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城出姫の旅  作者: のん
止血拒否の行進
30/30

30.躊躇い傷の交差点

大きく、行く手を阻むドレスの隙間に。違和感を感じた。

その物体の先端からは紫色の何かがドロドロに溶け、私を脅す。



「エミィッ!私よ、メリーよ」

「メ、リー?無事だったのね」

「ここは危険だわ、一緒に逃げましょう」



まだ白い服。



彼女は私の手をひき、行きに使った馬車へ行こうとする。

だけど私は行かない。

もう逃亡なんかで狂わせやしない。



「如何してなの、エミィ……」

「メリー、よく聞いて。

 これはもしかしたら、すべて私から始まったことなのかもしれない。

 私が城から逃げ出したあの日から……、ううん。それよりずっと前。

 私とカオスが魔界を壊し、このセカイに来た時から……。

 筋書きは決まっていた」


「何を…、言っているの?」


「すべてを終わらす。

 だから、あなたは逃げて。私にとって、あなたが全てだから」




馬車に無理やり彼女を乗せて、馬をならす。

ガラスの向こうがわで彼女は必死に叫ぶ、待って私も行く、と。

だけどねメリー。

あなたのその服が、まだ白いうちに。あなたは逃げなさい。


どうか、赤く染まらないで。




    *



ひとりになった孤独感、隠していたはずの恐怖心。

どこからともなく現れ、きっと全てが終わったとしても私を苦しめる。


私には帰る場所などない、カオスと一緒にいたあの空間。ヘリィとメリーと共に旅したあの時間だけが。

本当の私の帰る場所なのだ。


もはや……ひとつぶの欠片も残っていない私の理想郷。




「エミィ!ミツケタゾ、エミィ・モロガン

 殺してやる、ふっははギャはははは

 俺が……そうだ俺が全世界の王だ!

 逆らう者はひとりずつ、殺せば良い。

 なに、簡単なことじゃないか。銀のナイフで、首を切り落とせば良い。

 それから……そうだな、国民への戒めとして城に保管しよう。

 きっと俺に逆らう奴は……すぐに考えを見直す」



半狂乱に開かれた目が私の身動きをとめた。

もう、逃げやしない。

全部終わらせてやろうじゃないか。



「死ぬのは、あなたよ。ハラン・ブルー」


「さあ?エミィ・モロガン。

 オマエかもしれないがな」



赤色の煙が立ち込める。

まるでセカイの終わりを示す、最期の幻想。


懐に感じた短剣を彼の頭上に突き上げた。

紫色の液体が残酷な私たちを哂いに哂う。


宙を舞う身体。

彼に蹴り飛ばされ、赤い鮮血を吹き出す。

その瞬にも、手に持った銃で私の腹目掛けて1発。


正気なんて保てない。

死にたくない、死にたくない。

胸がいたいよお、怖い怖い怖い。

死にたくないよお。


メリーと一緒に、逃げればよかった。


ダメだ……そんなこと。ユルサレナイ。

逃亡したところで何にもならなかった。


赤い瞳孔が光をなくす。

もはや涙をぬぐうことだって許されないぐらい、セカイが逆転した。



私には守るべきものがある。

守りきれなかったものがある。



腹を押さえていた手は真っ赤に染まり果て、痛みに慣れ始めた身体は彼を覆う。

血まみれの手で、彼の首を掴み……息の根をとめてやる。


床に転がった短剣、壊れてしまった正常心。


もう後戻りは出来ない。




「エ……ミ……ィ…………モロガ」




彼に触れるたび、強く強く押さえつける度。

カオスとの記憶がリンクした。


この人の血はカオスの血。

ハランの身体は彼の身体。

一つの細胞にも狂いはない。

全てがカオスで構成された目、肌、全て。


この人はカオス・ロリッタなんだ。


「カオス……御免ね御免ね……御免なさい。

 私……何も出来ない」


シカイは全て透明の何かで潰されて、行方知れず。

赤い血が滴った手は力をなくし、彼の息を吹き返す。



「どう……してだ。

 何故………殺さない」



「あなたは……カオス。カオス・ロリッタよ。

 ねえ、如何して抵抗しなかったの?

 如何して私に全てを委ねたのよ。

 ねえ、カオスなんでしょう?

 あなたは……ハランでもアランでもないんでしょう?」


ぐちゃぐちゃに掻き乱された城。

狂いだし、私たちのもとを離れ……一人歩きする脚本。


誰の筋書きにもない展開。



「分かるのよ……、だってあなたは。

 私の愛する人だから」



気づいてしまった全てに嘘はきっとない。

ハラン・ブルーなんて存在、本当は……始めっからなかったのよ。


私がヘリィのいた次元にあの日行ってハランと出会ったのは。

確実に在り得ないことだから。



あの日カオスが死んで、彼の生まれ故郷の次元へ私も巻き込まれて連れていかれた。

一つの存在が同じ次元に存在いてはならない。

本来ならカオスは、ハランのいた次元へとび、ハランはカオスのいた次元へとぶはず。

カオスはハランのいた次元へととんだ。私も一緒に。

だけど、私がハランと出会ったのは、メリーと出会う前。

つまり、ハランとカオスは同じ一つの存在でありながらも、同じ次元に存在していた、という事になる。


例外であるミスから生まれた存在、エミィとヘリィ以外にそれは在り得ない事だ。



だから……考えられることはただ一つだけ。





ハラン・ブルーなんて人間、元からいなかったのよ。




「よく、分かったな。

 ハラン・ブルーなんて人間も、アランなんて人間も。

 存在してない。俺は……カオス・ロリッタだ」



すべてがセカイに溶け込んでゆく。

そして今まで見てきたもの全てが偽りだったと気づくのだ。


いつの日か、ヘリィに言われた。



真実と事実は違う、と。きっと今の私なら理解できる。


カオスと私が魔界を滅ぼしたなんて記憶、私にないのだって。これなら説明がつく。

本当にそんな記憶存在していないのだから。



「今までのセカイ、全て俺が造った偽のセカイだ。

 メリー・ロリッタも。ハラン・ブルーも。死神であるアルガンも。

 本当は存在していないのだ。

 ただ皆、自分が生きていると信じ込んでしまったただのロボット。

 まさか自分が人間は愚か、生き物にさえなっていないなんて……疑いもしないからな。

 ヘリィだけは生きていたが……彼女は死んだ。

 始まりはほんの些細なゲームだった」


「ゲーム?」


「そう、セカイ諸共股にかけて。

 次元を元通りに戻すためのヒロイン、エミィ・モロガン。

 その他脇役。

 ヒロインである君は、実在する人間の記憶を書き換え姫という地位に立たされた。

 俺が描いたシナリオは素晴しい物で、本当の問題……つまり次元を元通りにするためにも必要だった。

 もはやゲームではない。

 全人類が見守るなかで行われた。

 人間たちの暴走、狂い狂い……本物の人間のように動く機械共。

 すべては次元を正常化させるため。不幸をなくすため。

 ……だがな、そこに許可なしに実在する人間が現れたらどうなる?

 ゲームはショートし……壊れてしまう。

 ヘリィによってこのゲームは終わり、ヘリィの本体である君によって新たなゲームが始まる。

 次元を正常化させるために」


「それは……次元を正常化させるには、何をすればいいの」


「話が早いな、まあいい。

 次元はすでに正常化された。

 君がカオスだと思い、キスによって殺したハランが死んだからな」


キスによって殺したハラン?


まさか……私があの時、カオスだと思って……殺した人は……ハランという見ず知らずの悪魔だったというのか?


「じゃああなたは、何のために私に近づいたの?」

「君の記憶を戻すためだ。

 言っただろう?君は実在する人間の記憶を加工され、造られた。

 君はロボットとは違う、極普通に生活し、生きる14歳の少女だ。

 ハランという名のロボットが死んだ今、君は自由になった。

 よって君を元に戻そう」


耳を疑うような真実などお構いなしに。セカイは白く光りだす。

ショートした感情はぐちゃぐちゃに、めいっぱい手をのばしたところで彼には届かない。

空回りしたあげく、地の底に突き落とされた。



    *



「――…ィ、エミィ起きなさい。エミィってば」



回るセカイ、狂々落ちていく。

揺らされる身体に何もかもがなくなった。


「起きなさいってば!」


暖かかったはずの何かを引き剥がされ、鳥肌が立つ。

仕方なく目を開くと、そこは――…。


暖かくて。

懐かしくて。以前、ここにいたような気がする。

もしかしたら、今までの全てが悪夢で。これが私の現実なのかもしれない。


「学校は?行かないの?」


目の前に立ち、仁王立ちをかますこの人。


「ヘリィ!?」

「なによ、姉の名前がそんな珍しかった?」


あきれたように笑うヘリィ。

いつからだっただろう、こんな平和があたりまえじゃなくなったのは。


「もぉ、寝ぼけてんじゃない?相変わらず馬鹿なんだから」


頭に入ってきたのは、ヘリィの声でも。私の声でもなくて。


新たなゲームの始まりだ、と哂うあの人の声だった。



逃亡した先に見えたのは、微かな希望と絶望と。

誰であったか忘れてしまったけど、優しそうに笑う彼の姿があった。





        fin.



 

終わりました。

本当に今まで有難う御座いました。

最終話だけ異様なまでに長くなってしまいましたが。

構成を全く考えてなかった報いですね←

まあハイ、この話本当意味わかりません。

私が言っちゃダメなんですが、……理解できんし!

本当、あやふやでした。

本当は最終話。皆皆死んじゃって……ああーバイバイってな感じで終わろうかなーって思ってたんですが、それじゃ流石にマズイなという事で。

急遽最終話変更。

ますます意味分からん理解できん、さようならの三テンポが揃った結末となってしまいました。

それでも、ここまで読んでくださった皆様には数え切れないぐらいの感謝です。本当に有難う御座いました。


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