46話
「如何致します?」
「とっとと追い返せ!変な疑いをかけられたら困るだろう!」
と源次郎に何故か怒鳴る三成。
「言い過ぎだ佐吉。源次郎は何も悪くは無いだろう。しかし殿も話すつもりなどないでしょう?」
「うん。話そう。」
「そら見たことかって……えっ?」
「いや、話してみるのは良いと思うよ。吉継。」
「いや、お辞めになった方が……。」
止めようとする吉継と高虎を無視して俺は使者を呼び付けた。
「徳川家家臣、井伊万千代にございます。此度はお目通りが願い重畳の極みにございます。」
そう言って頭を下げる美青年は数多の戦場をくぐり抜けてきたようだ。
俺も家臣たちもその凛々しさに美しさすら感じた。
「わざわざ俺に会いに来るとはなんの用かな?」
「はっ。我が主、三河守は貴殿の能力を勝っておられます。もしお味方になって頂けるなら織田家の家督を貴殿が継ぎ西国の主を任せると。」
「さっ、西国の主……ッ!」
そんな声が辺りから漏れる。
確かに魅力的だ……。
しかしそれは伯父上との約束を裏切ることになる。
「丁重にお断り致そう。三河守殿には本陣でお会いしようとお伝えくだされ。」
俺は丁寧に頭を下げた。
「承知致しました。そうお伝え致しましょう。」
井伊は姿勢よく頭を下げるととっとと退散していった。
「断るならなんで呼んだんですか?」
「甘いな三成。一応会っとかないと印象悪いだろ。」
こんな感じで俺たちは笑っていたがほかの陣では戦が始まろうとしていた。
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伊吹山東部 森長可隊
信忠本陣の前に佇む長可はこの日を待ちわびていた。
三年前、中央の混乱に乗じて信濃を掠めとった徳川家康と信濃国衆への復讐と血を彼は求めていた。
そしてついにその時が来た。
眼前に広がる葵の旗に長可は自慢の人間無骨の矛先を定めた。
「皆の者ッ!3年前の雪辱、今こそ晴らす時ぞッッ!俺に続けいィィッ!」
こうして天下分け目の戦いは森長可により先端が開かれた。
それに続くように北条、徳川へ3年前の恨みを晴らさんとする滝川、河尻、毛利らも敵陣に突っ込み一気に先程までの平穏な平野は戦場へと化した。
迎え撃つのは徳川家康の双璧とも言える本多忠勝と榊原康政の六千。
明らかに突っ込んでくる織田軍より数は少ないが2人ともやる気に満ち溢れている。
「ざっと2万くらいか?」
榊原康政が長い髭を擦りながら言う。
「全員ぶっ飛ばしてやらぁ。蜻蛉切の餌食になりたいのはどいつだ?」
「ああ、多分あれだろうな。」
康政が指さす方向には巨大な槍を構えて突っ込んでくる長可が居る。
「むっ、あれは鬼武蔵かッ!俺の相手に相応しい。あとは任せたぞ、小平太ッ!」
そういうと忠勝は手勢二千を率いてさっさと行ってしまった。
「あの、殿。」
「まーた、平八の後援かぁ。酒井のオヤジ殿からなんとか言ってくれないかねぇ。」
康政は同い年で幼馴染の忠勝の裏方ばかりしてきた。
2人とも幼名で呼ばれていた頃も初陣したての頃も一軍を任せられるようになった時も常に忠勝の裏方として動いていた。
しかし戦の最中に文句を言う訳にも行かない。
「さて、織田軍追い払っちゃいますか。」
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関ヶ原中央 毛利輝元隊
今回の戦にて毛利家のかける思いは相当なものだった。
かつては西国の太守とされた毛利家も石高では長宗我部家や大友家を遥かに下回り格下の扱いを受けていた。
だからこそ九州に続き今回の戦でも周囲が驚く功績を上げなければならない。
そのために命令よりも多い一万三千もの兵を連れてきた。
「全軍、放てィッ!!父上死すとも吉川は死せずと見せつけるのだッ!」
そう言って先鋒の吉川元長率いる四千が東軍へ大量の鉄砲を発射する。
父に勝るとも劣らないと言われた武勇を持つ元長を迎え撃つのは上杉謙信や武田信玄並の名将と噂される最上義光。
巨大な棍棒をぶら下げ1mは超えるであろう大筒を構え毛利勢に狙いを定める。
「鮭延!ここでワシらがする事はなにか分かっているな!」
「はっ。天下分け目の戦で奮戦するだけ奮戦しお互いにいい顔をしておくにございますな。」
「左様、織田としても毛利は驚異であろう。削れるだけ削ってくれるわ!」
義光が引き金をひくと凄まじい轟音と反動とともに毛利軍の指揮をとる侍大将を吹き飛ばした。
「ええぃ!怯むな。こちらの方が数は有利!全軍突撃ィッ!」
元長が采配を振るといっせいに毛利軍が最上勢へ突撃を始めた。
「我らも行くぞ!東北武士の恐ろしさ。西国の連中に教えてやれぃ!」
こうして中央でも激戦が始まった。
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そして南宮山麓では後世に独眼竜と南海の白鮫と呼ばれる2人の若武者が睨み合っていた。




