史実編 6話
「こちら、明智左馬助より預かりし明智家の財宝にございます。」
そう言って信澄が信孝に財宝を献上した。
「おお、津田殿。これはご苦労様にございます。いやいや貴殿の此度の戦における活躍はあっぱれ!一国の主にでもなって頂きたいですなぁ、三七殿。」
「あっああ……。」
秀吉の方が先に労いの言葉をかけた。
同様に中川清秀や堀秀政らにも秀吉は労いと感謝の言葉を述べる。
完全に秀吉が信孝を出し抜いた形だった。
その後、秀吉は信澄を本能寺跡に呼び出した。
「これで体勢は決まりましたな、羽柴殿。」
「うむ。これで三七もオヤジ様もワシには逆らえん。さーて、ここからどう致そうかな。」
「まずは貴殿に反発する老臣共を大人しくさせるべきですな。俺も協力しますが表向きにやると未だに疑われそうなので裏からとなりますが……。」
「裏からでも津田殿が力を貸してくださるのは有難い。うちの官兵衛は頭はキレるが身分が足りませぬからなぁ。」
黒田官兵衛と同列に扱うあたり、完全に家臣の扱いであるが信澄は嫌な顔ひとつせずに頷いた。
「それでこれから遺領配分が行われよう。津田殿には丹波か西近江を任せようと思うておるのじゃが。」
「西近江の石高は?」
「坂本の五万石を加増で11万石。丹波なら29万石ですがな。旧領を取るか大領を取るかじゃ。」
「無論、丹波を頂きましょう。」
「承知した、それとその言葉遣いはおやめくだされ。貴殿は家臣ではなく友にござる。」
いやいや、家臣の扱いをしてたのはどこの誰だと信澄は突っ込みたくなったがスルーした。
「……そうか、俺も少し早とちりだったな。いやしかし明智殿の治めた丹波じゃ。俺で大丈夫か?」
「いやむしろ津田殿でなければならんのですわ。丹波の国衆は明智殿を慕っとりました故に明智殿の婿たる津田殿しか適任はおりませぬ。」
「分かった。なら責任をもって支配させて頂こう。まだ決まってはおらぬがな。」
「なーに、オヤジ様は貴殿の育て親であろう。文句は言うまい。問題は……。」
「三七か。彼奴は俺の寝首をかこうとしておった。断じて許せぬ。」
「あのお方についてはいずれワシが処理致しましょう。まずは織田の老臣をどれだけ手懐けるかです。」
「崩せそうなのは池田、蜂屋辺りか……。」
「蜂屋はともかく、池田はそれなりに餌をまく必要がある。大坂を渡したいのですが……。」
「構わぬ。もとより大坂は俺が代官を務めただけで俺の領地ではない。ともかく、貴殿には期待しておりますぞ。」
「はっ。必ずや新たな世を作りましょうぞ。」
2人がそう話していた頃、越前では。
「おのれ……サルめに先を越されるとは。」
柴田勝家は畿内から送られてきた書状にイラついていた。
もちろん明智光秀が討たれたことは喜ぶべき事だし烏帽子親を務めた信孝と自身が育てた信澄の活躍は喜ぶべき事だがそれ以上に秀吉程度に先を越されたことが勝家は悔しくて仕方なかった。
「伯父上、今後はいかがいたします?」
佐久間盛政が聞く。
「まずは今後のことを決めねばならぬ。宿老達や家臣達を集めなければならぬな……。」
「してその場所は?」
「そんなもの決まっておろう。織田家の始まりの地。清洲城よ!」
こうして織田家の今後を決める会議が清須で行われることになった。




