史実編 15話
10月11日、信長の葬儀が開かれた。
特に15日は秀吉の言っていた通りの大パレードでありそこにて七兵衛は信長の棺を乗せた神輿の前側を持ち京の民衆より大いに歓声を受けた。
その後秀吉はなかなか信孝が当主の三法師を明け渡さない事に対し信雄を当主とする取り決めを丹羽長秀、池田恒興と行い信孝に三法師を明け渡すように勧告した。
これを信孝は拒否し両者の対立は決定的となった。
信孝は早速これを柴田勝家、そして近隣の大名に書状を送った。
「全く、上様が亡くなられて織田家は頭を失った獣のようになってしまったのう。」
徳川家康は爪を噛みながら書状を投げた。
「殿、よろしいのですか?織田様は大事な同盟国ですぞ?」
井伊直政がそれを拾い聞く。
「知らぬ。もう上様への義理は尽くしたし何より三七のような小物など興味はないわ。それより甲信はどうなっておる?」
「はっ。本多(正信の方)殿が先程入られたようです。平岩殿や鳥居殿も間もなく到着されるかと。」
「そうか、我らは織田家の事には介入せぬ。これは絶対じゃ。」
徳川家康と同様に毛利輝元も静観を決めたがその一方でこれに応じようとする大名もいた。
土佐の長宗我部元親である。
「阿波は落ち讃岐を狙おうとしていたところで中央で戦とは運が良いのう、忠兵衛。」
元親は地図を眺め嬉しそうに家臣の谷忠澄に言う。
「羽柴の背後を脅かすだけで四国に加え淡路の保有を認めるとは随分と信孝という男は気前が良いようですな。」
「気前が良い訳では無い。ただの阿呆じゃ。しかし羽柴筑前と柴田勝家が両者ともに争い、羽柴が倒れれば柴田はそのうち歳で死のう。そうなれば毛利と組んで一気に畿内に攻め入りワシが天下を頂くのよ。」
「そうなれば良いのですがな。何はともあれ、讃岐に兵を向かわせましょう。」
こうして長宗我部元親は信孝に呼応して讃岐の羽柴側の勢力を駆逐するために軍を起こした。
これらの一連の動きはすぐに秀吉の元に伝わり秀吉は信孝の討伐を決定。
これに加えて雪で動かない柴田勝家の先手を取るために長浜城主の柴田勝豊の説得を勝豊の幼なじみであった七兵衛に命じた。
命を受けた七兵衛は直ぐに四千の兵を率いて堀秀政、筒井順慶らと共に長浜城を包囲し、勝豊を呼び出した。
「ご無沙汰しております、七兵衛様。」
「相変らず礼儀が良いな、伊助。」
「当たり前にございます。玄蕃や勝政がおかしいのです。」
「まああいつらはアレだからな。オヤジはそう言う奴らの方を重用している様だが?」
「そうです……父上は何かにかけてあやつらと私を比べ……ッッ!ゲホッゲホッ。」
勝豊が咳き込む。
どうやら体調が悪いようだ。
「見たところ調子が悪そうだな。大丈夫か?」
「いえ……長くはないでしょう。ならばもう義理などどうでも良い。降伏致しましょう。」
「そうか、流石は伊助だ。お前の英断は後世に語り継がれよう。」
こうして長浜城は一瞬で落ちた。
この報せを受けた秀吉は丹羽長秀を長浜に入れ七兵衛達には岐阜に向かうように命令。
七兵衛にとって待ちわびていた信孝討伐である。
「七兵衛様、いよいよですな!」
長浜より出立した秀政が馬上の七兵衛に言う。
「ああ、あの頭でっかちをいよいよこの手で斬れるぞ!!大坂で俺を暗殺しようとしていたと丹羽がさっき吐いたしな。」
とんでもないくらい機嫌よく七兵衛は岐阜に入ると岐阜城を包囲中の秀吉に合流した。
「筑前殿、遅れて申し訳ない!先陣はこの俺に任せてくれ!」
「いや、お待ちくだされ日向殿。此度の総大将は三介様。そして城攻めは力攻めではなく水の手曲輪を奪い水路を経つ方法となりましたゆえ。」
「ならばその曲輪を奪う役目を俺に!」
「ですからそれは三介様に……。」
グイグイくる七兵衛に少し引く秀吉。
そこにご機嫌良さそうな信雄がやってきた。
「ほっほっほっ。良かろう、日向。お前に曲輪を潰す役目を与える。あと、あいつを殺すのは知らないが三法師様は何としてもお救いしろ。」
「おう、任せろ!」
そう言うと七兵衛は早速攻城戦を始めようとした。が、それを三太夫が止めた。
「待ってくだされ、殿。一気に攻めちまうと味方にも被害が出ます。夜に俺の手の者がコソッと仕掛けてきますので。」
「コソッと何を仕掛けるのかは知らないがとにかくその方が安全そうだな。いっそ三七を誘拐してくれ。」
「いや、そこまでは出来ませんよ。とにかくコソッとやってきますぜ。」
その日の夜、三太夫はコネのある伊賀衆を率いて曲輪に侵入すると大量の爆薬を仕掛けてすぐに逃走した。
すぐに爆音が鳴り響き曲輪の城兵達は吹き飛ばされた。
この爆音に快眠中の七兵衛も起きてしまった。
「うわっ!あの野郎、全然コソッとじゃねーじゃん。」
と怒りながらも怒る信孝の顔を考えてニヤニヤするのだった。
七兵衛の予想通りに信孝は激怒していた。
「おのれ!あのような姑息な手を使ってくるのは七兵衛に違いない!奴を討ちとれ!」
「お待ちくだされ!そのような事をしては敵の思う壷にございます!待ち伏せされて返り討ちに合うに決まっております!」
「黙れ幸田!俺は前からあいつが嫌いなのだ!」
「では私にお任せ下さい。必ずや痛手を与えて参りましょう。」
そう言うと幸田実之は五百人を率いて津田勢を目指した。
対する七兵衛はと言うとほとんど幸田の攻撃を予想していなかった。
信孝の事だから口だけで終わると思っていたのである。
「敵は油断している、かかれい!」
幸田が指示すると津田勢の先鋒に兵が一気に襲いかかる。
「殿!敵の夜襲にございます!」
この報せは直ぐに七兵衛の元にも報告された。
「なっ……なに!?百地!どうする!?」
「なんでも俺に頼んねえでくださいよ。見たところ敵の数はこちらの4分の1もいませんし後方の手勢を送り込めば良いのでは?」
「よし、後衛の渡辺にすぐに伝令だ。前衛の赤尾は防戦しつつ持ちこたえろ!俺達も行くぞ!」
油断していた七兵衛だったが圧倒的な数の差と迅速な対応により何とか幸田勢を追い払うことに成功した。
「皆すまぬ。感情的になりすぎていたわ。」
「いえ、殿のお気持ちは分かります。何としてでも信孝めの首を上げましょう。」
秀勝が言うと皆頷く。
「……そうか、そうだな。よし、明日からは体制立て直していくぞ!」
「おうっ!」
津田諸将の声が夜の岐阜に木霊した。




