52話
「終わったよ。」
奇妙殿の血で赤く染った俺の具足を見てサルは悟ったようだ。
「やはり隠居はしてくださりませんでしたか……。先程、朝廷より三法師様に官位を与えると使者が。」
「そうか……。俺は少し休みたい。あとのことはお前に任せても良いか?」
「はっ。ワシにお任せくだされ。」
俺はサルに全てを任せると大坂城の風呂に入った。
幼少期に勝蔵や平八と喧嘩して助けに来てくれた奇妙殿、共に理想の初陣を語り合った奇妙殿、初めての大将首を共に喜んだ奇妙殿、伯父上の悲願たる天下統一のために各地を駆け巡った奇妙殿。
思い返せば悪い事より良い事の方が思い浮かんできた。
「ははっ……。俺は全て正しかったのかな……。」
天井を見上げながらそういう俺の瞳は濡れていた。
しかしその濡れた原因が汗なのか涙なのかは自分でも分からなかった。
そしてふいに俺は右手を上に掲げた。
さらば友よ……。兄弟よッッ……!!
心の中でそう言うと俺は静かに目を閉じた。
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その後、三法師様は近衛信尹様の娘を妻とし織田忠信として政を取り仕切った。
まずは朝鮮への出兵を取りやめ次に奇妙殿が一切手を付けなかった法整備に着手した。
元々キリスト教に理解のあった忠信様はキリスト教を保護、布教を認めようとしたが慶長元年に土佐にスペイン船が漂着しスペインが布教を通して日本を支配しようとしていると聞くと激怒。キリスト教は表向けには禁止され南蛮の国々は追放された。
変わって織田家と交易を始めたのは紅毛諸国である。彼らはあくまで貿易による利益にのみに興味があり織田家もこれは許した。
どうやら宗派の違いがあるらしいがよくわからん。
織田家内部に関しては元々五宿老と呼ばれていた柴田・羽柴・明智・滝川・丹羽の五家が老中となり更にそこから1名が大老として政を取り仕切った。
その初代に任ぜられたのがサルであり本能寺の政変から病に倒れる慶長3年までの間に織田家の幕府創設などに奔走した。
その甲斐あって慶長8年、ついに織田幕府の創設が認められ忠信様はその初代将軍となった。
その後数年は平和な日々が続いたが慶長19年、あまりにもしつこく蝦夷、琉球の征伐を求めた伊達、島津両家が忠信様により改易され島津家に至っては4家ともお取り潰しにされた。
ちなみに時の大老は五郎左の嫡男の丹羽長重でありサルには劣るものの優れた政治手腕で忠信様を支えている。
そして俺は……
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元和6年の春、既に家督を譲り高島城にて隠居していた。
俺が隠居した時に忠信様が高島6万石を切り離して下さったため何不自由なく暮らすことが出来ている。
「いやー、やってくれたねぇ。爺さん。」
そう言ってどこからともなく信成がやって来た。
「迎えに来たか。50年振りだな。」
「まあ俺も未来で悠々自適な生活を送れてるよ。これも全て爺さんのおかげだよ。」
「ふん。お前がこっちの世に送ってくれたからだよ。俺もやり直せて良かったよ。」
「でさ、僕も他にも爺さんがやるであろう対応を想定してたんだよ。」
「ほう、例えば?」
「まあ見てもらった方が早いよ。本能寺の変まで何もせず生き延びるってのなんだけどさ、これがまた面白いんだよ。」
「おい待て、見るってどういうことだ?」
「まあまあそこは気にしないで。じゃあ再生開始っと。」
そう言って信成が指を鳴らすと見覚えのある映像が映し出された。
それは紛れもなく天正10年6月2日の俺であった。
ということで次回から三人称視点による津田信澄転生記・豊臣政権編スタートです。
こっちは今までの軽い路線から少し固めのストーリーになるのでこれからもよろしくお願いします。




