第7話 今晩のメニュー
シェーナは衣食住のお礼に、今日の夕飯は自分が料理を用意しようと思う。
そのために買い物と居住手続きを済ませて、家賃が滞っていたキシャナとルームシェアをして負担を減らせればいい。
家賃が滞っていた現状では、また同じことを繰り返すかもしれない。
城塞都市シャルティユには大きく分けて行政地区、商業地区、居住地区の三つの地区で構成されている。
鎖帷子の上からローブを羽織って、まずは居住地区から行政地区へと足を運ぶ。
居住地区はシャルティユで生活するために種族を問わず大勢の者が暮らしているところだ。
都市の中央に近い程、建物は豪華絢爛で家賃も高いが、逆に離れていくと家賃も安く冒険者やキシャナのような訳ありの人物が住んでいることが多い。
行政地区は主に役所が点在する区域で、居住区域で生活する住民票の発行や身分証明書の発行等がある。裁判所や警察組織も行政地区に集約されたりしている。
住民票を取得するために、行政地区の住民課へ訪れると書類に必要事項を記入して受付に通す。
シェーナが騎士団に所属していた頃には、剣を振るうこと以外に一部隊を任された隊長として上司や部下に報告する必要書類の作成等といった事務作業も地道にこなしてきた。隊長の肩書きと言っても、前世で例えると会社の係長が中間管理職として上司と部下の板挟みになって働くのと変わらず、前世や異世界でも組織に属していたら通る道だろう。
申請が通るまでシェーナは椅子に腰かけていると、受付嬢から呼び出される。
「書類に問題はありません。キシャナ・ウスティー氏とのルームシェアですが、貸主の許可も取れましたので、こちらが住民票となります。こちらの身分証明書は商業ギルドの登録にも使えますので、紛失なさらないよう各自で保管して下さい」
「ありがとうございます」
シェーナは受付嬢に礼を言うと、住民票と身分証明書を受け取って一安心する。
料理を作るために材料を揃えようとシェーナは次に商業地区に足を運ぶ。
商業地区にはハルセンティス大陸の各国に商業ギルド『女神の剣』、『古の古文書』等の巨大組織に属した商人が商売を展開して、個人や団体からの依頼を商業ギルドが仲介して冒険者に仕事を斡旋したりする地区だ。
料理は決めているのだが、問題は材料が揃うかだ。
「まずは強力粉が欲しいけど、後は卵と塩とオリーブオイルはさすがにないよなぁ。他の油で代用するしかないか」
食材を取り扱うところを重点的に回ると、パンを製造するのに使う強力粉はすぐに見つかった。卵と塩も無事に揃えることはできて、意外にもオリーブオイルを取り扱っている店は少数だが見つけることができた。
「あるところにはあるんだな。後はソースの材料だけど、これも大丈夫そうだな」
もう一方の材料はトマト、玉ねぎ、ニンニク、コショウだが、こちらも難なく揃えることはできた。
「よし、今夜はトマトソースの生パスタだ」
シェーナは意気込んで居住地区に戻ると、料理の支度を開始する。




