39話
長宗我部家についてはそれなりに調べているので変える気はありません。
長宗我部軍撤退の30分前、長宗我部元親
戦場は完全に長宗我部軍の支配するところとなっていた。
別働隊は明智秀満と斎藤の義兄上の率いる右翼勢に襲いかかり圧倒していた。
左翼勢は主力の津田軍を信親隊と共に挟み撃ちにしていた。
しかしうまくいきすぎている……。
ここまで織田軍は弱いのか?
あの今川も武田も上杉も毛利も叶わなかった織田軍だぞ……?
本当にここまで弱いのか?
もしかすると別働隊が潜んでいて伸びきった戦線を一気に叩き潰すのでは……?
既に信忠率いる十万の軍勢が控えているのではないか……?
私の中で迷いが生じていた。
「御館様ッ!一大事です……!」
「なっ、なんだ!」
疑心暗鬼になっていた私の元に青ざめた顔で谷忠澄がやってきた。
「土佐より報告!桂浜に九鬼の水軍が現れたようです!岡豊を砲撃しております!」
とっ……土佐に……ッッッ!
そっ、それが狙いなのか……!?
いや、虚報かもしれない。
あの明智殿ならやりかねん……。
しかし織田軍ならそれくらい、いとも簡単に出来るでは無いかっ!?
私は最悪の事態を想定した。
ここで兵たちに動揺が走れば一気に敵は盛り返す。
そのまま逃げる先もなくただ、討ち取られる……。
まんまと罠に嵌められたでは無いか……。
「兵たちはこれを知っておるのか?」
「それが……恐ろしい早さで広まっており士気に影響が……。」
もうダメだ……。今すぐ撤退して土佐を守るのが最善か……。
「忠兵衛……そなたならどうする……。」
「誰かに殿を任せ、撤退致します。」
「やはりそうか……。福留を呼んでくれ。」
福留は家中一の武辺者だ。
この大舞台で殿を見事に果たしてくれるだろう。
早速、私の命を受けて福留がやってきた。
「御館様……。」
「すまない、隼人。そなたに任せたいことがある……。」
「分かっております。見事に殿を果たしてみせましょう。」
「土佐で生きて会おう……。全軍、撤退せよ!何としても土佐を守るぞ!」
無念だがここまでだ……。
私は涙を堪えて撤退を開始した。
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「つまり虚報を流して長宗我部を撤退させたんですね!」
「はい。あの方は土佐を奪われる事を最も恐れております。もし土佐に敵が現れたと知ったら急いで撤退するでしょうね。」
「なるほど、流石ですな。それで追撃しますか?」
「いえ、その必要はありませぬ。下手に追撃して三七様を殺されても困りますからね。しかし敵を追いかけながら城を落としつつ土佐に入りましょう。」
「それでは早速、向かいまする。」
その後はさしたる苦労はなかった。
長宗我部軍は城にたいした兵を置いておらず俺たちを見たら城兵は皆、降伏しついに俺たちは白地城を包囲した。
「長宗我部家家臣、谷忠兵衛でござる。津田七兵衛様でございますか?」
そう言って初老の男が出てきた。
その後ろには三七もいる。
「そうだ、降伏するのか?」
「いえ、私は御館様より言付けを預かってきただけにございます。」
「ほう、なんだ?」
「神戸侍従様をお返し致します。無礼な真似をして申し訳なかったと宮内少輔は申しておりました。」
えっ、殺してくれてよかったのに。
元親って人情家なのか?
ともかく三七を取り返し、俺は白地に入った。
とはいえ長宗我部軍は未だに二万近くおり油断はできなかった。
「殿、ここは上様から援軍を頂きさっさと長宗我部軍を叩き潰しましょう!」
三成が交戦を主張する。
「単純すぎるな。先の戦では明智様が虚報を流されたお陰で勝てたがそれまではこちらが押され気味だったでは無いか。背水の陣を敷く長宗我部軍に勝てるはずがないぞ。」
うん、高虎の言うことに一理あるね!
「その通りだ。それよりも講和した方が良い。その方向で話を進めよう。」
と言うので讃岐と伊予の割譲で話を進めようという事になり再度俺は元親を呼び出した。
「お久しぶりです、長宗我部殿。先程の戦はお見事でございました。」
「ははっ。あなたの舅殿に見事に騙されましたよ。あそこで押し込んでいたら勝てたのですが……。」
「勝てたとは思いますが結局は第2軍、第3軍が攻め込んで四国は修羅となりますよ。」
「私もそれに気づきました。やはり物量の差では叶わない……。しかし降伏しても許されるか分からない状況で降伏はできない。」
「なぜ許しを乞うのです?」
普通の武士ならここで許しを乞うのではなく家族がどーたら言うだろう。だが彼は違うらしい。
「私には家臣たちと約束した夢があります。四国を、四国を平和な国にしてみせるという約束です。その約束をまだ私は果たせていません。それを天下人に死ねと言われて死ぬようでは死んで行った仲間に申し訳がつきません。」
なるほど、家臣との約束か……。
「分かりました、俺が上様を説得しましょう。しかし四国全土を任せるというのは無理です。」
「はい、どうかよろしくお願い致します。」
そう言って元親は頭を下げた。
そして安土で……。
「ダメだ、滅ぼせ。」
はぁ……もう我慢の限界だ。
俺は殿の前で立ち上がる。
「いい加減にしてくだされ!小山田の時も、三七の時もあなたは頑固すぎます!昔のあなたはもっと柔軟で大人しい方だったではありませんか!」
「津田様、上様の前で無礼ですぞ!」
側近の森蘭丸が止めようとする。
「黙れ蘭丸!これは俺と上様の問題だ!」
止めに来た蘭丸を投げ飛ばした俺は殿を睨みつける。
「きさま……ッ!帰れっ!失せろっ!もう勝手にしろッ!」
「ええ、お言葉通り好きなようにさせて頂きまさ!なんなら西国の事は私に一任して頂きたいねっ!」
「ああ、もう構わん!お前にガミガミ言われるならそっちの方がマシだ!論功も処遇も全部お前が好きなようにやれ!」
作戦成功である。
イライラして適当にさせるというのが見事成功した。
まあ後で正気になって来るだろうということでしばらく安土で待っていた。
すると予想通り殿自ら俺の屋敷にやってきた。
「兄者、先程はすまなかった。さすがにワシも言いすぎた。許してくれ。西国のうち大名の処遇はそなたに任せる。毛利はサルと相談し長宗我部は土佐と伊予で許してやれ。どちらも人質は出させるように。島津はワシが九州に入ってから決める。」
「承知致しました。ご配慮忝のうございます。」
分かってくれてよかった。
とにかく俺は早速四国に向かった。




