【44】それを人は同居じゃなくて同棲といいます
この章はこの先R15、残酷な展開もある仕様となっています。苦手な方はご注意ください。ですがしばらくはほのぼのです。
★この回自体は、性的にR15な甘め仕様となっています。
元の世界で兄がやっていたギャルゲー『その扉の向こう側』のゲーム期間である高校三年間が終わって。
私と宗介は無事に学校を卒業することができた。
ゲームが終わっても、世界は続いてく。
ただし、私にかけられていた『周りに男として認識させる力』は消え去ってしまって。
同時に元の世界の『ゲームのステータス』に依存していた私の体力値も、男子の上レベルから女子の上レベルくらいまで下がってしまった。
加えて、攻略対象の髪や目が特別な色に見える能力も消えた。
……私は学園の高等部を卒業するのと同時に、普通の女の子になってしまったのだ。
力が消えれば、私は男装した女の子にしか見えない。
まぁそれでも女顔の男として通りはするみたいなのだけれど、それではこれから先に不都合がある。
なので、実は女の子だったけれど、体の外は男の子のつくりになっていたという流れに持っていくことにした。
両親が私の見た目の微かな変化に気付き、妙だなと思い始めたところで作戦を実行に移す。
急に倒れたことにして、病院に両親を呼び出し。
検査を受けた結果女の子だったことがわかったと、クロエが化けた医者が両親に告げた。
目の前の両親は、何を言われたのかわからないという顔。
十八年間息子として育ててきた子が、実は娘だった。
そんな事を言われても、すぐに事情が飲み込めるはずがなかった。
「アユムが好きに選んでいい。男のままでもいいし、女になってもいい。どちらでも……私達の子供であることに変わりはないよ」
「ごめんね、私がちゃんと生んであげられてたら混乱させることもなかったのに」
病院から家に帰って。
二人が私にそんな事を言ってくる。
一番混乱しているのは私のはずだと、私のことを気遣ってくれた。
「父さん母さん、ありがとう。色々考えたけど……ボクは女として生きていこうと思ってるよ」
「女として生きてくってことは……将来男の人と付き合うことになることもあると思うんだけど、大丈夫? 抵抗があるなら、子供は生まれなくても……男として生きていったって構わないのよ?」
本音を言えば私の子ども……いずれ孫を見たいと、母さんは思っているんだろう。
それでも、私の事を第一に考えてそんなことを言ってくれる。
「もう決めたことだから。ありがとう母さん」
二人の子供でよかったと心から思う。
この世界に来た当初は、元の世界の両親こそが私の両親で。
目の前の二人を、自分の親だと思い切れてないところがあった。
けど今は、二人が大切で親だと思える。
十分すぎるほどの愛情をかけてもらっていた。
心の中でももう一度二人に感謝の言葉を呟いて、それからごめんなさいと謝る。
宗介じゃなくて他の子を選んでいたなら、二人をこんな風に悩ませることもなかったはずだ。
ただその場合は……きっと扉の向こうへ帰っていたんだろうけれど。
「大丈夫ですよ、アユムには俺がついてますから」
母さんが泣き出し、宗介がハンカチを差し出した。
「俺が辛いときにアユムは側にいてくれた。今度は俺がアユムを支えます。だから大丈夫です」
「……宗介くん」
本当にどうにかなると思わせてしまう、力強い宗介の言葉に母さんがほっとした顔になる。
「実は今日見てもらったお医者さんは、仁科の家の親戚なんです。出張でこの街に来てたんですけど、そういうの専門で見てて。これも何かの縁だからってことで、アユムの体が落ち着くまで自分の所で面倒をみると言ってくれました」
クロエと打ち合わせしたことを、宗介が提案すれば二人は顔を見合わせた。
私の体が女として落ち着くまで、遠くの街で治療を行って。
その間は私の体の経過を見ながら、クロエが化ける仁科家のお医者さんが、保護者として面倒を見る。
宗介も私に付き添い、一年後私の体が安定した頃に戻ってきて。
それから女として別人を装い、再出発する。
用意されたプランを話せば、父さんも母さんも悩んだのは少しの間だけで。不安そうな顔をしながら、私と宗介を送り出してくれた。
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まぁ実際は、最初から私は女の体で周りから男に見えていただけ。
だから、そもそも治療なんて必要ない。
芝居を打ったのは、つじつま合わせのためでしかなかった。
両親に悪い気持ちになりながらも、新しい家へと引っ越す。
一年だけの仮住まいには、食器や家具がすでに用意されていた。
宗介は元々持っているものが少ないし、私においては服も何もかも女の子のものに一新する必要があるため、ほとんど荷物はない。
「アユム、ちゃんと仁科さんや宗介くんの言う事を聞くのよ? 困ったことがあったらいつでも電話してね?」
「途中で辛くなったら、いつでも帰ってきていいんだからな?」
父さんも母さんも心配性だ。
そうやって想われてるのはくすぐったくて、同時に罪悪感もある。
「二人とも平気だってば。今日はここまで送ってくれてありがとね」
少し呆れたような口ぶりをしてみせて、そんなに気遣わなくても大丈夫だとアピールする。
明るく笑って見送れば、二人は離れるのが名残惜しいというように車で去っていった。
「それじゃ、おれも行くっすね。これが家の鍵っす。何か用があれば電話してくれたら来るっすよ」
「あれ? クロエはここに住むわけじゃないの?」
中年のお医者様に化けたクロエが、私と宗介の手の上にそれぞれ鍵を置く。
疑問を口すれば、そんなわけないじゃないすかと肩をすくめられた。
真新しい、そんなに大きくない一軒屋。
クロエ扮する医者の家に、私と宗介は住むことになっていた。
保護者ということになっているクロエだけれど、実際にここに住むつもりは一切ないらしい。
「えっ、じゃあ私宗介と二人っきりなの?」
「何が悲しくてカップルと一つ屋根の下で暮らさなきゃならないんすか? 混ぜてくれるならいいっすけど」
少しおどけてからかうようにクロエは笑う。
「俺がアユムを誰かと共有するとでも?」
「おぉ怖い。そんなこと全く思ってないっすよ。超が三つ付いても足りないほど嫉妬深いっすからね宗介は。ほどほどにしないと嫌われるっすよ?」
宗介に睨まれて、わざとらしく怖がりながらクロエは去ってしまった。
「ほらアユム、そろそろ家に入ろう?」
「う、うん」
宗介に促されて、家に入る。
……なんだか、急に緊張してきた。
これって同居というより、同棲だよね。
これから宗介と二人でここで生活すると思うと、急にドキドキしてくる。
でも宗介は何も変わった様子がないから、きっと私だけが意識しすぎてるんだろう。
今までの家でも、宗介と二人っきりで過ごす時間は多かった。
その延長だと思えばどうってことない。
どうってことないと思うのに、一度二人っきりだと考えてしまうと気になってしまう。
「今日は引っ越したばかりだし、夕飯はピザを注文しようか」
「本当? やった!」
ぐるぐると考え込んでいたけれど、緊張はその一言で簡単に飛んだ。
普段宗介が料理を作ってくれるので、出前を取ることは滅多にないのだ。
それを二人でテレビを見ながら食べる。
いつもの日常がそこにあった。
――気負う必要なんて、全くなかったんじゃないか。
そう思えば楽になってのんびりとくつろぎながら、テレビを見て笑う。
宗介の料理は文句なしに美味しいけど、ピザとコーラの組み合わせはまた格別でジャンクフードとしては王道だと思う。
そう言えば理留にこの美味しさを味わってもらったことはなかったなと、ふいにそんな事を思う。
夏に家でホラー映画を見ながら、理留と一緒にピザを食べてコーラを飲むっていうのはいいかもしれない。
ホラー映画は怖がってなんぼだと思うのに、宗介と一緒だと私だけが怖がってしまってちょっぴりつまらなかった。
そこまで考えて、はっとする。
今の私は女で、理留が知っている今野アユムは男だ。
この生活が終わって後、私は別人として再出発する予定だった。
理留に……事情を話したほうがいいかな。
仲がいい吉岡くんや、他の皆にも今の所女になったことは言ってない。
私は体調を崩して、遠くの病院で休養中ということになっている。
心配させてしまっているとは思う。
でも、男だったのにいきなり女になりましたなんて、友達に言えるかというと無理だ。
どんな顔をして会えばいいかわからないし、態度が変わったら嫌だなとかそんな事を思ってしまって。
元気だよとか、そういう当たり障りのないことしかメールに書けなかった。
「アユム、座るときは足閉じなきゃ駄目だよ?」
そんなことを考えていたら、ふいに宗介に注意される。
もう女の子だから、座るときは足を閉じてなきゃいけないんだったと、言われてその事に気付く。
座るときに足を開いたほうが、男っぽいよね。
初等部の時にそう思って、わざわざ開いて座るよう癖付けていたことが、今ではすっかり自然に出るようになっていることに気付かされる。
男の今野アユムとして振舞うことに、私は慣れすぎていた。
「つい癖で。家の中だからいいよね?」
元の世界で女として過ごしてきたけれど、こっちで男として過ごした時間の方がもう長い。
染み付いてしまった仕草を変えるには、結構な時間がかかる。
見てるの宗介だけだし、明日からでいいんじゃないかな。
そんな気持ちから口にすれば、宗介に睨まれた。
「スカートだってこと……忘れてるよね?」
「というか宗介。ボクは元の世界で女の子だったんだよ? だからこうやって家の中でまで女の子の特訓ってことで、スカートにする必要はないと思うんだ」
指摘してくる宗介に、密かに不満に思ってる事を口にする。
今までの私の服は、元の家に全部置いてきた。
新しい服は全部スカートで女物。
やりすぎなんじゃないかと思うくらいだ。
そもそも元の世界にいた時だって、スカートなんて制服の時くらいしかはかなかった。
「物凄く必要あると思うけどね。元の世界で女の子だって言うわりに、アユムの仕草は無防備すぎるし、色気が足りないと思うんだ」
溜息を一つ吐いて、真向かいのソファーから、宗介がこちらへやってくる。
床に膝をついて、両手で私の二つの膝をぴたりとくっつけてきた。
それからそこに顔を乗せるようにして、私を見上げる。
「どうしたら女の子らしさがでると思う?」
「どうしたらも何も、元々ボクは女の子だよ?」
笑って答えれば、宗介が薄っすらと目を細める。
何か企むような微かな光が、その瞳に宿ったのを見てぞくりとした。
「そうだよね、アユムは元々女の子だ。でもずっと男として扱われてきたから、女の子だってことを体が忘れてるのかも」
宗介の声が艶を帯びて、手がスカートから出た膝を撫でる。
ゆっくりとその手は上がっていき、柔らかなスカートの布地が私のお腹の方へとずれていく。
ぐっと宗介の手が膝を両側に押しやってきて、足を開かされて。
「っ……!」
覚えたのは危機感。
とっさに足を閉じれば、赤くなっただろう私の顔見て宗介が怪しく微笑む。
「開かなくていいの? アユム」
「うぅ……すいませんでした。ボクが悪かったです」
にっこりと微笑まれ、素直に謝る。
宗介はくすっと笑って、ソファーに足をかけて。
私の膝の上に乗るかの様な体勢になる。
「そ……すけ?」
「アユムが女の子だってこと、これからいっぱい俺が教えてあげる」
頬をゆっくりと撫でられれて、唇を指でなぞられて。
どこか熱に浮かされたような瞳に見つめられた。
「意識を変えるのは難しいから、まずは体からだね。自然と女の子らしくなるだろうし、きっと色気も増すと思うよ。あぁでもアユムがもっと可愛くなって、他の奴が寄ってくるのは嫌だな」
独り言のように囁く宗介の声には、どこか色気があって。
抱き上げられたかと思えば、ベッドまで運ばれる。
「あ、あの宗介?」
「どうしたのアユム。そんな怯えたような顔して」
くすっと宗介が笑う。
いつもの優しい顔に、優しい声。
なのにどうしてかその瞳に宿る熱を、少し怖く思う。
私を見下ろす宗介の向こう側には、まだ見慣れない天井があった。
「不安がらなくても、優しく教えるから」
そう言って、押し当てられた唇からぬくもりが伝わってくる。
強張る体をほぐそうとするように、色んな所にたくさんキスをされて。
それから――たっぷりと愛された。
女の子らしくなるには、女の子扱いされるのが一番だから。
宗介は事あるごとにそんなことを言う。
耳元で可愛いと囁かれて、愛してると言われて。
蕩かされるんじゃないかというほどに、宗介によってデロッデロに甘やかされる。
その成果……いうわけじゃないと思うけど。
半年経つころには、女の子らしくなったとよく言われるようになった。




