史実編 12話
「丹羽様、夜分に呼び出して申し訳ございませんなぁ。」
「いや、気にするな。それより何か話したいことがあるのだろう。申してみよ。」
「はっ。恐れながら明日の会議でワシは三介様ではなく三法師様を推そうと考えております。」
「三法師様だと?しかし三法師様はまだ……。」
「3つの幼子と申されたいのでしょう?ワシも初めはそう思いましたが三法師様が跡目を継がれるのが筋目かと。丹羽様、ワシにお味方していただければ高島と坂本を与えましょう。如何です?悪い話ではないでしょう。」
「しかしなぁ……。」
「そもそも、丹羽様は大坂にいたにも関わらずただ我らを待っていただけではありませぬか。これは三七様も同様ですが。更にはあろうことか七兵衛殿を討とうとしていた噂も。これは加増どころではありませんなぁッ!」
秀吉の態度はどんどんと高圧的になって行った。
そしてついに長秀は折れた。
「分かった……。三法師様だな。」
「はっ。ではこれにて。」
こうして夜は明けていった。
4日目。
ついに会議の当日を迎え清洲城の庭には会議に参加しない織田家の家臣達が集まっていた。
領土配分などを記すための地図なども置かれているが宴会場のような賑わいを見せていた。
「よしっ、じゃあ藤五郎と矢部は会議を盗み聞きしてこい。んで玄蕃はそれを伝達しろ。」
と佐々成政はテキパキと盗聴の準備を進め森長可などは既に酒を飲んでいた。
「随分と賑わってんだな。」
「ええ、みんな祭り気分ですよ。」
それを見て呆れる七兵衛と苦笑する秀政。
そして会議場の本丸では。
「それではこれより、会議を始めさせて頂きます。」
秀吉はそういうと家系図を広めた。
言わずとも分かるだろうがこれは織田家の家系図だ。
「まず此度亡くなられた上様、そしてご当主の中将様。このお二人の世継ぎを決めるのが此度の会議だと言うのを前提に置かせて頂きたい。」
「ああ、そんなの分かっておる。それを考えても仇討ちに参加された三七様こそ当主に相応しいでは無いか?」
笑いながら柴田勝家が言う。
「しかし三七様は側室の子でありご本人も将器はともかく気が短く当主の器とは思えませぬ。」
「なんだとッッ!口の言い方に気をつけぬか!」
「誠のことを申しただけにございます。柴田様こそ本心ではそう思われているのではないか?」
「なっ……。そのような訳がなかろう!それにお前の推す三七様こそ!」
「はい。ワシもよく考えましたが織田家の家督に三七様は相応しくありませぬ。ならば相応しいのは三法師様ではないでしょうか?」
「ふん!聞いたか、五郎左。三法師様だと?まだ幼子ではないか。」
勝家は笑いながら長秀に言う。
「いや……ワシは三法師様こそ当主に相応しいと思う。」
「ほれ見たことか……ってえっ!?」
「丹羽様が仰せならワシもそう思いますなぁ。池田勝左、羽柴殿に賛成です。」
「これで3対1、決まりましたな。」
「ふっ!ふざけるなあ!キサマら筆頭家老のワシを差し置いて!!」
「待て権六!藤吉郎よ、三法師様はまだ幼い故後見人が必要であろう。その後見人にワシは三七様を推したいが?」
「ふむ、その程度なら構いませんぞ。さて領土配分に移りましょうか。」
秀吉はさっさと地図を取り寄せると話し始めた。
「まず三法師様は安土と坂田、三介様は尾張、三七様は美濃を加増で如何でしょう?」
「それは異存なしじゃな。」
勝家が頷くと残りの2人も頷く。
勝家からしたら越前に近い美濃に信孝が入ったのはメリットだ。
「ではワシは長浜を頂きたいのだが?」
勝家がいやらしい目で言うが秀吉はそれをスルーして答える。
「承知致しました。では代わりにワシは山城と河内を頂きます。」
「羽柴殿は明智討伐の功労者。異存はない。」
「有り難きお言葉です、五郎左様。その五郎左様には高島と坂本を。池田殿には摂津のうち大阪、兵庫、尼崎を。」
結局4人とも加増になったので文句は言わなかった。
「そしてこの会議に参加していない者たちですが。丹羽様に代わり佐和山に堀久太郎を入れ三法師様の後見に、滝川殿は伊勢の本領のみ安堵で。」
と、ここでやっと滝川一益が出てきた。
その滝川一益だが。
「はぁ……やっと着いた。」
と、清洲にやっと到着した。
「おお、滝川様!ご無事でしたか!」
「ふざけるな勝蔵!お前が木曽で暴れまくったせいで酷い目にあったぞ。」
「ははは、そりゃ知りませんなぁ。それより会議に行かなくても良いのですか?」
「ああ……そうだが茶をく……。」
そう言うと疲れと安心から倒れてしまったのだ。
「久太郎なら問題は無いな。ところで七兵衛様の所領が五郎左と勝蔵の物になったがあのお方はどうするつもりなのだ?」
「ああ、大事な事でしたな。七兵衛様とワシの倅の秀勝に丹波を分割させようと思います。取り分はもちろん七兵衛様が15万石、秀勝が10万石でどうでしょう。」
「七兵衛様は明智の縁者。民も逆らうことは無いだろうな。」
「うむ、勝左の申す通りじゃ。ではワシはこの意見に賛成なのだが?」
長秀が上手くまとめて領土配分も決定した。
こうして清洲会議は秀吉優位のまま終わったのだった。




