第10話 温泉②
居住地区の一画を整備するために大規模な工事に着手したが、そこから温泉が掘り起こされたことで人々に解放した。この異世界で温泉が掘り起こされることは珍しく、各国から温泉目当てに訪れる人もあるという。
男女の脱衣所が設けられているので、キシャナはシェーナの手を引っ張って女性用の脱衣所へと入っていく。
「どうやら他に先客もいないし、私達の貸し切りだな」
「やっぱり俺は……」
「気持ちは分かる。でも今のシェーナが男湯に入ったら、パニックになるだろ?」
「それはそうだけど、何というか罪悪感が芽生えて……」
「私もここに何度か温泉に入っているけど、慣れてしまうものだよ」
キシャナは一糸まとわぬ姿でシェーナの前に立つと、シェーナも覚悟を決めて後に続く。
幼少の頃、シェーナは姉二人と風呂に入ることはあったが、前世で男子高校生だった浩太には刺激が強かった。姉二人からは恥ずかしがり屋な妹と見られて、騎士団に入団する頃には女騎士はシェーナ一人だったので風呂は人目を気にせずに入ることができた。
シェーナが想像していた以上に広い露天風呂で開放感がある外の景色にうっとりする。男湯と女湯には仕切りが立てられて、男湯からは先客が誰かいるようで話し声が聞こえてくる。
掛け湯を済ませると、二人は温泉に浸かる。
「なかなか気持ちがいいなぁ」
「ああ、異世界で温泉は初めてだよ」
シェーナは身体に溜まっていた疲労感が抜けて気分が高揚になる。
隣にいるキシャナは褐色の良い肌と縦長の耳を立てて、温泉を堪能している。
しばらくすると、キシャナは空を見上げてしみじみした声でシェーナに語りかける。
「本来なら修学旅行先の大浴場で浸かっていたんだよな」
「……そうだな。まさか親友が女ダークエルフになって温泉に入ることになるとは思わなかったよ」
「それを言ったら私もだよ。美人な女騎士とこうして並んでいるなんて思春期な前世の俺だったら羨ましい展開だな」
「今は違うのか?」
「さっきも言ったけど、慣れてしまったよ。十八年も女性をやっていると前世のような感覚はだんだん薄れてくるよ。最初は毎日鏡を見れば妖艶な女ダークエルフが拝めてラッキーだと思えたけどね」
そんなものなのかとシェーナは思った。
シェーナは異世界転生して、しばらくは自身の身体を鏡で見る度に恥ずかしさと罪悪感で現実を直視できない時期があった。時が経つにつれて自身が女性であることはある程度受け入れることはできたが、他の女性の裸体や男性からの告白や求婚は受け付けなかった。
キシャナは温泉からあがると、シェーナにアドバイスを送る。
「しばらく私と温泉に通っていればシェーナも慣れるよ。経験者の私が言うのだから間違いないよ」
「その辺は努力してみるけど……」
シェーナはキシャナの豊満な胸を見ると、温泉に浸かって赤く火照った顔に恥ずかしさを重ねて脱衣所まで駆け足で走り去った。




