史実編 14話
このシリーズが終わったら幕末に転生する話を描きたいんですが幕末に関する知識があまり無いので詳しい方いたらおすすめの書籍など教えて下さると嬉しいです。
9月、丹波亀山への移転もひと段落ついた信澄は従五位下日向守に任ぜられその礼を言うために秀吉の山崎城を訪れていた。
「此度は日向守へのご推挙、忝のうござる。」
「いやいや、容易いことにござる。山城を手に入れてようございましたわ。」
「誠にそうですな。オヤジもまさか叔母上との婚儀を認める代わりに山城を与えるなどと愚かな……。」
先月、柴田勝家はお市の方と結婚しておりその代わりとして山城は秀吉が支配していた。
「それよりも日向殿。此度貴殿にお話しておきたいことがあります。」
「ほう?一体なんでしょう。」
「来月は上様の100日忌に当たります。そこで11日から7日間、盛大に葬儀を行おうと考えております。」
「それは良い。俺も葬儀はまだかと思っていたところです。」
「葬儀は大徳寺にて、喪主は某の倅の秀勝にやらせようと思います。」
「待て、三法師でも三七でも三介でも無いのか?」
「三七殿は岐阜の三法師様を手放さず動く気は無いようですからなぁ。あくまでワシの主催ですよ。」
「ああ、なるほどな。それで俺は何をすれば良いのだ?」
「日向殿は上様の棺を乗せる神輿を秀勝と共に担いで頂きたい。今や日向殿はご一門の筆頭ですからな。」
「承知した。ほかの参列者は?」
「久太郎、丹羽殿、池田殿、蜂屋殿らとその他の家臣三千に公家と僧侶。その警備として小一郎に3万の兵を。」
「おお、3万とは大軍勢だな。馬揃えを思い出す豪華絢爛な物にしよう。」
「うむ、必ずや。」
七兵衛は挨拶を済ませると亀山への帰路に立った。
馬上の七兵衛に堀田秀勝が不満そうに言う。
「あれでは殿が羽柴様の家臣のようではありませぬか。元はと言えば丹波一国の所が半国の15万石、柴田様なら殿の養父ですし一国すら挑めたであろうに。」
「まあ、確かにオヤジの方が縁はあるがな。オヤジは天下をまとめる器ではないよ。それに比べて羽柴殿は既に畿内のほとんどを手中に治めている。例えいくら義があろうと力の前には叶わぬのよ。」
そう言う信澄だが実際に柴田勝家ではなく羽柴秀吉を選んだ理由は史実を知ったからであった。
自分を殺した信孝を擁立した勝家が許せなかったのだ。
それ以上でもそれ以下でもなく、ただ信じていた勝家が自分を裏切ったのが許せなかったのだ。
「それより家が大きくなった割に家臣が足りない。これからしばらくは家臣を探さねばならんな。」
「確かに、高島の土豪衆はほとんど残してきてしまいましたからな。」
「うむ、誰か良いのはおらぬか探してくれ。」
「はっ。すぐに調べさせましょう。」
そして1週間後、堀田秀勝が紙を持って七兵衛の元を訪れた。
「とりあえずまとめて参りました。まず候補として上がるのは天野源右衛門、明智様に仕えていた安田作兵衛にございます。それと並ぶのが同じく明智様に仕えていた可児才蔵。このふたりが目玉ですな。」
「うーむ。何と言うか剛の者ばかりじゃのう。頭が良いとかそういうのは?」
「ならば元伊賀の国衆の百地丹波ですな。今は三太夫と名乗り山奥に潜んでいるそうにございます。」
「伊賀の百地と言うとあの忍びの長か。何石くらい必要だろうか?」
「まあワシと渡辺殿で八千石ですからのう……。」
「昔のそなたのように四千石くらいが良いか。」
「まあ十分すぎるでしょう。何せ織田家に逆らった者を召抱えるのですからな。」
「そうだな。そこが厄介だがとにかく行ってみよう。」
という事で七兵衛は護衛もつけず1人で三太夫が住むとされる亀山の外れの農村に入った。
かなり古びた場所で山奥にぽつんと作り合わせの家があるだけだった。
七兵衛はその家の扉を開けると百地を呼んだ。
「この家に百地丹波殿がおられると聞いて参った。」
しかし返答はない。
「百地殿!俺は津田日向守信澄だ!貴殿を四千石で召抱えたいのだが!」
するとふと後ろから殺気を感じる。
すぐに七兵衛は振り向き刀を抜いた。
「ほう、流石は一代の傑物と評されるだけの男だな。」
そこに立っていたのは老人のような白い髪に隻眼、しかし30代前半のような顔をした男が立っていた。
「百地丹波殿だな。会うのは初めだな。」
「百地丹波ではなく、三太夫ですよ。俺はあんたの軍は見た事あるが会うのは初めてですね。」
「なら三太夫殿。話は聞いていたな?四千石で俺に仕えてくれ。」
「伊賀の郷を滅ぼした連中に俺が仕えると本気で思ってるんですか?」
「俺は伯父上や三介とは違う。そなたら忍びの重要性は理解しているし何よりそなたの腕を買ってここまで来たのだ。どうか、俺に仕えてくれ。」
信澄は頭を下げる。
「おいおい、やめてくだせえよ。別にちょっと意地悪で言っただけです。仕官の話、喜んでお受け致しましょう。」
「なんだよややこしい。これからの時代は情報戦だ。お前の力を頼りにしているぞ。」
「へえ、任せてくださいよ。」
こうして百地丹波こと百地三太夫が七兵衛に仕える事になった。




