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第9話 温泉

 前世の記憶を頼りに作ってみたが、味は自信がない。

 シェーナはパスタを口に運ぶと、懐かしさと思い出が同時によみがえった。


「この味……前世で母さんが作ってくれたパスタに似ているな」

「私もだよ。家庭的な味で、当たり前に食べていたんだよな」


 一流シェフが作ったパスタには遠く及ばないが、家族で食卓を囲んだ料理の味だ。

 キシャナは俯いて胸に手を当てると、前世の家族のことを思い出す。


「……前世の家族とは別れの挨拶もできないで転生してしまったな」

「そうだな……」

「元気でやっているといいな。親より先に死ぬなんて、きっと親不孝者だと思われているだろうな」

「それは俺も同じさ。一言だけでも異世界で生きていることを伝えられたらと考えることはあるよ」


 修学旅行の当日に家族と朝を過ごしたのが最期だった。

 飛行機に搭乗してまもなく事故が発生して、異世界転生を果たした。

 前世に未練があるとすれば、一番大きく引きずっているのは家族を残して逝ってしまったことだろう。


「悪い。折角の美味しいパスタをご馳走してくれたのに、湿っぽいこと言ってしまったな」

「別にいいさ。それより明日はキシャナの美味しい料理を作ってくれよ」


 シェーナは少々強引に話題を変えたが、キシャナもそれに乗っかって合わせてくれた。


「……ああ、任せてくれ! 酒も用意してやるからな」

「それは勘弁してくれよ」

「真面目なシェーナは素面(しらふ)じゃ話せないこともあるだろ? 女騎士様の知られざる秘密は興味津々な話のタネだからな」


 やれやれとシェーナは肩を竦めて、皿に残っているパスタを平らげた。

 シェーナは食器やフライパンを片付けると、キシャナは布地の服とタオルを用意してシェーナをある場所に誘う。


「ここから少し離れた場所に天然の温泉があるんだ。一緒に行こう」

「温泉!?」

「効能は保証するぜ。疲労回復や切り傷にもいいからシェーナは気に入ると思うよ」

「いや……キシャナ一人でいきなよ」


 シェーナは恥ずかしそうに顔を赤くすると、キシャナは悟ったように呆れた声で話す。


「あっ……まさか、私と一緒に入るのが嫌なのか? 別に前世や今も同性なんだから恥ずかしがるなよ」 

「別に……そんなことは」


 キシャナはじれったいとシェーナの手を掴む。


「いいから行こう! 私が背中を流してやるからな」


 半ば強引に引っ張られてキシャナに連れられて天然の温泉がある場所へと向かった。

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