29話
戦は筒井勢が戦ってるので特にやることも無く俺は鼻をほじりながら茶を飲んでいた。
ちなみに遊郭は伯父上に禁止された。
「なぁ、忠三郎。平蜘蛛ってのはどれくらい価値があるんだ?」
「一国よりも価値があるそうです。是非とも手に取ってみたいですな」
「へえ。忠三郎は茶の道に興味があるのか?」
「はい、千利休様より手ほどきを受けております」
知ってたけどこの年でそういうことに関心があるのは凄いよなぁ。
まあ俺は平蜘蛛なんて金稼ぎの物としか思ってないが。
「阿波守様もどうです?」
「いやー俺は茶は適当なのを飲むだけで良いわ。男なら女と酒よ。」
「なるほど、阿波守様は柴田様と羽柴様を足して2で割ったようなお方ですな。柴田様は酒好きですし羽柴様は女子好き。なおかつお二方の軍略と智謀を持っておられる。」
「まあオヤジは俺の育て親だしサルは家中で1番仲が良いからな。あとは明智殿みたいに思慮深ささえ手に入ればなぁ。」
「若輩者の私が言うのもなんですがいずれは手に入りますよ。今はそれで良いのです。」
「ははっ、そうだな。考えすぎかもなぁ。」
なお忠三郎は俺より歳下である。
その時耳を轟音が襲いその方向を見ると信貴山城が吹っ飛んだ。
「なっ、なにぃっ?」
「松永め、諦めて自ら命を絶ったか。」
忠三郎が悔しそうに言う。
「平蜘蛛が欲しかったのか?」
「はい……あれを手に入れれば上様も千様もお喜びに……。」
「それより戦で活躍して一国の主になった方がお前の父君は喜ぶぞ。とにかく1度本陣に行こう。」
本陣に入ると奇妙殿の顔が青ざめていた。
「ひっ、平蜘蛛が……。父上は……父上は……。」
「殿、平蜘蛛のことでそんなに焦ることはありませんよ。松永を討ち取る事が重要ですから。」
俺はすかさず助言する。
「いや……ワシは……ワシは……。」
口をあんぐりさせたままひとりブツブツ呟く奇妙殿はまともに話せる状態ではなかったので俺はさっさと陣に戻ることした。
まもなく包囲を解く許可が出たため俺は早々に軍を引き上げ安土城に行った。
「松永討伐、終わりました。首はまもなく殿がお持ちされるかと。」
「分かった。じゃあお前は堀久と共に上使として佐久間のところに行ってこれを渡してきてくれ。」
伯父上がそう言ってかなり分厚い書状を手渡す。
「かなりありますね。これ読み上げますか?」
「うむ、読み上げてこい。あの男の顔はもう二度と見たくないと伝えておけ。」
「ははっ。」
書状を受けた俺は堀久と共に佐久間の永原城に入った。
佐久間はなんのことかと思いながらも丁重に持て成してくれた。
「それにしても津田殿に堀久となんの御用かな?」
「これ、伯父上からの書状。俺達は上使ね」
俺が書状の入った包みを見せると佐久間と家臣たちは皆膝まづいた。
いつも思うが俺はともかく側近程度の堀久や万見に佐久間達重臣が膝まづくのはとても滑稽だ。
「佐久間右衛門信盛、上様よりの命令を伝える。」
堀久が文を読み始めた。
「一、佐久間信盛・信栄親子は畿内にて重要地点を有しておりながら何の功績もあげていない。世間では不審に思っており、自分にも思い当たることがあり、口惜しい思いをしている。
一、丹波での明智日向守の働きはめざましく天下に面目をほどこした。羽柴筑前守の数カ国における働きも比類なし。津田阿波守は若江、天王寺と天下に響く名誉を施した。これを以て信盛も奮起し、一廉の働きをすべきであろう。
一、柴田勝家もこれらの働きを聞いて、越前一国を領有しながら手柄がなくては評判も悪かろうと気遣いし、上杉相手に奮戦している。
一、戦いで期待通りの働きができないなら、人を使って謀略などをこらし、足りない所を信長に報告し意見を聞きに来るべきなのに、原田備中守の下に付いた事に文句を言うだけで天王寺においてもさしたる活躍もしなかった。
一、信盛は家中に於いては特別な待遇を受けている。三河・尾張・近江・河内・和泉から与力をあたえられている。これに自身の配下を加えれば、どう戦おうともこれほど落ち度を取ることはなかっただろ。
一、水野信元死後の刈谷を与えておいたので、家臣も増えたかと思えばそうではなく、それどころか水野の旧臣を追放してしまった。それでも跡目を新たに設けるなら前と同じ数の家臣を確保できるはずだが、1人も家臣を召し抱えていなかったのなら、追放した水野の旧臣の知行を信盛の直轄とし、収益を金銀に換えているということである。言語道断である。
一、山崎の地を与えたのに、信長が声をかけておいた者をすぐに追放してしまった。これも先の刈谷と件と思い合わされる事である。
一、以前からの家臣に知行を加増してやったり、与力を付けたり、新規に家臣を召し抱えたりしていれば、これほど落ち度を取ることはなかったであろうに、けちくさく溜め込むことばかり考えるから今回、天下の面目を失ってしまったのだ。これは諸外国でも有名なことだ。
一、先年、朝倉をうち破ったとき、戦機の見通しが悪いと叱ったところ、恐縮もせず、結局自分の正当性を吹聴し、あまつさえ席を蹴って立った。これによって余は面目を失った。その口程もなく、天王寺に在陣し続けて、その卑怯な事は前代未聞である。
一、甚九郎信栄の罪状を書き並べればきりがない。
一、簡潔に言えば第一に欲深く、気むずかしく、良い人を抱えようともしない。その上、物事をいい加減に処理するというのだから、つまり親子共々武者の道を心得ていないからこのような事になったのである。
一、与力ばかり使っている。他者からの攻撃に備える際、与力に軍役を勤めさせ、自身で家臣を召抱えず。領地を無駄にし、卑怯な事をしている。
一、信盛の与力や家臣たちまで信栄に遠慮している。自身の思慮を自慢し穏やかなふりをして、綿の中に針を隠し立てたような怖い扱いをするのでこの様になった。
一、自分の与力を酷使する割には総大将の原田の言うことを聞かない。原田もとても困っている。
一、余の代になって30年間奉公してきた間、「佐久間の活躍は比類なし」と言われるような働きは一度もない。
一、余の生涯の内、勝利を失ったのは先年三方ヶ原へ援軍を使わした時で、勝ち負けの習いはあるのは仕方ない。しかし、家康のこともあり、おくれをとったとしても兄弟・身内やしかるべき譜代衆が討死でもしていれば、信盛が運良く戦死を免れても、人々も不審には思わなかっただろうに、一人も死者をだしていない。あまつさえ、もう一人の援軍の将たる平手を見殺しにして平然とした顔をしていることを以てしても、その思慮無きこと紛れもない。
一、こうなればどこかの敵をたいらげ、帰参するか、どこかで討死するしかない。
一、親子共々頭をまるめ、高野山にでも隠遁し連々と赦しを乞うのが当然であろう。
一、信盛や林のような無能に与える領地を津田阿波守や森勝蔵、蒲生忠三郎のような若く優秀な者に与える方が織田家のためである。
よって佐久間親子を追放と致す」
堀久が読み上げて書を閉じた。
結構褒められてて照れちゃうなぁと思いながら前を見ると信盛親子は蒼白の表情でこちらを呆然と見つめていた。
「そっ、そんな……私は上様に……上様に30年間仕えていたのだぞ!」
「佐久間殿、否佐久間よ。そなたのような立場だけの年寄りは今の織田家には必要ないのだ」
堀久が高圧的な態度で畳み掛ける。
「なっ、なら権六も負けておるではないか!」
「聞いてなかった?オヤジは失敗しても挽回しようとしてるんだぞ?」
「くっ……。この雪辱、いずれ果たすぞ!」
そう言って佐久間親子は部屋を出ていった。
まあ色々ありそうだがこれで俺も晴れて河内の主となりました!
さーて、どこを拠点にするか河内に入って迷っているとまた事件が起きました。
「申し上げます!荒木摂津守謀反!」
林秀貞は完全に巻き添え




