8/3 返却
ビーチの駐車場に車を止めてそっと周囲を見渡す。
晴れた天気に遊びにきている海水浴客が大勢。
足が、竦む。
袋を持って車から降りると熱気でくらりとする。
「海の家はきっとあそこよね」
『ARIKA』
カンバンが見える。
あそこまで行かないと。
黒の日傘を広げ、影を作る。
遮蔽物の少ないビーチ。
めまいがしそう。
「大丈夫ですか? 海の家、近いですから少し休まれた方がいいですよ?」
声をかけてくれたのは暗い赤毛の男の子。
さり気なく日傘を支えてくれている。
高校生か大学生だろうか?
日本語上手な留学生?
「ありがとうございます。海の家に行くつもりだったんです」
それを聞いた彼はニコリと笑って
「じゃあ、荷物と日傘持ちますね。気をつけてゆっくり行きましょう」
「留学生の方ですか?」
不躾になっていなければいいのだけれどと思いながら尋ねる。
「一応、日本国籍ですよ。近所の高校生」
彼は楽しそうにそう言って、袋をもってくれている手で建物を指す。
「はい。つきました。この時間帯ならまだ席は空いてると思いますから店内席に座れると思いますよ?」
「あ。千秋兄、えっと、部活はいいのー?」
プラチナブロンドの少女が彼に抱きつく。
「今日は終わり。お客様がいるんだからじゃれないのー」
「あ。いらっしゃーい。海の家ARIKAへよこうそー」
「戻りましたー」
彼は私を席に案内しつつ、店内に向けてそう言う。
「いらっしゃいませ」
黒髪の少女。今回会いに来た相手がふんわりと笑顔で出迎えてくれる。
「いらっしゃいませー」
他の店員さんからも声をかけられる。
「あれ? 柊子ねぇちゃんじゃん」
前に遊びに来たことのある隆維くんが手を振ってる。
ただすぐどこかへ行ってしまう。
ちょっと落ち着いて、呼吸整えて、
「柊子」
ぇ
視線をあげると気持ち心配そうな公志郎さん。
あ。
動悸が。
いけない。
「大丈夫です。思ったより、日差しがきつかったものですから」
改めて呼吸を整えて、そっと目を開けると心配そうな黒い瞳と視線が合った。
「あの、こんにちは。空さん」
いきなり下の名を呼んで失礼だと思われないといいのだけどとか考えるとどぎまぎする。
コンテストの時も呼んでしまったけれど、あの場は下の名前呼びばかりだったからあまり気にならなくて。
「こんにちは。柊子さん」
優しい笑顔に少しほっとする。
「お加減はいかがです?」
心配そうに訊ねられる。
「熱も引きました。ご心配をおかけいたしまして。それで、あの」
首を傾げて待ってくれる空さん。
「お借りしたパーカーをお返しに。コンテストの折は本当にお手数をかけてしまって。あの、ありがとうございました」
◇◇◇
「宗兄」
「さなえさんに電話した。車の運転は無理だろ?」
「たぶん」
「車のほうは、その辺にいるであろうウチの受験生に回させれば大丈夫」
「パーカーぐらいちゃんと届けるのに」
「ちゃんと自分でお礼を言いたかったんだろう?」
「ならせめて日が暮れてからとか」
そういっちゃんにぼやく公志郎くん。
随分、過保護発言だがあのおねーさん、今にも倒れそうだもんなー。
ただ二人、および、天音ちゃんの様子を見てると慣れたものである。
「カラスマントー」
陸姉の手招きに気がついて寄っていくと、シャツと手袋をむかれて消毒薬を掛けられた。
むっさ痛い。
空ちゃん 陸さん借りてます。




