51話
大坂に公家達の連判がされた弾劾状を持ち帰った俺のところにサルと新五郎が訪れていた。
「では上様は明後日、本能寺に宿泊されるのだな?」
「はっ。供をするのは森蘭丸ら少数の側近のみ。」
「森蘭か……如何したものかのう。」
蘭丸は勝蔵の弟だ。
もし死んだりでもしたら非常に面倒臭い。
「まあその辺りは妥協すべきかと。流石に上様1人討ち取るというのは虫が良すぎます。」
「羽柴殿の申される通りにございます。武蔵殿は前田殿か佐々殿辺りに説得して貰いましょう。」
「わかった、そうしよう。では各々抜かりなく。」
「ははっ!」
2人は頭を下げた。
そして決行の日。俺は1万の兵で本能寺を包囲した。
脇には高虎と吉継が控えている。
「殿、寺の包囲が完了致しました。」
三成が走ってきて報告する。
「うむ、門をこじ開けよ。」
俺が命じる丸太を構えた兵たちが本能寺の門に突激、門を破壊した。
俺たちはそれを確認すると鉄砲隊とともにに寺内に入りそれに続くように塀にも鉄砲隊が張り付いた。
「なっ、何事じゃ!ここは上様の寝所であるぞ!」
そう言って出てきた森蘭丸が目を丸くする。
「しょ、少将様……これはっ!」
「上様を呼べ。」
「なっ!」
蘭丸も数の差を理解したのか直ぐに槍を構えた兵たちと共に信忠を連れて出てきた。
「少将……これはいったい……。」
焦る兵たちに反して上様は案外冷静なようだ。
彼が出てきたのを確認すると俺は高虎らと共に膝まづいた。
「上様、隠居し家督を三法師様にお譲りくださいませ。これは帝の勅命で御座います。」
そう言って俺は書状を差し出した。
公家たちの弾劾状である。
「ふっ、ふざけるな!何故余が隠居など!」
「上様は近頃変わってしまわれた!徳川家や北条家への冷遇が引き起こした東国大乱!それに懲りずに朝鮮を侮辱し大陸出兵、そして何より帝を軽んじ譲位を迫るなど武士としてあってはならぬ事!それに諸将はもう疲れておるのです!」
「ええぃ!なんだと!?全ては亡き父上の願いである!それを反故にするとは血迷うたか!」
「血迷うたのはあなただ!元々の奇妙殿は温厚で他者とは並ならぬ器量をお持ちであった!しかし今のあなたはただの暴君に過ぎませぬ!どうか、家督を!家督を!三法師様に!」
俺は頭を地面に擦り付けて懇願する。
その間にも奇妙殿側の鉄砲隊も配置に着いている。
「無礼者め!鉄砲隊、構い!」
奇妙殿が手を上げる。
それに反応するように両軍の鉄砲隊が銃口を向け合う。
「亡き伯父上が目指されたのは戦の続く世ではない!織田が世界や帝を支配する世ではない!あなたは全て履き違えている!伯父上はあなたが思うほど、冷酷な人ではない!」
最も傍で伯父上を見てきたからこそ言える。
あのお方はきっと……きっと戦乱が続くようなら唐入りなんてされない。きっとッッ……!!
「黙れぃ!そなたに父上の何がわかる!俺は父上のように冷酷でなければならぬのだ!」
上様の口調が荒れる。
向こうも焦ってきているようだ。
「私は伯父上を実の父のように慕っております!本来処刑されるべきであった私を助けてくださった伯父上に対する恩義はあなたより深いでしょう!」
「黙れ、黙れ、黙れい!そもそも貴様は謀反人の息子!やはり家を乗っ取る気だったのだな!」
「違う!父上の失態を知っているからこそ誠に織田家のことを考えておるのだ!俺もサルも、皆織田家の未来を憂いておるのです!」
「うるさいっ!最後に決めるのは俺だ!俺こそが日ノ本の王なのだ!」
この2人の罵りあいに痺れを切らしていたのは三成だ。
三成は頭を掻きながら隣の鉄砲兵に命じる。
「さっさと終わらせろ。石を投げろ。」
「ははっ!」
早速鉄砲兵が石を投げる。
極限状態まで追い込まれていた両軍の兵士達はそれが石の音だとは判断出来なかった。
いっせいに両軍の鉄砲が火を吹き無慈悲な鉛玉が兵士たちを切り裂いていく。
高所を取られ数に劣る本能寺の軍勢はバタバタと倒れていった。
「撃つな!撃つなーッ!」
俺は何度も大声でそう言った。
しかし銃声によって俺の声はかき消されてしまった。
そしてついに1発の弾丸が奇妙殿を貫いた。
「撃つな!これ以上撃った者は処刑する!」
高虎と吉継がそう言う中、俺は崩れ落ちた奇妙殿に駆け寄った。
「奇妙殿!しっかりなされよ!」
「うっ……兄者……。俺は……俺は……。」
「喋るな!すぐに手当を!」
「もうっ、俺は持ちません……ッ。織田のことを……父上の遺した織田家を……。お願いいた……しまッ……。」
奇妙殿は俺の手を握ろうとした寸前でその息を止めた。
織田右大臣信忠 享年31。
結果として本能寺で主君を殺し奇妙殿の首を掲げて大坂に入ろうとした俺を待ち構えていたのはサルのひきいる軍勢であった。
本能寺エンドと言われたらそうですが織田の天下のための本能寺です。




