29.いつだって終わりは唐突
崩れおちる青、青、青。
壊れてなくなっていく色、色、色。
モノクロのセカイが幕を開けて、絶望ワルツを奏でよう。
「次元が……移動しているわ」
「メリー、どうなっているの!?」
「アランが死んだことにより、英雄が生贄となった。
これですべてが正常化される。
これで……ぜんぶ終わるのよ」
地が揺れる。
全人類だけじゃなくて、セカイまで狂ったように。暴れだす。
なにもできない人間。
なにもできないもう一人の英雄。
「正常化されても……なにも解決しないわ」
*
私が愛していた人の顔をもつ男は、いまだ笑い続けている。
そろそろ時間だ、そう呟きながら。赤く光る瞳を愛しそうに触っていた。
「エミィ、メリー。君たちとも、お別れのようだ。
選択肢は二つある。
俺に記憶を消され、夢遊病者のようにセカイをうろつきながら生きるか。
それとも……死ぬか。
アランを倒した君たちには……選択権をやろう。
さあ、選べ」
「どちらも選ばない。
ただ、死ぬならあなたと一緒」
恐ろしい……この男に流れる血は、カオスと同じものだ。
一つ一つの繊維も、構成されている全ての感情も。
カオス自身。
同じ存在が殺し合い、自らの命を削っていく。
「馬鹿だな、ハハ。
もし本当に君がその選択を選ぶなら――…。
容赦なく殺す」
赤い禁断の果実のように美しい彼の瞳は、輝きを増していた。
右手にはナイフが、左手には銃が。
ここは…。
この城はきっと、私とハラン。どちらかの墓となる。
さあ、最期のワルツを踊りましょうか。
*
半狂乱に城を駆けめぐる。
逃げろ、兎に角。何を犠牲にしてでも、生に依存しろ。
逃げるんだ、じゃなきゃ……。
殺される。
真っ赤に染まりはてる美しいドレス。
最期の舞踏会には相応しい。
だけど。
殺されるのはどちらかしら、ハラン?それとも……私?




