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7/30 早朝の北の森

朝。

うろなビーチを突っ切って公道沿いにぶらぶらと歩く。

少し、屈伸をしてから背後の気配を確認。

走る。

今日は森に入る予定だから長袖だが、このぐらいなら動きの阻害にはならない。

カラスマントの装備のほうが動きにくいしな。

あー。軽い。

白み始めた空。

潮の香りが遠のき、森の香りが濃くなっていく。

嫌いではないが少し、心細い。


利害の一致。


認識の不一致。


特にわかりあう努力をしたかと問われれば首を横に振るしかないのがわかっていて。


出る答えは「しかたない」


普通に今まで通りに会話だってする。

立ち位置は知り合い以上友達未満。


「まぁ、いいか」


そう言葉にして立ち止まる。

振り返って笑って手を振ってやる。

「お前ら大丈夫かー?」


涼維が息を切らせてぐったりしていた。

隆維は平気そうだ。

サイドバッグに入れたペットボトルを投げ渡す。

「水分とっとけー」



「いきなり走り出すんだもんな」

拗ねたような涼維の言葉。

「黙ってついてくるからだろ? 森の中に入るけど大丈夫か?」



「え」


涼維の表情がいやそうに歪む。

「天音もいくんだろ? 行くよ」

隆維が言い切り、その隆維を眺めながら涼維がため息をこぼす。

「隆維が行くんならいく」

心細そうに隆維の手を軽く掴む涼維。

「はいはい。じゃあペースあげるぞー」

二人の頭を軽くぐしゃっとく。



「なんでいるの?」

天音ちゃんの笑顔が一瞬で凍りつく。

隆維たちも嫌われてるわけではないはずなんだけどなぁ。

「気になってるから」

言いつつ、天音ちゃんがもっていた二つの包みを受け取っている。


そこそこのサイズのある薄く四角い荷物。それは隆維から俺が預かる。

「はい」

差し出されたのは水筒と猫。

「三春さん?」


答えはない。とりあえず受け取る。


「叔父さん、本当に時雨が案内できるの?」

「森の近くにいったら下ろしてやるといい」




猫の道案内。








マジに案内しやがった。


手袋の頭脳恐るべし!


「なぅ?」

一鳴きしたあと俺たちをくるりと見回したかと思うと、一瞬半眼ポイ表情。

「へっ」っとばかりに視線をそらし、チョコレート色の建物に向かって


「んなぁーーー」


超甘えた声で鳴いた。


背後で隆維がむかつくと小さくぼやいている。


小さな音が聞こえて扉が開いた。


白い髪。


夏祭りや、剣道大会の時にも見たが、あらためてこう近くで見るとすごいなと思う。


少し驚いた赤い瞳。


血を変色させることなく固めたらこんな感じだろうか?

隆維が前に『透き通る』と評していたのを思い出す。


「おはようございます」

見惚れていたら天音ちゃんの声が聞こえた。

「いきなりこんな時間に来てごめんなさい」

深々と頭を下げている天音ちゃん。

「先週もいきなりの反応で驚かせてしまってごめんなさい」


ぱちぱちと目をしばたかせて対応に困ってるように見える白い少女。

「天音。ねぇちゃんが反応に困ってるから、おはよう、ございます」

隆維が天音ちゃんを促して頭をあげさせ、自分も少女に挨拶する。

年上だと意識したのか丁寧さを付け加えている。

涼維は隆維の後ろで軽く頭を下げている。


「おはようございます」

ふわりと優しい笑顔で時雨てぶくろを抱き上げる少女。

「なー」

嬉しげに鳴き顔を摺り寄せる時雨。


「あー。日生鎮。迷子防止の同伴者兼荷物持ちです。よろしく」

「あ。山辺天音です!」

「俺は日生隆維で、こっちは弟の涼維。ちなみに今ちょっとビビリ気味なのは週末からだからねぇちゃんがきれい過ぎて圧倒されてるわけじゃな……いよな?」

いきなりそんなことを言われて涼維がぽかんと口を開ける。


「恐いぐらいきれいだなとは思うけど、そんなの言うことないじゃないか!」

きゃんきゃん喚く涼維を隆維が「はいはい」とばかりになだめる。



「勝手についてきて騒ぐんだから」

天音ちゃんがそう言って少女に頭を下げる。

「な」

するりと少女、――雪姫ゆきと名乗った―― の腕から抜けて俺にタックルをかます時雨ばかねこ


「鎮さん、おとさないで!」

タックルの影響でもっていた荷物四角い物を取り落としかけた俺に天音ちゃんがありがたい言葉をくれた。


包んである荷物の縁を軽く引っかき、時雨が雪姫ちゃんに向けて一鳴きする。

「鎮兄、封あけて」

いきなり耳元で隆維の声が聞こえてちょっと驚く。

睨むとにやりと笑ってまた涼維とじゃれだす。


出てきたのは絵だった。

緑がかった絵の中に赤い目が描かれている。

「なー」





「これ?」

「おじさんが描いてたんです。いつ、雪姫さんのことを見て描いたのかまでは知りませんけど、ヒトの絵が知らない間に知らない人の間をいくのは嫌だったから」


「ちなみにー、無愛想で言葉数の少ないおにいちゃんだよ。動きは天音に近くて猫みたいな感じ?」

隆維が余計なこと交じりで説明。

天音ちゃんが無言で足を踏み、そのまま肘を入れる。


痛そうだ。


「あ。前に手袋ちゃんと来てくれた人?」

「なーー」

同意するように時雨が鳴いて顔を雪姫ちゃんの足に擦り付ける。


「えっと、受け取ってもらえますか?」

「なぅー」

まるで、時雨の言葉を天音ちゃんが代弁してるかのようだ。

ところでどの説明であたりをつけたのかが気になるところだ。

「いいの?」

雪姫ちゃんが尋ねると得意気に「なー」と時雨が鳴いた。




雪姫ちゃんのところに早朝からお邪魔しております。

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