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史実編 16話

梅雨の時期を前に冬の寒さも残る朝、いつもの様に解体される家畜のような気持ちで電車という監獄から駅のホームに出た時、蹲って泣いている若い女がいた。

どう言った理由で泣いているかは分からないが公衆を前にして泣いているのだ。

頭がおかしいのかよっぽどの不幸な事に苛まれたのだろう。

ここで話を聞くという選択肢が誰にでもあったはずだ。

しかし誰一人として彼女を無視してエスカレーターに流されていった。

他人に関心が無いという人間も少なからず居るが普通に考えれば彼女が泣いている理由は気になるはずだ。

しかしそれを無視するのだ。

余計なお世話かもしれないが私はとても気になった。

力になりたいとか彼女に関心を持ったからではなく泣いている理由に関心を持ったからだ。

しかし周りの列から外れるわけにもいかないし何よりも授業に遅刻しては大変なのでそれを無視する事にした。

いや、無視とはあるものを無いがごとく扱う事なので気にかけた時点で無視ではないのだろうか?

しかし傍から見れば私は無視している無関係の人間でありエスカレーターに流される他の数百人と変わらない。

仮に彼女が泣いている理由を他人と共有したいと思っていたなら私がどんな理由で接近しようと助けになっただろうし傍から見れば私はいい人に見えるのだろう。

利点しか無いが私はそれを取らなかった。

何故かって?

知らない女に喋りかけるのは変態だからだよ。

その後も信孝は1週間近く粘った。

頑張って粘ったが水が尽きた。

それは直ぐに羽柴側にも伝わった。


「これぞ好機!一気に力攻めにして叩き潰すべし!」


信雄が机を叩きつけて言う。


「しかし目的は三法師様の奪還だろ?下手に力攻めにして三法師様が殺されればどうする。ここは三七のみ自刃で降伏を勧告すべきだ。」


と七兵衛。


「お二人共何か勘違いをしておられますな。此度の目的は日向殿の申される通り三法師様の奪還でござる。織田信孝の首を取ることでも城を明け渡すことでもございませぬ。」


そう黒田官兵衛が言うと秀吉も続く。


「いずれ信孝めは自滅しましょう。それまで御二方とも辛抱なされよ。」


信雄は何か言いたそうだが七兵衛はどうなるか分かっていたのでそれに従う事にした。


「では私が交渉の使者として出向きます。」


そう言うと黒田官兵衛は僅かな供回りを連れて岐阜城に入った。


「羽柴家家臣、黒田官兵衛にございます。」


「黒田……サルの軍師か。降伏しろと言いに来たのだな。」


「別に我が殿に降伏する訳ではありませぬ。臨時の当主たる三介様に降伏し、本来の当主たる三法師様をお渡し頂ければ国も命も取りませぬ。」


「くっ……。ワシは織田家の後見人としての役目がある。この話、受けよう。」


こうして信孝は降伏した。

しかしそれを受けて滝川一益が挙兵。

これに呼応して柴田勝家もついに動きだした。


「叔父上、全軍準備完了致しました。」


佐久間盛政が報告する。


「父上、ご武運をお祈りしております。」


茶々も頭を下げる。


「うむ、ワシはサルから織田家を守ってみせる。お市様、吉報をお待ちくだされ。」


「うむ、待っておるぞ。」


勝家はお市の手をしばらく握ると眼前に広がる3万の兵の前に高らかに君臨した。


「皆の者!我らは亡き上様の元、数多の戦を駆け抜けてきた!それこそサルがまだ草履取りであった頃からだ!その我らこそ!織田家をサルとその一派から守りきるにふさわしい!サルさえ破れば五郎左や勝左も我らに味方するやもしれぬ!なればこの戦、必ずや勝たねばならぬ……いや勝てる!誉れ高き織田の兵共よ!ワシに続けい!!」


勝家が槍を振りかざすと皆も続いた。


「出陣じゃぁァァっ!」


こうして柴田軍が動き出した。


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