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闘技大会 02

『闘技大会』1日目。

 魔術部門によるトーナメント戦が行われる。

 いつもは訓練場としてして使われている場所だけど、今日は観客が大勢いることで立派なスタジアムと化している。年にたった2日、この『闘技大会』の時にだけ、このスタジアムは本来の目的として使われる。

 遙か昔は1級貴族の各家を中心にチームが作られ、いくつものスポーツ大会がこのスタジアムで行われていた。しかしマリア王妃の件で、多くの貴族達が王族を見限ったことに夫のジョージア王が憤慨し、貴族達への報復として様々な愚策や禁止令を出した。各スポーツでのスタジアムの使用禁止もその1つであった。それ故、現在では教育課程の一環として行われている『闘技大会』でしか、スタジアムは使われていない。観客席が埋まるの1年ぶりになる。


「こうして上から眺めるのは、不思議な感じがしますね」

「はい。2年前に私も初めて観客席に入った時は、シャーリーン様と同じように感じました。ですけど、この貴賓室は上の方にありますから、少し迫力に欠けますね」

「そうなのですか?」

「一番前の席は、とても迫力あるそうですよ。すぐ目の前で戦いが繰り広げられることもありますし」

「オードリーとアリスは間近で見たことがあるのですか?」

「いえ。礼官コースの友人達はあまり荒々しいのが得意ではありませんので。私も一緒に、後ろの方で観ていました」

「私は武術部門に参加していましたから、観客席ではなくグラウンドにいました」

「魔術部門は観なかったのですか?」

「はい。緊張して観ている余裕がありませんでした。心を落ち着かせようと、素振りや走り込みなどしていました」

「それでは、アリスも観客席に上がるのは初めてなのですね」

「はい」


 シャーリーン様がオードリーとアリスと楽しげに話している中、私は会場全体を見回す。観客席は全て10人用のボックス席だけど、恋人や親しい友人と少人数で使用している所もあり、満席に近い。中には派閥で数席利用している所もあった。

 確かにあの中でシャーリーン様を護衛するのは難しい。実際アーノルド王子が入学したばかりの時に、貴族派閥から流れ弾を装って魔法で攻撃されたことがあったらしい。当時は貴族派の勢いが相当強かったらしく、少しでも王族派の強さを示そうと同じ観客席にしたと聞きました。護衛のおかげで怪我はなかったそうですけど、大事になり、翌年以降は王子様も貴賓室で観戦するようになったとか。

 王子様のおかげで、王族派も多少強さを示せるようにはなりましたけど、まだまだ貴族派の方が圧倒的に多いですからね。危険は避けた方が良いでしょう。


「これより『闘技大会』を開催する。

 参加者は己の誇りに恥じぬよう、全力を尽くすように」


 隣の貴賓室から校長の挨拶がスタジアムに響いた。

 そして挨拶が終わると共に、入場口から参加する生徒達が続々とグラウンドに入ってきた。


「20人以上いるようですね。女性も半分くらいいますね」

「人数は去年と然程変わりませんが、女性は増えています」

「あそこにいるのは、今日行われる魔術部門の参加者だけですよね?」

「はい。明日行われる武術部門の生徒はいません。それにしても、女性が増えたのは何故でしょう?」

「おそらく、リラの影響かと思いますよ」

「私ですか?」

「ええ。女の人ながらも男の人を圧倒したでしょ。それで「私も」と頑張ろうと思ったのかと。私の学年、3年生の女の人達はそのような雰囲気でしたよ。多分4年生も」

「そう――ですか」

「それから、魔術部門ということもあるかと。武術と違って、性別や体格差は関係ありませんから」

「そうなのですか?」

「はい。参加者は皆、同じ杖を持っているのがわかりますでしょうか?」

「本当ですね。使い慣れた自分の杖ではいけないのですか?」

「はい。ルールとして、学校側が用意した杖を使います。事前に参加者に渡され、各自で杖に術式を書きます。杖は非常に脆く、魔力の規定値を超えた強力な術式を書けば、魔力を流した瞬間壊れてしまいます。規定値を超えないよう、いかに攻撃的で効果的な杖を作れるかが大事です」

「話を聞くと、文官向きのように思えるのですけど・・・」

「はい。中には文官に製作を頼む者もいます。ですが、大半は自分で作ります」

「何故ですか?文官の方が、効果的な術式を色々と思い浮かびそうな気がします」

「はい。ただ、文官は実験的な観点で術式を考えますので、勝敗には興味がないのです。勝とうが負けようがどうでも良く、仮に杖が壊れても、実験の一段階としか考えていないようです。

 ですから任せるこができず、自分で作ることになります」

「クリスティーナもそうですか?」

「そうですね・・・。自分が傷つかない分、思い切った術式とか書いてみたいとは思います」

「面白いですね」

「シャーリーン様、そろそろ試合が始まるようですよ」


 グラウンドを見ると、2人が中央に進み、他は端にある待機所へと歩いていた。

 どうやら私達が話をしている内に、参加者の紹介等は終わってしまったようだ。


「あの2人はどういう方ですか?」

「はい。赤髪の女性は4年生のパラダイス=サンライズマナー。先月時点では、評価はAでした。黒髪の男性は3年生のヘンダーソン=スパークス。評価はBです。詳しいことはこちらに」


 今回のために集めた資料から2人の分の抜き出して、シャーリーン様にお渡しした。


「それ、ティナが作ったの?」


 声のした方を見ると、リラが私が持っている資料の束を見ている。


「ええ。情報を集めるのは私の仕事だから。少しでもシャーリーン様に楽しんでいただければと」

「ふ~ん」


 チラチラと資料を見るリラの態度から、興味があることはわかった。でも今は護衛中です。


「リラ、護衛に集中してくださいね」

「わ、わかってるわよッ」

「後で見せてあげますから」


 私の注意に気を悪くしたリラですが、望みを叶えてあげたら、すぐに機嫌を良くしてくれました。ニコニコと嬉しそうな様子にときめいてしまいます。コロコロと表情や機嫌が変わるリラは可愛すぎます。それも私にだけ見せてくれるのですから、悦びで胸が一杯になります。


「始めッ!」


 リラに気を取られている内に試合が始まってしまった。

 慌ててグラウンドを見ると、2人が杖を向け合いマジックボールを打ち合っていた。パラダイスが小さなマジックボールを連射したのに対して、ヘンダーソン超高速のマジックボールを撃ち放つ。

 パラダイスは杖を動かしていたようで、マジックボールは扇状に飛んでいき、ヘンダーソンは逃げることが出来ず数発浴びてしまった。対してパラダイスは数歩横に動いて、ヘンダーソンのマジックボールを避ける。

 避けられてしまったことに驚いているヘンダーソンに、パラダイスが再び同じ攻撃を放つ。今度はしゃがみ込んで攻撃を避けたヘンダーソンだったけど、避けることに手一杯の様子。応戦して超高速のマジックボールを放つも、狙いが定まらずに、パラダイスから大きく外れてしまう。

 攻撃が上手くいかないヘンダーソンは焦り、マジックボールを続けざまに放つけど、動き続けるパラダイスには擦りもしなかった。

 そしてヘンダーソンの持っていた杖が突然砕けた。

 慌てて別の杖を取り出すも、パラダイスはその隙を見逃さず無数のマジックボールを放つ。しかも逃げ場のないよう、あらゆる方向に向けて。

 無数のマジックボールを受けたヘンダーソンの腕章が破れ、「そこまで!」という号令と共に試合が終わった。


「これで終わりですか?思っていたより呆気なかったですね」

「魔法使いの神髄は平静と緻密さと言われていますから。『闘技大会』ではどれだけ巧みに魔法を使えるかがポイントになります」

「もっと、こう、派手な魔法の応酬を想像していたのですけど」

「シャーリーン様の言いたいことはわかります。ですが、それは大きな武器を振り回しているだけと同じです。どの武器でも、まずは相手を崩す技が必要です。それが出来なければ、簡単に防がれるか避けられてしまいます」

「ああ!リラが決闘した時のようにですね」

「はい。それを見極めるために、このような戦い方になりました」

「つまり、壊れやすい杖も何か意味があるのですね?」

「勿論です。試合で説明が途中でしたが、戦闘時に平静を保つのは、魔法使いにとって重要なことです。

 基本的には後方にいますが、敵の魔法や矢が飛んできたりします。場合によっては敵が間近まで迫ることも。そのような時でも、防御は他の者に任せて魔法を使わなければなりません。自分の命を他人に全面的に委ねるのです。ある意味、前衛の者より覚悟が必要です」

「確かにアリスの言う通りですね。あッ、それでわざと壊れやすい杖にしているのですね。恐怖や焦りで魔力操作が乱れていないかわるために」

「はい。それともう一つ。恐怖で巨大な魔法を使わないようにするため、安全のためにです」

「そうなのですね。それでは、マジックボールに限定していることも理由があるのですね?」

「はい。1つ目は、魔法の相性による差をなくすためです。私が使える“火”の魔法では、“水”の魔法には勝てませんから。試合でそういったハンデをなくすため、魔力そのものであるマジックボールに限定しています。

 2つ目は、自由度が高いためです。マジックボールは、術者のイメージ通りに行使できることはご存知ですね?連射や超高速、大きくしたり、追尾性を持たせたりと様々な効果を持たせることが出来ます。試合では壊れやすい杖を使って、自由度を敢えて限定させることで選手は戦略を練る必要が出てきます。試合で使える杖は3本ですから、それぞれにどのような効果を持たせるのか?どの杖を軸に戦っていくのかなど。戦略を間違えれば、先程のように一方的な試合になります」

「いつまでも決着がつかない場合はどうするのですか?」

「一試合2分と決められており、それでも勝敗がつかない場合は、両者失格です」

「そうなのですね。それで、先程腕章が破れて試合が終わりましたけど、あれはどういうことですか?」

「はい。あの腕章は、ダメージを肩代わりする魔道具です。規定値を超えたダメージを受けると破れます。そうなったら負けです。ちなみに肩代わりするのは痛みだけですから、衝撃はそのままです。痛みはなくても恐怖は感じますから、それを克服できるかも重要です」


 シャーリーン様がアリスから説明を聞いている間に、2試合が終わってしまった。まぁ、気負いすぎによる魔力の込め過ぎで自分で杖を砕いてしまったり、恐怖か緊張で手元がぶれて、お互いに明後日の方向にマジックボールを飛ばし合ったりと、面白みに欠ける試合でした。はっきり言って、アリスの話の方が面白かったです。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 大会は順調に進み、決勝戦を迎えようとしている。

 1回戦と違い、2回戦に勝ち残った選手達は実力者揃いであり、試合が進むに連れ見応えも増してきた。皆が1回戦では隠していた実力を少しずつ見せ始める。杖にどのような効果を持たせているかはそれぞれだけど、皆一様に早撃ちだった。それでいて緊張で魔力操作を間違えてしまい、杖を砕くなどの肩すかしを食らうようなこともない。一瞬たりとも目が離せない、緊迫した戦いばかりであった。

 手首の返しだけで魔法を撃つ者、半身に構えて当たる面積を減らす者、上体を大きく捻って相手のマジックボールを避ける者など様々で、工夫に満ちた戦い方を見せてくれた。

 そして実力者を倒し決勝に勝ち進んだのは、4年生のパラダイス=サンライズマナーと同じ4年生のクラーク=ウィネマッカ。その2人がグラウンド中央で向き合っている。


「いよいよですね」

「そうですね」

「アリスはどちらが勝つと思いますか?」

「これまでの戦い方ですと、クラークの方が有利でしょうか?パラダイスの早撃ちは参加者の中で一番ですが、外さないように身体を狙う必要があります。対して、クラークは上体を捻って避けますから」

「リラはどうですか?」

「実力はパラダイスの方が上と思います。けど、試合でしたら、アリスの言う通りクラークが勝つかと思います」

「そうなのですね。

 あらっ、そろそろですね」


 2人の準備が整い、審判を務める先生が手を挙げた。

「始めッ!」の号令と共に、2人が杖を相手に向けてマジックボールを撃つ。

 真っ直ぐ相手に飛んで行ったマジックボールは、2人の間でぶつかりはじけ飛ぶ。続く2発目、3発目も同じ展開となる。

 互いの力が拮抗する状況に会場が盛り上がる。


「互角のようですね」

「そう――でしょうか?」

「違うのですか?」

「おそらくですが」


 アリスがそう答えた時、クラークが杖を変えて明後日の方にマジックボールを撃った。マジックボールは大きな弧を描いて、側面からパラダイスへと向かって行く。

 パラダイスは飛んでくるマジックボールを見ることなく、その方向に向けてマジックボールを撃った。パラダイスのマジックボールは、軌道を修正してクラークのマジックボールへと飛んで行く。そして子らまで同様、ぶつかりはじけ飛んだ。


「つまらない小細工ですね」

「チッ」


 あっさりと策を見破られたパラダイスが、悔しそうに舌打ちする。


「どういうことでしょうか?」

「パラダイスの杖は、マジックボールに向かって行く追尾性を持たせたものでしょう」

「ああ。それで、クラークのマジックボールに飛んで行ったし、全てぶつかっていたのですね。

 しかし、それが何か?」

「はい。パラダイスの様子から、罠を仕掛けていたと思われます」

「罠――ですか?」

「おそらくですが、クラークに焦りを感じさせるためかと。彼の立場で見ると、何発撃っても、全て途中でぶつけられているように思えるでしょう。全てを見透かされているように感じたかもしれません。そうなれば焦りも大きくなり、ミスも増えたでしょう」

「けれど、クラークは早々にパラダイスの企みを見抜いてしまったと」

「はい。しかも杖の特性上、攻撃することが出来ません。防戦一方でパラダイスに勝ち目はありません」

「それならば杖を変えれば・・・。成程、そうさせないようにクラークは攻撃の手を緩めないのですね。

 それにしてもよく気づきましたね」

「パラダイスは早撃ちが得意のはずなのに、この試合ではクラークの方が早かったですから。向かい合うクラークには、それがよくわかったのでしょう。

 あっ!シャーリーン様、クラークが動きました」


 アリスの説明に、シャーリーン様同様聞き入ってしまっていた私は、アリスの言葉でグラウンドへと目を向ける。クラークがマジックボールを撃ちながら、悠然とパラダイスに向かって近づいていた。

 遠目だけど、パラダイスが忌々しそうな表情を浮かべたのが見えた。近づきながらも、クラークはマジックボールを撃ち続ける。右や左、時には上からマジックボールがパラダイスに襲いかかる。後手に回ってしまったパラダイスは、それらを防ぐことしか出来ないでいる。その間、クラークは1歩ずつ近づいている。撃ち落とせない距離まで近づかれたら、先手を取っているクラークの勝ちがほぼ決まる。そうさせない為には、一か八か仕掛けるしかないでしょうけど。

 そう思っていると、パラダイスが持っている杖を手放して新しい杖を取り出した。その隙にクラークのマジックボールがパラダイスに当たる。

 いや、当たる直前にパラダイスもマジックボールをクラーク目がけて撃っていた。早撃ちの得意な彼女だからこそ撃てたのでしょう。一撃は覚悟して、不利な状勢を元に戻すために。

 側面から攻撃を受けたパラダイスは、大きくバランスを崩してしまう。直ぐさま態勢を立て直してクラークに杖を向けたけど、状況が変わることはなかった。

 様々な方向から、クラークの放ったマジックボールがパラダイス目がけて飛んできた。避けることも撃ち返すことも出来ず、パラダイスは地面に倒れて魔道具の腕章は破れてしまう。

 グラウンドには、上体を大きく捻ってパラダイスのマジックボールを避けたクラークが、杖を構えたまま立っていた。


「そこまでッ!勝者、クラーク=ウィネマッカ」


 先生の号令に会場が割れんばかりの声に包まれた。


「さすが決勝戦ですね。素晴らしい試合でした。

 明日も楽しみですね」


 1回戦の時はどうなるものかと思いましたけど、最後はシャーリーン様の仰る通り、素晴らしい試合でした。特にパラダイスの負け方は勉強になりました。策に頼りすぎても良くない、見破られれば窮地に陥ってしまうと。頭ではわかっていたつもりですけど、こう実例を目で見せられると、正しく理解していなかったと言えますね。私も気をつけないと。

 興奮冷めやらぬ表彰式の中、私達はアリスの先導で貴賓室を後にした。

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