26話
近江高島城 津田信澄
天正5年の夏。高虎がちょうど帰国し始めた頃、俺は新たなる城を築いていた。
「ふははははっ!これぞ織田家一門の男に相応しき城よ!」
俺は琵琶湖に浮かぶ白髭神社を天守より眺めながら高らかに笑った。
「しかし、上様も高虎が活躍したから城を新しく作る金も人材も出してくださるとは思いもよりませなんだ。」
隣の吉継は未だ驚きを隠せないようだ。
「そろそろ嫁も貰うからな。お前も次の戦では三成と共に初陣じゃ。」
「ははっ!大殿より学びし軍略、披露して見せましょうぞ。」
「おう、期待しているぞ。」
うちの家臣団は皆どういう役割かと言うと高虎が副将、吉継が軍師、兵站が三成と後世でそれぞれ名を残した分野での仕事を任せている。
うん、完璧だね。
そしてダラダラしていたら城に帰ってきた高虎に絶句された。
「しっ、七兵衛様……これはっ!?」
「おう、まずはご苦労だった。褒美は伯父上より預かってる。んで、これは津田家の奮闘への感謝の印に貰った金と人で作った城だ。」
俺は高虎に金を差し出す。
「あっ、有り難き幸せにございますがこれは……。」
「ああ、お前の屋敷も立てといたよ。1番でかくて1番城に近いところにな。」
「いやっ、それは有難いのですが俺が戦っている時に七兵衛様は城を建てていたのですか?死ぬ気で戦っていた時に……。」
やっ、やば!高虎の目が怒りに変わってるぞ!
「三成!吉継!助けてくれ!」
「いや、俺は知りませんよ?」
「私も……。」
「やめて!やめてくれ!俺はお前に喜んで欲しくて……!」
「いや、家来が主君に怒ったりしませんよ。七兵衛様は俺をなんだと思ってるんですか?」
「いやー、勘違いだよ勘違い。それより明智殿が斎藤内蔵助を家臣にしたらしい。俺の予想通りだったな!」
「いや、あれで何かを疑わない明智様って優しいお方ですね。」
「そうだろ高虎。それでその明智殿から丹波での救援要請が来た。」
「でも兵達はかなり疲れてますよ?」
「ひと月で何とかなるか?」
三成が高虎に聞く。
「まあ、皆やる気はあると思うが……。」
「やる気だけでどうにもならねーよ。てことで援軍の要請は断った。」
「えっ?」
3人とも目を丸くして言う。
「当たり前だろ、そもそももうすぐ農繁期なんだから戦なんてしてるなら武士も田植えした方が良いだろうが。」
「まあ確かに、今まで村の男たちは皆戦に出ておりましたが……。なんで兵農分離してないんですか?」
三成が呆れて聞く。
「兵農分離したら2万石程度の俺の所領じゃ兵は集まらんだろ。そろそろどっか加増してくれねえかなぁ。」
「まあわざわざ城を築いたのに加増はないでしょうな。」
吉継が冷静に分析する。
「そういう事だ。ともかく、しばらくはお前らも農作業手伝えよ!」
「はっ、ははぁ……。」
3人ともちょっと面倒くさそうだった。
で、俺は早速農作業を手伝いに行ったが全く役に立たず民も妙に気を使ってしまうので早々に引き上げた。
そんな間にも木津川で九鬼嘉隆が毛利水軍に完膚なきまでに叩きのめされたり上杉謙信が謀反を起こして織田家に宣戦布告してきたが特に高島には影響が無かった。
しかし秋になると畿内の織田軍(伯父上以外)が慌てふためく事件が起きた。
松永久秀の謀反である。




