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第3話 食事会

 異世界転生したと周囲の人間に打ち明けたところで、信じてくれる者はいないと思っていた。目の前にいる女ダークエルフの存在は心の重荷をおろすには十分で、シェーナの背中を優しくさすって聞いてくれた。


「色々と頑張ったけど、辛くて怖かったよ! この異世界では浩太ではないと否定されて自分が自分でない恐怖……と言ったらいいのかな。皆はシェーナ・ウラバルトとして俺を女性と認識するのが嫌だった。俺の中には前世の浩太もいるんだと叫びたかった!」

「ああ、私には分かるよ。シェーナ・ウラバルトの中にはたしかに浩太は存在する。キシャナ・ウスティーにも俺が……康弘は存在する。常人には理解できないことかもしれないが、それを理解できる者は私達二人だけだ」


 神様がいるのなら、何故このような残酷なことをしたのだろう。

 前世の記憶がなければ、こんなに苦しむことはなかったかもしれない。

 でも、記憶があったからこそ前世の親友と無事に再会できたのは事実である。


「異世界転生は何か意味があることだと思う。それを私達なりに探っていこう」

「……うん」

「よし! お腹も減ってきたし、夕飯は奮発して美味しい御馳走を用意しちゃおうかなぁ」


 キシャナは台所の床下に保存してある燻製肉と野菜の漬物を瓶から取り出して調理を始める。

 自炊は手慣れたもので、胴ベルトのようなものからナイフを取り出して燻製肉を捌いていくと、鉄製のフライパンに移して指からキシャナの魔法で炎が放たれてさっと炒める。皿の盛り付けを終えると、家庭菜園で育てているハーブを一振りして完成する。


「おまたせしました。あと私が漬けた漬物もあるから食べてね」

「良い香りがして美味しそうだし、漬物なんて久しぶりだな」

「最近作ってみたんだけど、日本で食べていた物に比べて味は正直落ちるね。試行錯誤しているけど、独学だと今のところこれが限界かな」


 早速キシャナが漬けてくれた漬物を口に入れると、たしかに美味しいのだが前世で食べた漬物と比べると見劣りする。

 それでも一生懸命になって作ってくれた物にケチをつけるつもりはないし、漬物を食べさせてくれたキシャナには感謝の言葉しかない。


「美味しいよ! 心を込めて作ってくれた料理に勝るものはない」

「それ、褒められてるのか微妙だなぁ。無理に言わせてたら申し訳ないし、今晩は私を食べちゃってもいいよ」


 キシャナは胸をチラつかせてシェーナに言い寄ると、シェーナは顔を真っ赤にして首を横に振る。


「すまん……そんなつもりで言ったんじゃないんだ! 頼むからそういう冗談はよしてくれよ」

「あはは、相変わらず可愛らしい反応だね」


 意地悪な笑みを浮かべて、キシャナは自分の席に戻る。

 今日ほど楽しい食事はない。

 できることなら、ずっと続いて欲しいとシェーナは願う。

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