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40話

「長宗我部殿、土佐及び伊予の安堵と人質の提出で降伏を認めると上様から許可が出ました。」


長宗我部家の重要拠点(明智殿談)の阿波が没収され治めたばかりの伊予が与えられたのは長宗我部家にとっても良いことばかりでは無いだろう。


「格別のご配慮、忝ない。これからは織田家の一兵卒として心を改めてお仕え致します。されば毛利攻めと右馬頭の説得は私にお任せくだされ。」


「承知した。早速伊予に向かおうぞ。」


讃岐にいた明智殿も合流し俺たちは4万の兵で伊予に向かった。

長宗我部家の降伏に関して明智殿は大いに喜ばれ俺の手を取って感謝の言葉を述べてくれた。


「右馬頭は先の将軍足利義昭様と叔父二人に家中を乗っ取られております。それゆえあの3人を何とかすれば右馬頭は降伏するでしょう。」


「ならば鞆の足利義昭を討ち取る必要があるようですね。」


俺がそう言うと明智殿の顔が暗くなる。

明智殿と足利義昭はかつては主従関係にあり明智殿は未だに足利義昭を慕っている。


「十兵衛殿、お気持ちは分かりますが結局足利様がいる事で戦が続いているのです。ここは私の家臣を送りましょう。」


「……。お気になさらず。戦が続くのなら公方様とて討ち取らねばありません。私がやりましょう。」


「よろしいのですか、明智殿?」


「はい、過去のことに拘ってはおれませぬ。村上水軍の調略は長宗我部殿にお任せしても?」


「村上水軍は既に先の戦で実力差を思い知り降伏するつもりのようです。我らは厳島より安芸に入ります。」


「では各々抜かりなく。」


早速厳島に入った俺と元親はそこに陣を敷き毛利輝元との接触を図った。

未だに備中高松城にて睨み合っている輝元に会うために備後の古寺にて密談を行った。


「こうしてお会いするのは始めてですな。右馬頭殿。」


元親が挨拶する。


「そうですな、宮内少輔殿。織田相手に奮戦されたようですね。して何用ですかな?」


「私からお話しましょう。」


俺が切り出す。


「この戦は全て先の将軍、足利義昭に原因があります。既に備後の鞆には当家の明智日向守率いる軍勢が進んでおります。そして毛利家では吉川駿河守と小早川左衛門佐が右馬頭殿を蔑ろにし家中を牛耳っておるようですな。」


「仰る通りで……。私も困っております。」


「我らも右馬頭殿が苦しい目にあってきたのは存じ上げております。2人の首を持ってくれば右馬頭殿のお命と御家の安泰は約束しましょう。」


「そっ、それは……。」


「右馬頭殿、上様は寛大な処分をしてくださる。叔父二人の命か四万の家臣の命か、どちらが大事かくらい分かるでしょう。」


「承知した。しばらくお待ちくだされ。」


輝元はそう言うと出ていった。

さて、上手くいってくれると良いが……。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

備中高松城 毛利輝元


織田家の阿波守殿は確かに寛大な処分をしてくださった。

叔父上を斬れば御家は守れる……しかしそれでは毛利家の家訓たる三本の矢が崩れてしまう……。

それに小早川の叔父上には子はいないが吉川の叔父上に子がいる。後々の禍根を残さなければ良いが……。


「少輔四郎、参りました。」


そう言ってもう1人の叔父上が入ってきた。

彼の名は穂井田元清。叔父上と言っても年は2つしか変わらない。

兄のような方だ。


「兄者、お待ちしておりました。先程、織田家との密談が終わりまして。」


「それで織田側の要求は?」


「吉川の叔父上小早川、公方様の首を差し出せば私の命と毛利家の存続は認めると。」


「ならばさっさとお2人に自害を命じられれば良いでしょう。」


兄者からのあっさりとした言葉に少し驚く。


「お2人も御家のために死ねるのであれば喜んで死ぬでしょう。特に吉川の兄上はいつも御家のため、御家のためと言うておるではありませんか。そもそも2人と命で毛利が助かるならやるべきでしょう。」


「やはりそうか……。私の口から言うべきか?」


「ええ、そりゃああなたが言わなければなりません。私も同伴するので大丈夫ですよ。」


「そうか……。」


早速私は叔父上2人を呼び出した。


「何だ、輝元。戦の最中に呼び出すとは。」


吉川の叔父上は不機嫌そうだ。


「先程織田方の津田阿波守、長宗我部宮内少輔と話して参りました。」


「また勝手なことを!」


小早川が怒鳴る。

しかしそれを無視して私は進める。


「叔父上2人と公方様の首を差し出せば私と、毛利家の無事は保証すると言われました。既に公方様を討つ軍勢は備後に上陸しているでしょう。」


「ならぬ!ならぬぞ!織田に降伏など!」


吉川の叔父上が言うと小早川も頷く。


「私も兄者も降伏すべしと考えております。四万の家臣のためにはそうするしかありません。毛利家当主としておふたりの切腹を命じます!」


私の力強い言葉に2人は大いに驚いた。

しばらく時がったあと小早川が口を開く。


「それでこそご当主です。私は喜んで腹を斬りましょう。」


「……ならば私も腹を斬ろう。今のそなたには毛利家を任せられる。」


「叔父上!」


「これでそなたに毛利家を任せられる。さらばだ輝元。」


叔父上たちはそう言って出ていった。

これで良かったんだな……。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


次の日、吉川元春と小早川隆景は自害し足利義昭は討ち取られた。

そして天正10年12月、毛利輝元は羽柴秀吉に降伏。

長年続いた織田と毛利との戦はここに終了した。

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