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【84】修学旅行と男の秘密

 楽しかったマシロとの旅行も終わり、夏休みが過ぎて秋になり。

 高校生活の一大イベントとも言える修学旅行がやってきた。


 初等部は沖縄、中等部はアメリカ、高等部はどこだろうと思っていたら普通に大阪と京都だった。

 皆海外行き慣れている人が多いので、このあたりに落ち着くのかもしれない。


 一日目は大阪。

 城を巡ったりしながら、自由行動は当然のようにマシロと一緒に過ごした。

 紅緒が邪魔してくるんじゃないかと思っていたけれど、ヒナタがべったりとくっついてそれを阻止してくれていた。


 初等部のころから知り合いだという二人はかなり仲がいいようで、紅緒はヒナタを邪険に出来ない様子だった。

 ちょっと不満そうにしながらも、渋々ヒナタのいうことに従う。

 私がマシロといると紅緒はなにかと絡んでこようとするのだけど、毎回のごとくそれをヒナタが間に入って止めてくれる。

 おかげでマシロと二人で過ごす時間がちゃんと確保できた。



●●●●●●●●●●●●●●●●●


 ホテルはやっぱりというか豪華なホテルで、そして修学旅行のたびに一番困る風呂の時間がやってきた。

「ぼくがアユムの代わりに風呂に入ってくる」

「いやそれだと、私さっぱりできないよね」

 マシロの申し出はありがたかったけれど、水泳の授業の時のように、マシロに肩代わりしてもらってそれでオッケーというわけにもいかなかった。

 昔は背中の傷を言い訳に共同の風呂をどうにか見逃してもらっていたけれど、高等部ではさすがに使えない。


 それで話しあった結果、マシロが私の代わりに皆と大浴場に行って、皆が寝静まった後に部屋を抜け出して、こっそり大浴場で風呂に入ろうという事になった。

 女子はともかく男子は部屋の風呂に入ることが許されてないのだ。

 事情を分かっている宗介も協力してくれて、マシロが私の代わりに風呂に入っている間、部屋で待機する。


 私の部屋は宗介と一緒だ。

 事情を知っているし、気心も知れているからとっても楽でいい。

 しばらくしてマシロが宗介と一緒に部屋に帰ってきた。

 

「待たせたなアユム」

「ううん。大丈夫だったマシロ?」

 尋ねればマシロはもちろんと頷く。

 夜の十二時に待ち合わせして、それからマシロとは別れた。


「宗介もマシロをフォローしてくれたんだよね。ありがと」

「まぁアユムのためだからね」

 マシロがいる間、ずっと無言だった宗介にそう言えば、しかたなくだからというような口調でそう言った。


 遊園地でヒナタが仲を取り持ってくれて以来、宗介とは幼馴染として適切な距離を保っている。

 でも、宗介は未だにマシロのことをあまり気に入らない様子だった。

 顔を合わせると、表だって不快感を出したりしないものの、ピリピリした空気を纏わせる。


「アユムが浴場に行くとき、俺も一緒についてくから」

「えっ、いいよ。マシロが着いていってくれるって言ってたし」

 宗介の申し出を断る。

 心配してくれるのはありがたいけれど、マシロの暗示の力を使って浴場まで行くことになっていた。


「計画はちゃんと聞いてる。マシロが不思議な力を使って、人目につかないようにして、アユムと一緒に風呂に入るんだよね? アユムはマシロの事信頼してるみたいだけど、女みたいななりしてても男だから。危険だし俺もついてく」

 きっぱりと宗介は告げる。

 私を心配して言ってるんだよという口調の中に、逆らえない響きがあった。


 ――マシロも男だけど、宗介だって男だよね?

 そう思ったけれど、つっ込めなかった。

 言ったところで兄妹みたいなものだからと言って、着いてくるだろうことは何となく予想できたからだ。

 

 夜中マシロが部屋にやってきて、三人で浴場まで移動する。

 周りにばれないようにという緊張感よりも、何か別の種類の緊張感があった。

 入るのは女湯じゃなくて男湯だ。

 宗介が先に入って、中に誰もいないことを確かめて、マシロと中に入る。


 服を脱いで風呂に浸かる間、宗介とマシロには脱衣所で誰も入ってこないよう見張ってもらった。

 さっぱりして後、脱衣所への扉をノックすればカチャリとドアが開いて、差し出された手からタオルを受け取り体に巻きつける。


「ごめん、ちょっと遅くなった」

「いいよ。それより早く着替えて」

 宗介に急かされて着替えを済ませて、脱衣所から出ればそこにはマシロがかなり不機嫌そうな顔で待っていた。


「そんなに待たせちゃった? ごめんね」

「いやそんなことはない。ただこいつが気に食わないだけだ」

 謝った私の横にいる宗介を睨みつけて、マシロが吐き捨てる。

「奇遇ですね。俺もです」

 宗介もそんなことをいって互いににらみ合う。

 どうやら私が風呂に入っている間に何かもめたらしい。


 本当に相性悪いなこの二人。

 そんなことをしてる場合じゃないと二人をせかして部屋に戻る。

「ねぇ、マシロと何話してたの?」

 問いかけると宗介は私から目を逸らして、それから背を向けて。

「……アユムには内緒。男同士の秘密だから」

 ベッドにもぐりこむと、おやすみと言ってさっさと寝てしまった。



●●●●●●●●●●●●●●●●●


 隠されると気になる。

 次の日の朝、マシロにも同じ質問をしてみた。

「アユムには秘密だ。男同士の話だからな」

 そしたら全く同じ答えが返ってきた。


 こんな時だけ仲良しなのかと思いながら、しつこく問いただしてみたけれど、教えてもらえなかった。

 たぶん私が関係していると思うのに。

 それがちょっと不満で。

「どうしたんすかアユム? 眉間にシワが寄ってるっすよ?」

 顔に出てたんだろう。

 朝食はバイキングで、隣のクラスのクロエが話しかけてきた。


「……人に話せない男同士の秘密の話って何だと思う?」

 つい尋ねてみれば、ははぁとクロエが訳知り顔をした。

「なるほど。宗介が何か話してて、聞こうと思ったらそういわれたっすね?」

 クロエが察しよくそんな事を言ってきた。

 つい驚いた顔をすれば、やっぱりというように笑う。


「男同士の秘密って言えば決まってるじゃないすか。宗介のやつがアユムに聞かせないようにしてるっすね。本当にアユムに対して過保護っす。アユムも男だから、興味があって当然なのに」

 ちょっと同情するように、クロエが口にする。

 どうやら、クロエも男同士の秘密とやらを知っているらしい。

 知らないのは私だけみたいで戸惑う。

 実際は女である私にはわからない、男だけの暗黙の了解的な秘密が存在しているようだ。


「クロエ、それボクに教えてくれないかな」

 頼み込めば、クロエはいいっすよと快くオッケーしてくれた。

「今日の深夜一時。902号室。ノックは小さく短くトン、トトンって感じでやればドアを開けるっす。他のやつらにはアユムも来るって言っといておくっすから、宗介にはばれないようにするっすよ?」

 宗介の位置を横目で確認しながら、小声でクロエは囁く。


「えっ? ここで教えてくれてもいいのに」

「聞いたって意味ないんすよ。見る方が早いっす」

 そこで何があるのと聞く前に、宗介が振り向いたので、さっとクロエは私から離れてしまった。

 行けば男同士の秘密が何か教えてくれるという事なんだろう。

 風呂を早めに切り上げて、宗介がぐっすり寝付いてから抜け出そう。

 そう心に決めた。

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