8/8 昼前のビーチショー
100回記念だ!
いや、特に変わりはないんですけどね
「ふははは。月の下僕よ。貴様に負けるわけにはいかぬのだ!」
「その言葉そっくり返そう。太陽の下に生まれし邪悪の使徒め!」
眩しい日差しの下、波打ち際で繰り広げられる三文芝居。
観客は海水浴に来た人々。
黒いマントの邪悪の使徒と赤いマントの月の下僕のバトルショーである。
少し前まで邪悪の使徒によるマント取り扱いレクチャーが月の下僕に施されていたのはメイン観客の小学生たちの善意によりスルーされている。
マントが大きく翻り、見栄えを意識した大振りの動き。
そして羞恥のかけらもなく交わされる言葉。
カラーリングと呼び名に突っ込みどころは満載。
展開は勢いと思い付きのみで構成されヤマもオチもない。
「がんばれーロリガラスー」
観客席から声が飛べば
「ロリではなーい」
と答えが返り、
「自分ばっかり応援されて」
と悔しがる月の下僕。それをみてどこか優越感に浸ってるぽい気配のロリガラス。
ビーチにおける知名度の差を考えれば大人気ない。
その様子に観客が笑う。
「赤マントもがんばれー」
三文芝居は昼ごろになって観客が減るまで続けられた。
「あっつー」
そこは旧水族館の裏口。
居住空間へ続く玄関脇でもある。
仮面とマントを放り出して頭から水をかぶる。
「今日は協力感謝なー香月ー」
水場を譲りながら声をかける。
「楽しかった」
きっかけは少女の声がビーチに響き渡ったことだった。
「ここにいる香月くんはー! 先ほど私の水着姿を見てー! 興奮するとか言ってましたー! みなさんも気をつけてくださいー! おまわりさーん! ここですー!!」
文芸部長の勢いは相変わらずだ。かっけー
まぁあんなふうに言われる対象にはなりたくないけど。
今日のこのあたりの監視担当のライフセーバー矢口さんが香月を確保している。
そそっと矢口さんの後ろに回って香月に手を振ってみる。
――ハナシアワセロ――
「日生」
矢口さんが香月の呟きにこっちを向く。
「矢口さんごくろー様っすー。香月、まーた部長さんにはめられてんの? さっきのすごかったよなー」
「鎮くん、お友達かい?」
「でーす。同じガッコの香月クン。今日はちょっと約束してて」
「珍しいね。…………ロリ同盟? 犯罪だけはダメだよ?」
何言い出しやがるこのおっさんはっ!!
「ないからっ!」
香月とハモった。
なんとか高城の悪質ないたずらであるということを了承させ、香月の身柄を預かる。
もし、ホンモノの痴漢だった場合、俺の評判も下がる。
「つーわけで今度チョコでも買ってくれ。あと今年はビーチで痴漢加害者にならないよーに」
「なるか!」
「うんうん。ならないのが一番。んで、時間あるんならチョット遊んでくれないか?」
そして冒頭の三文芝居へと続くのである。
高城部長。香月君お借りしてます
このあと熱中症とかになってないといいですねー




