史実編 38話
信澄を初めとした東国の諸大名は家康率いる本軍の到着を前に蒲生秀行の下野宇都宮に入り伊達政宗や最上義光との連携を練っていた。
そして家康が到着すると彼の着陣する小山へと首脳陣は足を運ぶのだった。
「失礼致す」
一礼して家康の陣所に入る秀忠に信澄や結城秀康らも続く。
「お待ちしておりもうした。皆々様には伝えておかねばならぬ事がございます」
そう口を開いたのは家康側近の本多正純。
彼の表情は暗く、他の家臣たちも同じような雰囲気である。
「上方にて謀反に及ぶ者が現れました」
「なっ!?加藤主計か、それとも奉行衆か!?」
井伊直政の報告を受けた秀忠が声を荒らげる。
「否、石田治部と大谷刑部じゃ」
「なっ、治部殿が……」
三成襲撃事件の際に彼を護送する役目を担った秀康が呟く。
「隠居して大人しくしておったと思えば牙を隠していただけでありましたか。これに味方した者は?」
「はっ。奉行衆、備前中納言(宇喜多秀家)らにござる」
信澄の質問に正純が答える。
「してやられましたな。しかし治部少輔が今更そのような事をするとは……。かつぎ上げられただけでは?」
この信澄の疑念は当たっていた。
三成は大谷吉継に誘われて大坂に入っただけなのだが、先の襲撃事件などもあり反乱の首謀者という噂が流れてしまったのだ。
「まあ、この際犯人探しはどうでも良い。既に真田が無断で帰国したので森侍従を帰した。天下泰平の世を乱す連中を一掃できればそれで解決じゃ」
そう言う家康だがかなり疲れている様子だ。
「とにかく、既に福島らにはこの事を伝え軍勢を一部戻すことにした。こちらに向かっている毛利や西国勢も反乱に当てれば瞬く間に鎮圧出来よう」
が、この家康の予想は外れた。
数日後に毛利輝元、小早川秀秋、島津義弘ら西国の諸大名も反乱軍に味方したとの報告が入ったのだ。
頭を抱えた家康は直ぐに信澄らを呼び出したのだった。




