12話
テストで将軍を暗殺した三好長慶の家臣は?って問題で松永久通って答えたかったんですが仕方なく久秀で答えました。
岐阜の森家の屋敷ではとんでもない光景が広がっていた。
俺くらいの年齢の奴らが恐ろしい勢いで戦っているのだ。
「おい、勝蔵。」
ここに来てから会うのは初めてだが俺の幼なじみのひとりだ。
もう片方は確か……。
「あと、平八郎。」
勝蔵は森長可、平八郎は団忠正の事だ。
2人とも血気盛んな猛将だ。
「むっ、津田坊か。」
「邪魔しないで貰えますか?」
「まあまあ、睨みつけるなよ。それに幼なじみとはいえ津田坊はないだろ。せめて阿波守殿くらいでさぁ。」
「うるせえよ。俺は今イライラしてるんだ。」
「こいつ、俺に負けて拗ねてるんですよ。」
そう言って笑う忠正。
全く、同年代の堀久達とはどこで育ち方を間違えたんだか。
「いや、お前のところの弟さあ。ちゃんと面倒見てるかなぁって。」
「津田坊が気にすることじゃないだろ。帰った、帰った。」
うわー、これが兄だと弟もダメだなぁ……。
万見あたりに側近になったら指導させるか。
「阿波守様も一本どうです?佐久間が来るまで暇なんですよ。」
げっ……佐久間盛政かよ。
なんでこう、織田家の暴れ馬は集まりやすいのかね。
「いやー、俺は結構。用事を思い出したわ。」
俺は逃げるように森家を後にした。
「その様子だとまた勝蔵兄貴達に怒られましたな。」
ふと近くの家の壁にもたれかかっている青年が話しかけてくる。
「誰かと思ったら庄九郎か。久しぶりだな。」
池田庄九郎元助。
伯父上の乳兄弟の池田恒興の嫡男で俺の幼馴染の一人である。
「いやー懐かしいですね。いっつも勝兄と平八兄が七兄をしばいてはお濃様に怒られてましたからなぁ。」
「あいつら三七と三介には興味無いみたいだしな。バカよりも賢いやつをいじる方が好きなんだろ。」
「ええ、七兄は賢いからいじられるんですよ。1回、奇妙様をいじって勝兄の親父さんと柴田のおっさんにぶっ飛ばされてましたしね。」
「あれで懲りねえからあいつら馬鹿なんだよ。」
「でも大人になっても揉めてる奴もいますよ。」
元助が後ろを指さして言う。
「俺が府中の領主だ!」
「違うな、あれは俺が主だ!」
「又左と内蔵助か。アイツらも仲悪いなぁ。」
前田又左衛門利家と佐々内蔵助成政。
伯父上の母衣衆の筆頭で犬猿の仲だ。
まあサルは別にいるけど……。
「不破殿とあの二人で府中を治める事になったのに喧嘩してばっかで不破殿がお困りらしいですよ。」
「あいつらの喧嘩もめんどくせえよ。ほっとけほっとけ。」
「まあまともに話し合って分かる相手ではありませんしね。それより飯食っていきませんか?母様も七兄が来るとなると喜びますよ。」
「おお、それはありがたい。せっかくだしご馳走になろう。」
俺はルンルンで元助の屋敷に入った。
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その頃……。
遠江高天神城、武田勝頼。
「御館様、城の包囲完了致しました。」
「うむ、ご苦労だ三郎(山県昌景)。」
山県が報告する。
この城は父、信玄ですら落とせなかった城。
しかし今、この城は俺の手に落ちつつある。
守りを任された徳川の兵はわずか千程度。
こちらは二万五千。
負けるはずがなかった。
「全軍、かかれい!まずは二の丸を落とし敵の兵糧を焼き払うのだ!」
俺が父から受け継いだ軍配を振ると一斉に精鋭達が二の丸に襲いかかる。
見事だ……。
これこそ父が残した天下無双の武田軍。
あっという間に二の丸は武田菱で埋め尽くされた。
「御館様、曽根殿が。」
隣にいた側近の武藤喜兵衛が報告する。
「通せ。」
「曽根昌世、御館様に報告があり参りました。」
武藤も曽根も俺とは古い付き合いだ。
馬場や山県のような老臣も悪くは無いが俺はこの2人が最も信頼出来る。
「織田が動きました。岐阜を出て尾張に入ったようです。」
「随分早いですなぁ。」
そうだ、昌幸の言う通り織田軍は早い。
それこそが強さなのだ。
我々がゆっくりしていれば大軍を率いて驚くほどの早さで攻め込んでくる。
まさに風の如し……。
「我らは火の如く攻めるだけだ。数日のうちにケリをつける。」
必ず……。
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武田勝頼は強すぎた大将と評される。
父信玄すらも落とせなかった城を落とし武田家の最盛期を築いた紛れもない名将である。
そしてこの男が、信澄に立ちはだかる事になる。
信澄と勝頼、織田と武田をの未来を担う2人の若者が今、刃を交えようとしていた。




