマイラを倒して、お肉にしたことは本当のことだから、反論できなかった。
「だ、大丈夫だと思います」
「また新たに守護獣を設置するのか? そうだ。火蜥蜴を置くのはどうだ?」
ロラン王子は提案するけど、僕は首を振った。
「確かに守護獣としての強さなら火蜥蜴は適当だと思いますが、炎がブルーシードを焼いてしまう可能性があります。やはり総合的に見て不適当かと。それにここにある守護獣のシステムはとても優秀です。半永久的に動きますからね」
ここまで見事なものは、僕でも作るのには時間がかかる。
それこそ100年単位で編み出された秘術なのだろう。
これを使わない手はない。
僕は解体した後にでてきたキマイラの魔晶石の欠片を拾い上げる。
結晶は脆く、ほんの少し力を入れるだけで、揚げた馬鈴薯みたいに粉々になってしまう。
それを手の平に集めて、僕は掲げた。
「どうするつもりだ、ルーシェル?」
「まあ、見ていてください」
回復魔法【再構築】
魔晶石に僕の魔力が灯る。
バラバラだった魔晶石がゆっくりと再生を始めると、元の形に戻った。
その瞬間、僕は魔晶石を放り投げる。
すると石からたくさんの管が、枝葉を伸ばすように伸びていく。
それは神経や血管、魔力回路、筋繊維といったものだった。
やがて、それが四つ足のついた獣の姿になっていった。
背中には鷲の翼を、獅子の鬣に、獅子の顔。鷲の頭が付く。
その尻の先には蛇が生え、牙を剥きだして僕たちを威嚇していた。
「なんと……」
目の前に出現した魔獣を見て、ロラン王子は絶句する。
そう。今、僕たちの前に現れたのは、先ほどまで戦っていた守護獣キマイラだった。
『おおおおおおおおお!!』
その復活を告げるように、声を発する。
雄叫びを聞いて居竦んだのか。それとも荒唐無稽な力に驚いたのか。
ロラン王子はとうとうペタンと尻餅を付いた。
「キマイラが復活した」









