37話
9月、殿は上杉征伐を命令。
オヤジを始めとした四万の大軍が越後へとなだれ込んだ。
既に虫の息だった上杉軍四千はほぼ壊滅し上杉景勝は討死、関東管領上杉家と越後長尾家はここに滅亡した。
越後は旧新発田領はそのままに残った上杉領はオヤジが直接支配することになった。
代わりに越前のうち府中10万石は菅谷長頼に与えられた。
これは伯父上が決めていた事らしく老臣は切り取り次第にして国境地帯を任せ側近たちに畿内周辺を固めさせる案らしい。
これはごもっとも。
そしていよいよ西国征伐だ。
サルの援軍として五郎左、勝左、中川清秀、高山右近ら遊撃軍二万が播磨に入り但馬からは細川親子と菅谷、堀久ら馬廻りら一万五千が羽柴長秀と合流する。
四国には阿波から俺と明智殿が三万、讃岐には三七が伊勢と伊賀の兵一万五千を率いて侵攻する。
サルの兵3万と合わせて合計で11万の大軍が西国に雪崩込むことになった。
三七は武勇には優れるし問題は無いだろうが前世の長宗我部と比べて今回の長宗我部軍は兵力も所領も倍近い。
噂によれば四万近い兵をかき集めたらしい。
とはいえそれを2分割する必要があるのでこちらの優位は変わらないだろう。
ともかく四国に侵入した俺たちはあっという間に阿波の勝瑞城を落とし三七も快進撃のはずだった……。
だが四国に入って1週間後。
「もっ、申し上げます!讃岐にて神戸侍従様の軍が長宗我部軍と激突しました!」
吉継が慌ててやってきた。
「そっ、それでどうなった!」
俺より先に明智殿が聞く。
「神戸様の軍は壊滅!神戸様は捕らわれたようです!」
「まずいですよ、明智殿。 このままでは味方の士気に関わります。」
「恐らく宮内少輔は交渉の材料にしてくるであろうな。」
そう言ってたら長宗我部の使者が来た。
「長宗我部家家臣、本山又四郎にござる。」
「本山と言うと一門衆でないか。わざわざ御足労いただき忝ない。」
さすが明智殿。四国情勢には詳しいな。
「我が叔父、宮内少輔は穏便に事を済ませたいとお考えです。こちらを上様にお渡し頂きたい。」
本山が書状を差し出す。
「ふむ、四国の内土佐、伊予の安堵ですか……。」
「左様。阿讃は織田様に献上致します。これが成れば三七様をお返し致します。」
「あいわかった、直ちに伝えよう。」
使者が帰ったあと、俺と明智殿は頭を悩ませた。
「味方の間で動揺が走っています。やはりここは……。」
「とはいえ織田が長宗我部に譲歩したとなればそれこそ、諸大名から舐められるでしょう。やはり上様の意見を聞くしかありませぬ。」
「では私が行ってまいります。明智殿は四国にて軍の指揮をお取りください。」
「承知致しました。」
俺は明智殿に頭を下げると早速、殿のいる二条城に入った。
「なにぃつ!?三七が人質になってるだと!?」
「面目次第もございませぬ。我らが着いていながら。」
「あの馬鹿め!自分を過信するなとあれほど教えたのに!なんのために軍を預けたのじゃ!」
「それで如何なさいますか……?」
「譲歩はせぬぞ。三七も助けさっさと長宗我部を叩き潰して参れ!」
そういうと殿は戻っていってしまった。
かなりイライラしているみたいだ。
ともかく、殿からの命令を受けた俺は四国に戻り明智殿に報告した。
「うーむ、これは厄介なことになりましたな。宮内少輔殿と直談判してみますか……。」
「それ、簡単に行きますか?」
「まあ、やってみる他ないでしょう。」
……行けました。
あっさりと阿波の会談が行われる事になりました。
俺と明智殿は僅かな供回りを連れて寺に入った。
「お久しぶりです、宮内少輔殿。」
明智殿が頭を下げる先には長宗我部元親が座っていた。
前の頭を下げていた時に比べると寡黙さが増している。
「久しぶりですな、十兵衛殿。」
「ははっ、最近は歳をとりましてどうも体が辛い。」
「私も疲れましたよ、四国を手に入れたにも関わらず織田がいきなり攻めてくるのですからな。」
はっ?そっちが毛利と同盟組んだからだろ!
なんなんだこいつ!
立ち上がろうとする俺を明智殿は手で静止する。
「まあまあ、それが戦国の世ですからな。それで神戸殿の事ですが……。」
「どうせ突っぱねたでしょうな。」
「はい、ですから降伏してください。悪いようには致しませぬ。」
「なにゆえ降伏を?我らは讃岐にて寡兵で神戸侍従の大軍を打ち破った。阿波にはまだ戦える兵が多くいる。あなた方はどうです?この土壇場で兵糧が減ってきているのでは?」
くっ……正論だ。
三七の失態のせいで俺たちは動けずただいたずらに兵糧が減っていくだけだった。
「では和睦を……。伊予は保証致します故……。」
「そもそもの話、我らは戦に勝ったのですから何故領土を渡す必要が?」
「上様のご命令ですから。」
「その上様はなんと申されているのです?」
「先代は土佐と阿波半国を……。」
「話になりませんな。やはり戦しかありません。」
「それでは神戸殿が……。」
「ご安心を。人質を殺すほど野蛮ではありませんよ。」
そう言うと元親は帰っていった。
あれ、俺一言も喋ってない?
「明智殿……。」
「仕方ありません。決戦を覚悟しましょう。」
こうして織田家と長宗我部家の決戦が始まろうとしていた。
上杉景勝が瞬殺されたのは普通に自分が評価してないからです。
毛利輝元の方が百倍有能だよ




