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初デート〜前半•国王陛下の提案〜









言ってしまえば、アンナは拗ねていた。








ジークフリートは法律改正のため、クラウスの討議があるし…それに加えて、いつもの通常執務などがある。

だから…ほっとかれるのは仕方ないと思う。

その反面…もう少し、二人っきりの時間があってもいいと思うのだ。

五日後に迫った法律施行。

忙しいのは分かっているが…クラウスが首を縦に振った日から会えていないというのが現実。




つまり…約一週間近く会っていない。




(……前は…こんな風に思わなかったのに……)

頬を膨らませてアンナは自室のベッドの枕に顔を埋める。

ジークフリートが好きと自覚して、両想いになったからだろうか。

共にいれない時間がもどかしくて、悲しくて、寂しい。

(我儘は言っちゃいけないって分かってるけど……)






「………………会いたいよ…ジーク……」






「ふぅん…俺にそんなに会いたかったの?」






その声にアンナは固まる。恐る恐る枕から顔を上げると……。

「よう、アンナ」

目の前にジークフリートの顔があった。

「ぎゃっ⁉︎」

アンナは勢いよくけ反り、距離を取る。それを見たジークフリートはベッドに頬杖をつきながら、面白そうな顔で笑った。

「久しぶりに会ったって言うのに…色気のない声だなぁ…」

「しっ…仕方ないでしょっ…⁉︎」

顔を上げたら綺麗なジークフリートの顔があったのだ。驚かない方が無理だ。

「って…どうやって入ったのっ⁉︎」

「いや、音をたてずに入っただけ…」

「どこの暗殺者だっ‼︎」

「この感じ久々だなぁ……」

シミジミと言う彼は立ち上がると、ベッドに腰掛けた。

そして、アンナを手招きする。

「………………?」

首を傾げながら素直に近づくと……。

「んっ⁉︎」






強引に唇を奪われた。






アンナは目を丸くしながら、ジークフリートの久しぶりの口づけに混乱する。

やっと離れた時、彼女の目は回っていた。

「にゃっ…なゃにするのっ……⁉︎」

アンナは真っ赤になった頬を押さえて、噛みながら睨みつける。

ジークフリートはそれを見て爽やかに微笑む。

「俺から逃げた罰だ」

「逃げたっ⁉︎」

「今、距離を置いただろう?」

「顔が近かったからでしょっ⁉︎」

「でも逃げたも一緒なんだよ」

ジークフリートは少し不機嫌にそう言うと、再びアンナの唇を奪う。

「ん〜〜〜っ⁉︎」

今日の彼は無駄に強引で…アンナはもう参っていた。

真っ赤な顔でジークフリートを睨みつけようとするが…目を潤ませて見つめることしか出来ない。

それがジークフリートを刺激する。

「…………………………ヤバい…」

「………ぁ…ぅ…?」

「久しぶりな所為か…暴走しそうだ……」

首を傾げるアンナは、とてもあどけなくて…でも色っぽくて。

「…………………アンナ…」

「……………ジー…ク…?」

ジークフリートはゆっくりとアンナの頬に手を伸ばす。

滑らかな頬を優しく撫でると…彼は甘く微笑んだ。

「デート…しようか……?」

「……………………ぇ…?」

彼の言葉に直ぐには理解出来なかった。

(………今…なんて…?)

「俺達…デートとか何もしたことないだろう?折角の両想いなんだから、恋人…ならぬ夫婦らしいことしようと思ったんだが…どうだ?」

ジークフリートの提案にアンナの顔がみるみる輝いていく。

始まりは偽装だった。だから、デートとかそんなのもしたことがない。

昔彼が住んでいた郊外の屋敷には行ったが…あれはデートと言うよりは、育ての親への挨拶(?)のようなもの。




結婚してかなり経つが…初めてのデートだった。




「うんっ‼︎したい‼︎」

「なら決定だな」

「あ…でも……」

「…………ん?」

「なんで急にデート?忙しいんじゃないの?」

アンナの問いにジークフリートは「あぁ…」と疲れた溜息を漏らす。

「グランドはいつも通りに仕事を入れるし、クラウスとは法律改正で討議があるし…まぁ、それは仕方ないと思うけど……あいつ、俺はグランドがドンドン仕事入れるからアンナと一緒にいれないってのに………討議それと一緒に恋愛相談ならぬ惚気のろけ話ばっかりするから………苛ついてボイコットするって脅して休みを作ったから大丈夫だ」

「いや、それ、大丈夫じゃないよね⁉︎」

「グランドが仕事詰め込み過ぎなんだよ‼︎それに…俺がアンナとイチャイチャ出来てねぇのに他人の惚気、聞いて平然としてられるかよ‼︎」

「子供かっ‼︎」

「子供で結構だな。アンナとの時間作るためだ」

子供のようにそう言って彼はアンナを抱き締める。

二十五歳なのにこんなに子供っぽいのはどうかと思うのだが…まぁ、自分と過ごすために休んでくれたと思うと嬉しくないはずがない。

アンナはジークフリートの背中に腕を回して、彼の胸元に頭を擦りつけた。

「アンナ?」

「…………ありがとう…大好きよ…ジーク」

「っっっ⁉︎」

顔は見えないけれど息を飲む気配を感じた。

今日は沢山、ジークフリートを労ってあげようと思った。

だから初めに…感謝を伝えたのだ。

ジークフリートは頬を赤くして小さく呻く。

「…………《悪女》だ……」

「もうこの際《悪女》でも何でもいいわ。ジークが私を見ていてくれるなら」

「やめろよ…可愛過ぎてどうしたらいいか分かんないだろ……」

「ふふっ…」

そこでアンナは先程の話を思い出す。

つい流し掛けてしまったが…今、ジークフリートは結構重要なことを言った。

「………………ジーク…」

「…………………ん?」

世にも恐ろしいものを見たかのような顔でアンナは彼を見上げる。

「…………………クラウスの惚気って…何……?」

「……………………あー……」

ジークフリートは首の後ろに手を回しながら、思い出したかのように顔を顰める。

「面倒だけど…超絶、故意に不器用なクラウスとクリスティーナの話をしていい?」

「…………おっ…おう…」

思わず変な返事になってしまったが…アンナはことの顛末もとい法王謀略作戦•裏式について聞く。

クラウスの病んでた理由(演技)や、クリスティーナのこと。二人の想い……そんな理由であんなに怖い思いをしたのかと思うと……呆然としつつも、白くなりながら固まった。






「大丈夫。ちゃあんと〝お仕置き〟はしてきたからな」






ニコッ♡

今まで見たことがないくらいに爽やかなスマイル。

それを見たアンナは一瞬でクラウスに同情した。

何があったか聞かないのは……何となく何があったか分かるからだろうか?




取り敢えず言えることは…ジークフリートの〝お仕置き〟は地獄。




「まぁ、あいつらはどうでもいいから……」

(どうでもいいんだっ……⁉︎)

心の中で思わずツッコむ。

「早く行こうか?」

ジークフリートはアンナの手を引き部屋から出て行く。

アンナは手を引かれながら、彼に聞いた。

「あっ…どこに行くのっ⁉︎」

「そ•れ•は。着いてからのお•た•の•し•み♪」

楽しそうなジークフリートはどこに行くかを教えてくれない。

しかし…彼と共にいれるなら、アンナはどこだって良かった。






だから…アンナは嬉しそうに頬を緩めながら、ジークフリートの後について行くのだった………。








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