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史実編 32話

天海から渡された書状を信澄は受け取る。


「ん、秀澄の妻に内府殿の娘の振殿を……?なんだこのような事なら良いでは無いか」


振姫は史実では蒲生秀行の妻となっているがこの世界で秀行は信澄の娘を妻にしていた。


「されど父上、大名同士の婚姻は太閤殿下のご遺命により……」


「じゃが太閤殿下に今後の事を託されたのは徳川殿であろう?ならば徳川殿のお好きなようにされれば良いでは無いか。実際殿下はここ最近では徳川殿との一体化を進めておられたようじゃしのう」


「ちなみに内府様は他にも伊達政宗や福島正則、黒田長政らとも縁組を進めておられまするが伊達殿を除いて皆、養女ばかりにござる。此度の縁組は日向守(秀澄)様にも良きお話かと」


「叔父上まで……」


こうなってしまうと秀澄とて受け入れる他ない。

まもなく振姫と秀澄の祝言が行われた。


「徳川殿、此度はご息女を愚息に頂き恐悦至極」


織田家時代とは訳が違う。

信澄は家康を上座に座らせ自身が先に頭を下げる。


「いやいや、甲府少将殿は信長公の甥御。信雄様も失脚した今、貴殿こそが織田の氏長者。そのような御方と縁戚関係を結ぶことが出来、ワシの方が嬉しゅうござる」


「身に余るお言葉にございます」


その日の婚儀は滞りなく進み、無事終了した。

しかしその後、信澄は年寄衆である前田利家・宇喜多秀家・毛利輝元・上杉景勝及び五奉行の面々に呼び出された。

ちなみに信澄は徳川家康と行動することが多かった為、これらのメンツとの関係は極めて悪い。


「甲府少将殿、何故この場に呼び出されたかお分かりでござろうな」


長束正家が信澄を睨みつけて言う。


「はて、なんの事か分からぬ。にしても各々随分と顔色が悪いな」


「とぼけるのはやめよ。そなたの嫡子と徳川内府の娘が祝言をあげたのは我らの調べで分かっておる」


と、以前からは考えられないほどに偉そうに前田利家が言う。


「偉くなったものだな、又左。俺にそのような口を効くとは伯父上が聞いたらどう思うかな」


「今その話は関係ありませぬ。大名同士の婚姻は太閤殿下のご遺命により禁じられております。それを破ればどうなるかお分かりであろう」


挑発されシワが増えてきた顔をプルプルと震わせる利家を察して徳善院玄以が聞く。


「いや、徳川殿から持ち込まれたものであるし天下人たる徳川殿が良いと申すならそれで良いと思うておったわ。これは申し訳ないことをしたな。すまんすまん」


そう言って信澄は立ち上がろうとする。


「お待ちあれ!まだ話は終わっておりませぬ!」


石田三成が止めようとするが信澄は無視する。


「それでは失礼」


結局信澄は出て行った。


「前田殿、これは徳川も甲府少将もそれに与する連中も皆一掃すべきではあるまいか?」


「左様、上杉には戦の用意がありまする」


毛利輝元と上杉景勝が立て続けに徳川征伐を主張するがそれに待ったをかけたのが宇喜多秀家である。


「それは些か早計にございます。徳川殿にまずは詰問の使者を送りましょう」


「うむ、治部の提案が良い。生駒親正・堀尾吉晴・中村一氏を呼べ」



前田利家の命令により家康の元に派遣された生駒・堀尾・中村であったが逆に家康に一喝され退散してしまった。


「仕方あるまい。諸大名に檄文を飛ばせ!」


2人の報告を受けた前田利家が立ち上がる。

新たなる戦いが始まろうとしていた。

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