【45】女装でデートすることになりました
白いワンピースは膝丈で、ふんわりと広がる裾が可愛らしい。
指先には薄い桃色のネイル。くるんとあげられた睫毛。
私には、鏡の中に映る自分が普通に女の子に見えた。
「駄目だな。女装した男にしか見えねぇ・・・・・・」
そんな私を見て、良太がわかってはいたんだというように残念そうな声を出す。
「そう? 意外といけてると思ったんだけど」
「お前、俺が女装しろって言った時はえぇっとか言っといて、意外とノリノリじゃねぇかよ」
私の言葉に、良太がちょっと引いていた。
別に私は、ノリノリというわけじゃない。
正直な感想を述べただけだ。
私の目には、ちゃんとこの格好の私が女の子のように映っている。
髪はショートだし、どちらかと言えば中性的な顔立ちだけど、白いワンピースを着て男に見えるほうがおかしい。
けど、良太にはそうじゃないらしい。
ちなみに、なぜ私が女装(?)してるのかというと。
この前のナンパの際に、良太を一人残して立ち去った罪滅ぼしみたいなものだ。
ナンパしたお姉さんたちの中一人残された良太は、相当にしんどかったらしい。
「クロエさんも帰ってこないし、お前も連絡つかねーし。お姉さんたちは飽きて帰っちゃうし。次の日曜にはあいつに彼女を見せなきゃいけないんだぞ。今からナンパして彼女つくるなんて無理だろうが」
散々なじられ、罪悪感があった私は、できることならなんでもするからとつい言ってしまったのだ。
そして良太が出してきた案が、私が女装して良太の彼女に成りすますというモノだった。
現在、場所は良太の家。
良太の姉の私物をつかって、私は女装を試みていた。
大学生の良太の姉は小柄らしく、中学生の私と服のサイズは変わらない。
胸の部分がかなりガバガバしてたが、そこは詰め物をしてカバー。
化粧品を使って、簡単な化粧もしている。
前世では女子高生だった私は、薄化粧くらいは心得ていた。
結構いい感じじゃないかと、自分では思っていたのだけど。
「あぁ駄目だ。これ連れて行ったら、確実に俺笑われる。かといって、もうナンパしてる時間なんてないし。今日が当日なんだぞ。どうしたらいいんだ・・・・・・」
絶望した様子の良太。
それは少し酷くないかと思う。
前世の私は、普通にこの顔で女の子として過ごしていたというのに。
私には、『周りに男の子だと認識させる力』が働いている。
そうマシロは言っていたけれど。
これはその力が強すぎるせいで、女装しても男にしか見えないってことなんだろう。
そうに違いない。じゃないと泣く。
前世の私がかわいそうだ。
「せめてカツラと眼鏡すれば、少しマシになるか。たぶんどこかにカツラあったと思うんだよな・・・・・・ちょっと待ってろ」
良太がクローゼットを漁ったり、高い位置にある棚を開けて中を物色しだす。
「よしあった。これつけてみろ」
言われるままにカツラと眼鏡を装着すると、良太がポカンと口を開けた。
「なんだよ。どうせ男にしか見えないって言いたいんだろ」
「いや・・・・・・逆だ。女にしか見えねぇ。すげーよアユム! これなら絶対にあいつをぎゃふんと言わせられるぜ!」
ぐっと拳を握り締め、良太がキラキラした目で私を見つめてくる。その声には興奮が滲んでいた。
鏡を見たけれどさっきよりも髪が伸びて、眼鏡をした私がそこにいるだけだ。
良太が言うほどの劇的な変化はないように見えた。
「あんまり年上って感じはしねぇけど、なかなか美人だし。つーか、アユムって以外と女顔だったんだな。今まで気づかなかったぜ!」
良太は、私の化けっぷりに驚いているようだ。
なんだか納得がいかなかった。
「さっきまで男にしか見えないって散々貶してたくせに。眼鏡とカツラくらいで変わるわけないだろ」
眼鏡を取ってみる。すると良太がうーんと唸った。
「それ外すと、急に男に見えるな。なんでだ?」
「いや、こっちが聞きたいよ」
試してみたら、カツラ、もしくは眼鏡を取ると、私はとたんに男の子に見えるみたいだった。
「やっぱりあれだな。ボブヘアーと眼鏡の組み合わせに、魔法のような力があるんだな」
うんうんと良太は頷いている。
つまりはこういった見た目が良太の好みらしい。
良太はアホなことを言っているけど、髪と目さえ隠せば『周りに男の子だと認識させる力』は働かないって事なのかもしれない。
そうと仮定すると、マシロがいつも髪と目を隠さない理由にも繋がっている気がした。
プールの時も、マシロは頑なに帽子と水中眼鏡をマシロはしてなかった。
マシロが使う暗示の方はよくわからないけど、『周りの認識を操作する力』は、髪と目が見えていることが条件の可能性が高い。
これは意外な収穫だった。
「よし、じゃあ早速いくか。アユちゃん!」
自分を振った女の子に目にモノみせてくれるわと、良太はご機嫌だ。
「なんかその呼び方嫌だな・・・・・・」
手を引かれて、女装(?)した私は外へと一歩を踏み出した。
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それにしても、久々のスカートだとちょっと緊張する。
すーすーするというか、股の辺りが頼りない。
押さえる必要はないってわかってるのに、ついついスカートを手で触ってしまう。
昔はこれに慣れてたのになぁ。
恥ずかしいと思ってしまう自分が、ちょっと変な気分だった。
「ところで待ち合わせってどこなの?」
バスに乗る直前で訪ねる。
そういえば行き先を聞いてなかった。
「星鳴公園だ。このあたりだとオレたちの学校の奴らはあまりこないからな。あまり近くだと知り合いに会う可能性があるし」
バスに乗り込もうとした良太の手を、ぐいっと引いた。
「何するんだよ!」
「すいません。乗らないんで、行ってください」
良太をバスから引きずり下ろし、バスを見送る。
「おい、アユム! バス行っちゃったじゃないか!」
「そんな事どうでもいいよ! 何で待ち合わせ場所が、学園のすぐ側なの!」
文句を言ってくる良太に、負けじと言い返す。
星鳴公園は、星鳴学園のすぐ近くにあり、学園生の憩いの場所。
広い敷地は手入れが行き届いており、運動部のジョギングコースや、近所の人たちの散歩コースとなっている。
初等部の子たちの遊び場でもあり、駅近くの大通りに抜けられるので、学園生がよく通る場所でもあった。
「あっ、そうか。アユムあの金持ち学園の生徒だったっけ」
私に言われて、良太は気づいたようだった。
どうやら女装を思いつく前に、待ち合わせ場所が決まっていたため、そこまで考えていなかったらしい。
「まぁ大丈夫だって、そうそう知り合いにあわないだろ」
すっかり忘れていたらしい良太が、根拠のない慰めを口にする。
「あの公園、仲のいい友達が日曜になるとバスケしてるんだ。だから絶対駄目。星鳴公園なら、ボクはいかないよ」
休みの日になるとバスケ馬鹿の吉岡くんは、公園内にあるコートで練習をしていたりする。
鉢合わせる可能性が高い。
気づかれたら色々と終わる。
頑なな私の態度に良太が折れて、結局場所は変更になった。
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待ち合わせ場所は、天枷通りになった。
庶民向けの店が多く、娯楽施設や手軽な値段の品物が置いてある大きなデパートがあることもあって、私もよく行く場所だった。
美空坂のショッピングモールとは、また違った賑わいがあり、近くにオフィス街もあるのでサラリーマンやOLの人も多い。
ここならあまり星鳴学園の生徒は行かないだろう。
私は少しほっとした。
デパート前にある待ち合わせの広場に着くと、離れたところで待つように良太に指示される。
しばらくして、良太のところに二人の女の子がやってきた。
「それで、良太の彼女はどこ?」
気の強そうなボブヘアーに赤縁眼鏡の女の子が、良太に言い放つ。
こっちの子が、良太が告白して振られた子なんだろう。
勝手に心の中でボブ子ちゃんと命名する。
もう一人は付き添いなのか、一歩下がった位置で立っていた。
「あぁ紹介するぜ。俺の彼女のアユだ」
合図で良太の元に歩いていく。
ふふんと自慢げな良太の横に立ち、はじめましてと頭を下げるとボブ子ちゃんは目を大きく見開いた。
本当に彼女がいるとは思っても見なかったんだろう。
「へ、へぇ。結構綺麗な子じゃない。でも本当に彼女なの?」
「当たり前だろ。わかったところでもういいか? これから二人でデートする予定なんだ」
ボブ子ちゃんにはちょっと動揺が見られる。
それに対して、良太は余裕の態度だ。
「ふーん、じゃあデートの様子を見せて貰おうかしら」
「なんだよ疑ってるのか」
「当たり前でしょ。あんたなんかを好きになる物好きが、そうそういるわけないじゃない。女友達もいなさそうなあんたの事だから、親戚の子とかにお願いして彼女のフリしてもらってるだけなんじゃないの?」
ボブ子ちゃんの予想は、なかなかに鋭かった。
ボブ子ちゃんは、良太の事をよくわかっているようだ。
彼女のフリをしているのが、親戚ではなく男友達という点以外正解だ。
「彼女じゃないってバレるのが怖いなら、それでもいいけど」
「別にいいぜ。オレたちのラブラブっぷりを見ていけばいい。なぁハニー」
安請け合いするな良太! 紹介したら終わりじゃないのかよ! そしてハニーってなんだ。今時それは恋人に対して使うやついるのか!
そう訴えたかったけれど、声には出せなかった。
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「約束が違うよ良太! これどうするつもりなの!?」
「流れだよ、しかたねぇだろ! とりあえず、オレのことはダーリンと呼べ」
呼ぶわけがない。
良太の中でのラブラブカップルってどんな事になってるんだろうか。
後をつけてくる二人に聞こえないよう小声で話しながら、通りを歩く。
良太が私の手を握ってきた。
けど、なんかぎこちない。
縄跳びの縄を持たされている時のような感覚だ。
ぶらぶらと等間隔で揺れる手に、いつもどうやって歩いてたっけ? とわからなくなってくる。
お姉さんの靴を借りてきたので、慣れないせいか靴ずれを起こして足が痛くなってきた。
横を見れば、良太の顔は焦っていて、デートはノープランのようだった。
作戦会議を兼ねて、カフェに入ることを提案した。
良太が選んだ大人びたカフェに入り、二人用の席に座る。
ボブ子ちゃんたちは、こっちが見えるけど少し遠い席に座った。
これなら小声で作戦を話し合う事が出来そうだった。
店内にはお洒落なBGMが流れ、コーヒーの香りがする。
落ち着いた雰囲気の中、落ち着かない私と良太がいた。
色々検討した結果、近くにある水族館に行く事にした。
とりあえずムードある場所で、愛を囁いておけば誤魔化せるだろう。
そんな結論に達した。
お会計はオレがすると良太が言うので、先に店を出る。
少し上の空になっていたせいか、入ってきた客とぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい!」
謝りながら顔を上げて、私は目を見開いた。
私がぶつかった少女は、腰まであるふわりとした髪の女の子だった。
独特の着こなしはギャルっぽいけどセンスがあって、洗練されている。
目元には泣きぼくろ。ばっちり化粧の施された顔はどことなく気だるげ。
男の子にもてそうな小悪魔タイプの女の子だ。
私は、前世兄がやっていたゲームの中で、この子を見たことがあった。
前世で見た彼女は、もう少し大人びてるし、少し髪や目の色も違うけれど間違いない。
彼女は、前世の兄が理留のルートをプレイ中に、時々絡んできたサブヒロインだ。
理留のドリルインパクトの前には、霞んでしまって今まで忘れていた。
けれど、彼女を見た瞬間にこんな子いたと思い出した。
いやそれよりも、重要なのは。
全く顔は違うように見えるけれど、彼女の髪色が黄緑で。
理留の双子の妹である留花奈とまったく同じだということだ。
目の前の彼女も、私を見て固まっている。
付け睫毛がついた目を、大きく見開いていて。
ありえないものでも見るかのように、口は半開きだった。
「おい、アユ。行くぞ」
彼女とどれくらい見つめ合っていただろう。
良太に手を取られ、我に返った。
「アユ?」
カランとカフェのドアが開く音と共に、彼女が私の名前を繰り返したのが背後で聞こえた。
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落ち着け、落ち着くんだ私。
良太に手を引かれ歩きながら、自分に言い聞かせる。
なんで変装をしているのかはわからないが、色んな点から総合して、さっきの子は留花奈だ。
ゲーム内で理留を知っている私が、双子である留花奈を知らないのは変だなと思っていたのだけど。
あのキャラがまさか留花奈だったなんて。
留花奈と全く顔が違うし、そもそもあのキャラが理留の双子だと前世の私は知らなかった。
理留ルートに入ったとたん、主人公に好意を寄せてくるサブヒロイン。
ついうっかりこのキャラの方に浮気すると、即バッドエンドだと兄が言っていた気がする。
あとパソコン版では攻略対象外だったけれど、家庭用ゲーム機版ではヒロイン格上げになったとかなんとか。
私は彼女に全く興味を持っていなかったので、ふーんと聞き流していたけれど。
あれが留花奈だとすると、理留ルートのバッドエンドが理解できる。
気のあるフリをして主人公近づき、理留に寄ってきた虫として排除。
時折画面の中の理留の髪色が、ちょっと違うものだった時もあったけど、あれはきっと留花奈が変装していたという設定なんだろう。
まぁつまりは、そういう事だ。
まさかあれが留花奈だったなんて。
それよりも今は、私がアユムだってばれた事の方が問題か。
私が変装した留花奈に気づいたことも、きっと感づいただろう。
あれは確実に気づいた人の反応だったし、こっちも似たような反応をしてしまった。
思い悩んでいたら、ポケットの中で携帯電話が鳴った。
確実に留花奈からだと思ったので、画面も見ずにポケットの中で電源を落とす。
留花奈と仲はよくないけれど、以前携帯電話を二回ほど駄目にされた時に、連絡先は交換していた。
今、留花奈が関わってこれば、ただでさえややこしい状況がもっとややこしくなる。
経験上、私は身を持って知っていた。
靴擦れが痛かったけれど、無理して早歩きする。
一刻も早く、留花奈から逃げたかった。
「わたしのこと無視するなんて酷くない?」
けれど同時に。
そんな事したって留花奈から逃れる事もできないだろうなって、心のどこかではわかっていたんだよね。
水族館の前には、留花奈が仁王立ちしていた。
まさか、理留だけじゃなく私にまで発信機付けてるんじゃないよね。
一瞬そう疑ったけれど、カフェを出る前に良太がボブ子ちゃんたちに、水族館へ行く事を告げていた。
きっと、それを聞いていたんだろう。
そして、先回りができるくらいには、留花奈はこのあたりの地理をよく知っているようだった。
「もしかして、知り合いか?」
「・・・・・・」
良太が小声で聞いてきたので、視線で肯定する。
留花奈はにこにこと笑いながら、私との距離を詰めてきた。
「こんなとこで会うなんて偶然ね。なんでそんな格好してるの? そういう趣味があったのかしら、アユちゃん?」
「そっちこそ、変装してこんな庶民の街で一人うろついて大丈夫なの? 護衛の人も見当たらないみたいだけど、理留はこの事知ってるのかな?」
含みのある笑みを浮かべる留花奈と、強気で睨みあう。
留花奈に対して、下手にでたら負ける。
何も言い返さないところから見ると、この変装は理留に内緒のようだ。
弱みを握られたのは、お互い様だ。
それなら交渉の余地があった。
「も、モデルのルカさんじゃないですか! アユさん、知り合いなんですか?」
今日のことは、互いに見なかった事にしよう。
私がそう提案する前に、追いついてきたボブ子ちゃんたちが声を上げた。
「あっ、ルカのこと知っててくれてるんだ。嬉しい!」
きゃぴきゃぴとした動作で、留花奈がボブ子ちゃんの手を握る。
猫かぶり全開だ。
「いつも雑誌で見てます! 可愛くて憧れてました!」
ボブ子ちゃんは、興奮した様子で答えて、一緒にいた付き添いの子も、留花奈に対して憧れの視線を向けていた。
「ねぇねぇ、今日は皆で何してたの? ルカにも教えてほしいな」
どういう事だと戸惑う私の目の前で、可愛らしいというよりもあざとく留花奈が小首をかしげてみせた。
その仕草に、ボブ子ちゃんたちは心を射抜かれたようだった。
留花奈に聞かれるままに、彼女たちが知る全てを話してしまう。
「そっかぁ、アユちゃん男の子とデート中なんだね・・・・・・っ」
留花奈は普通をよそっているが、声が微妙に震えてる。
大体の事情を察してしまったようだった。内心爆笑してるのが私にはわかる。
「安心していいよ。アユちゃんは、この子の恋人じゃないから」
留花奈に知られるなんて屈辱だと、ぐっと耐えていたら、突然留花奈が私のカツラを取った。
「・・・・・・男の子?」
一瞬のことだったけれど、ボブ子ちゃんはそれで私が男だと認識してしまったようで、目を丸くする。
「たぶん、見得がはりたかったのね。だから、焼きもちなんて焼く必要ないの」
「わ、わたしは焼きもちなんてっ!」
留花奈の言葉に、ボブ子ちゃんの顔が真っ赤に染まる。
その否定に説得力はなかった。
あれ、もしかしなくても、良太って実はボブ子ちゃんと両思いだったの?
戸惑いつつ良太を窺うと、全然予想してなかったというように、驚いた顔をしていた。
「女の子は、素直が一番可愛いんだよ? 彼の事、好きなんでしょ?」
「う・・・・・・はい」
留花奈の言葉に、恥ずかしそうにボブ子ちゃんが自分の気持ちを肯定する。
どの口が素直とか言うんだろうとか思ったのは内緒だ。
「マジかよ。お前、でもオレの告白断ったじゃねーか」
「何ソレ。わたし良太を振ってなんていないわ」
良太の言葉に、ボブ子ちゃんがむくれて見せた。
「で、でも。お前オレが告白した時、オレみたいな馬鹿誰も相手にしないとか言っただろ」
「わたし以外はってちゃんと言ったじゃない。本当に大切なところ聞いてないし、突っ走るわよね。人に告白しといて、彼女がいるとか言い出すし。ホントあんたって馬鹿なんだから」
ツンと顔を逸らしたボブ子ちゃんは、拗ねた様子で。
馬鹿と良太のことを言う口調は、ちょっぴり甘かった。
「悪ィ。オレ振られたのかと思って・・・・・・」
「もういいわよ。それで、あんたが本当に好きなのは誰なの?」
またやってしまったというような良太に真っ直ぐ向き合い、ボブ子ちゃんが尋ねる。
「オレが好きなのは、お前だ」
「うん。わたしも良太が好き」
良太の告白に、ボブ子ちゃんが頷く。
どうやら、思いがけず留花奈のお陰で丸く収まったようだ。
全く良太は人騒がせなんだから。
でもまぁ、幸せそうでよかった。
一件落着。
よし、帰るか!
ボブ子ちゃんと見つめあう良太にエールを送り、そっとその場を抜け出そうとしたけれど。
「あとは二人でデートでもするといいよ。アユちゃんはルカがもらってくね」
まぁ、留花奈が見逃してくれるわけもなく。
私は連れ去られてしまった。




