7/28 料理部からの説明
「鍋島さんこっちー」
鈴木部長が大きく手を振る。
「にゃ?」
鍋島さんが呼び声に近寄ってくる。
コンテスト脇でドリンクの試飲販売。
なれない売り子で随分あわてた。
「栞ちゃん、英くん、おつかれー」
柳本先輩が労ってくれる。
「お疲れ様。ところで試食けんってなに?」
小声で千秋先輩が聞いてくる。
突発での試飲販売に普通に売り子ができる千秋先輩はさすがだと思う。
「試食けんは試食けんよ」
にまりと柳本先輩が笑う。
「夏休みのランチタイムに旧水族館、先輩のうちを借りて、老人会の人たちとかに料理を習いながらランチ販売をしようって言う体験型夏学習? 実習?です」
「ごめん。聞いてないんだけど?」
千秋先輩が軽く額を抑えてつぶやく。
「それは試飲販売会もでしょ。やーん。鍋島さん、イイ体!」
うん。ビキニが似合うメリハリがうらやましい。
千秋先輩はすぅっと赤くなって黙ってる。
確か先週の剣道大会で思いっきり千秋先輩によこしまな思いはないとか、ただの同級生だとか公開宣言して、憎からず思っていることを回りに知らしめたとか。
そう、本人同士だけが微妙にすれ違っている。
暗い感じの緑の目が少し見開かれている。
あれ?
千秋先輩、カラコン?
髪は夏だから染めたのかと思ってたけど。
「何か言えー」
バシンと柳本先輩が千秋先輩の背中を叩く。
「えっと、鍋島さん」
ちらりとどこかはにかむ鍋島先輩。
「すごくかわぃ……」
「じゃあ、鍋島さん! 説明するねー」
千秋先輩の言葉は部長の声にかき消された。
背後で村瀬先輩が小さく万歳してる。
……お手上げですか。
「料理部試食けん。それは夏休みのランチタイム、そこの旧水族館で料理部がライフセーバーの方たち対象におこなう食堂もどきの無料チケット。夏の間食べ放題!! もちろん、素人料理じゃ不満だと言われたときのために!!」
じゃーん
と言う効果音が聞こえそうなオーバーアクションで数枚のチケットを取り出す。
もしかしてコンテストのあのノリに毒されてるのかな。部長。
「商店街飲食関係店から集めた引換券! コロッケ引き換え10枚つづりに喫茶店のドリンク引換券。こっちはお惣菜屋の割り券だぁああ」
いいなぁ。
「今日、時間がよければ一回目の試食していかない?」
加藤先輩がにこりと笑いながら提案する。
「水族館より少し向こうの閉鎖されている建物があるでしょ?」
「知ってるにゃ。夏近くなると夜な夜な妙な点滅を繰り返すことで有名にゃ」
うんうんと頷く鍋島先輩。
「あそこも日生君の家なんだけどね、あっちにも食堂があって今日はそっちを借りて下準備を済ませてあるの」
ホラースポットのような言い方をした場所が千秋先輩の関連地と聞いて驚く鍋島先輩。
「料理部で一番料理が上手なのは千秋君だし、今日は千秋君がそこでどこまで鍋島さんの要求にこたえられるかをトライしてもらおうかなって思ってたの。明日からの営業の参考にね」
なんだかんだ言ってウチの部はマイペースの集まりだと思う。
加藤先輩、鍋島さんの都合も千秋先輩の都合も一切確認してない。
一応さらっとしてはいるんだけど、ダメって言う返答を想定してない。
「お。」
そんな時に声をかけてきたのは黒尽くめ。
「ふ。われらがうろなの猫娘ではないか」
「だれが猫娘にゃ!! この振られロリガラス!」
「くっ。利害の一致と認識の不一致なだけだ!」
それ、ダメじゃん。
そばで深呼吸が聞こえた。
「いこう。サツキさん」
手を差し出しつつにこりと笑う千秋先輩。
「何が食べたい?」
サツキちゃん借りてます。




