34話
これかなりスピード早いかも……
本願寺を下して1年、伯父上が京都で盛大な馬揃えを開催した。
俺は連技衆として奇妙殿、三介に続き20騎と河内衆を率いて参列した。
この時点で前世で同格であった三七と三十郎叔父上より俺の方が格上だと言うことが世に証明された。
器の小さい三七が大いに激怒したそうだが今の俺にはそんなことどうでも良かった。
それから1年、運命の年が幕を開けた。
何としても本能寺の変を避けなければ俺は死ぬし織田家も滅びる。
そのためにはどうするか……。
あれ?どうしたらいいんだ?
俺は久しぶりに信成から貰った本を読み漁る。
「本能寺の変の原因は……。未だ解明されていないだと!しかも原因は唐入りとか朝廷を滅ぼすだとか!?馬鹿なこと言うんじゃねえよ。」
思わず声が出てしまうくらい馬鹿げていた。
どうやら甲州征伐の後で明智殿に対して伯父上が暴力を振るうのでそれを未然に阻止して長宗我部攻めを辞めさせるかむしろ明智殿に乗り気になってもらうしかない。
でも三好康長は死んでるし四国問題もクソもないんじゃ?
ともかく時が来た。
武田家家臣の木曾義昌が武田家を裏切り織田家に寝返ったのだ。
これを好機と見た伯父上は奇妙殿ら中央方面軍を信濃に、徳川家康と北条氏政をそれぞれ甲斐と駿河に侵攻させ俺と滝川に軍監を命じた。
久しぶりの武田との戦に緊張すると共に俺は武藤喜兵衛との再戦に心を躍らせた。
あれから7年、俺は大名になり家臣も増えた。
あいつもきっと武田家の内で大いに出世しているだろう。
そう思いながら俺は岐阜に参上した。
既に当主は奇妙殿であり今回の武田攻めでは総大将である。
さすがに奇妙殿呼びも失礼なので今回から殿と呼ぶことにする。
「殿、津田阿波守ただいま参りました。」
「あっ、兄者……。いや阿波守、参上ご苦労。」
俺の意図を汲み取ったのか殿も姿勢をただし応答する。
「既に川尻を目付に平八郎と勝蔵を木曾の元へ向かわせている。そなたが来たのであれば早速出陣するぞ。」
「ははっ!」
こうして出陣した甲州征伐軍だが先鋒の平八郎と勝蔵が鬼神の如く働き武田信豊を始めとする武田家の重臣をあっさり討ち取ると小笠原、穴山両将が裏切りあっという間に織田軍は甲斐に侵入した。
というか穴山信君は元々調略していたらしくこれにて駿河と信濃のほぼ全域は織田家の支配下に入り武田勝頼自身も重臣の小山田信茂に裏切られ天目山にて自害した。
「こちらが武田勝頼の首にございます。」
そう言って天目山を攻めた滝川が武田勝頼の首を差し出す。
7年振りの対面がこれとはなんともまぁ。
「殿、小山田信茂が面会したいと申し出ております。如何致します?」
そう滝川が聞くと殿は嫌そうに頷いた。
まあ殿は真っ直ぐな性格だから裏切りとか嫌なんだろうな。
でも小山田信茂は武田家でも勇猛果敢な名将だ。
俺としては家臣にしたい。もちろん喜兵衛も。
「通せ。」
滝川がそう言うと小山田信茂が入ってきた。
やはり歴戦の猛者と言ったところであろうか。
しかし汗を垂れ流していた。
「この小山田信茂、岩殿城と兵二千を岐阜中将様にお預けし身命をとしてお仕え致します。」
そう言って小山田が頭を下げる。
「武勇に優れる小山田殿が味方になられるとは頼もしい。これで武田家の諸将も無駄な抵抗をせず降るでしょうな。」
俺がそう言うと小山田の顔に余裕が出てきた。
しかし殿は納得がいかなかったようだ。
殿が命じると足軽が小山田に槍を向ける。
「なっ!これはいかなるお考えか!」
やはり小山田は驚いている。
前世で知ってたから驚かなかったがまあなんともいきなりだ。
「不快だ。大恩のある武田家を裏切り滅亡を決定づけた者など織田家にはいらん。」
「お待ちなされ。それは戦国の世の習い。今ここでそのような道理で殺すには勿体なき男でございますぞ。」
「黙れ阿波守。決めるのは私だ。」
俺は滝川に何とか言えと視線を送るが滝川は静かに首を横に振る。
「なっなにゆえです!木曾義昌も穴山信君も寝返ったではありませぬか!」
「それは我らが調略をかけたからだ。必要としたから寝返らせた。しかしお前は私情で寝返った卑怯者よ。去ね。」
「殿!それなら俺の養父上も松永久秀もそうではありませぬか!しかし2人とも上様は許されましたぞ!」
「父上は父上。私は私だ!私のやり方に反対なら織田家を出ていけば良い。」
なっ……。当主になってしばらく会ってなかったがこんな人間になっていたとは……。
これ以上言うとまずいと悟った俺はやり方を変えた。
「であれば小山田殿の家臣は私が引き取りとうございます。天下に聞こえし投石部隊の力を私が手に入れたいのです。」
「ふん。好きにしろ。とにかくこやつは殺す。」
こうして小山田信茂は処刑された。
惜しくもその日の夜、伯父上とその一行が到着した。
イライラする俺はことの次第を伯父上に報告した。
「奇妙はワシやお前と違って頭が固いからのう。小山田信茂……ここで失うには惜しい男であった。」
「あれでは使える人材も斬られてしまいます。何とかしなければ……。」
「とはいえ当主は彼奴じゃ。まあワシからもこれ以上の処刑は控えるように伝えておく。用件はそれだけか?」
「はい。では失礼します。」
部屋を後にした俺はそこで懐かしい顔を見つけた。
「おお、喜兵衛では無いか!」
「むっ、これは津田の……。いえ阿波守様ではありませぬか。」
「はっはっはっ。そんな堅苦しい呼び方はやめてくれ。今は真田喜兵衛か?」
俺はそう言って再開した宿敵、武藤喜兵衛の肩を叩く。
「いえ、今は真田安房守を名乗っております。安房と言っても関東の方ですが。」
「そうか、しかし呼び方は同じじゃ。誠数奇な関係よな。これから織田家に従うのか?」
「はっ。しかし岐阜中将様にはなかなか絞られましたわ。」
「あの方は厳しいからのう。ともかく今日は歓迎会じゃ。私の陣にて飲もう。」
「いえ、それがこれから上様への挨拶やらやる事が……。それからワシの倅を都に送ることになりました。どうか面倒を見てやってくだされ。」
「そうか、残念だ。倅の名前は?」
「源次郎信繁と言います。」
「源次郎だな、覚えておこう。ではまた。」
宿敵との再会に先ほどまでのイライラは吹っ飛んだ。
そして俺はこれから喜兵衛と共に戦える喜びにその夜はひたすら三成と吉継に設楽原での話をするのだった。




