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7/28 宇美のがっかりビーチデート

「宇美ー」

階下からお母さんの声が聞こえる。

「のぶちゃんが一緒にビーチ行かないかってお誘いに来てるわよー」




は?



柊子さんが出ると言うから見に行くつもりだったけど、なんでノブ兄が?


深緑のワンピースにニットカーディガン、帽子はつば広? ベレーどっちがいいか。


つば広帽子を掴んで階下に下りる。

ノブ兄にデートに誘われるなんてそうそうないし。


「おう。おはよう」

「ちゃおー」

ノブ兄の横には肥満猫を抱きかかえた赤いワンピースの女の子がいた。

「お、おはよう」

「ひろちゃんのところにホームステイに来たミラです。今日は一緒におねーさんがビーチに連れて行ってくれるというのを楽しみなの」


少し不思議な文法で少女はにこにこと告げる。


「えっと、きょうはつねちゃんがどーぶつさんたちをみてるからひろちゃんとおねーさんとミラは遊びに行っていいの」

言い終わって確認するようにノブ兄を見上げるミラちゃん。

「おー。あってるあってる。今日は院長が珍しく出張ってくれるからなー。都合がいいんならいこーか?」

ミラちゃんの銀杏色の頭をガシガシ撫でながらこっちを見てくる。

「うん。行ける」





感想としては親子かお前らって感じ?



「ところでその、ミラちゃんが抱いてる肥満猫は?」


指差すと猫が億劫そうに「ぶなぁ」と鳴いた。



「ひろちゃんの愛猫スカイフィッシュちゃんです~」




途中でノブ兄の愛猫9.5キロはノブ兄が抱き取っていた。


うん。重いと思う。


自然に開いた手をそっと差し出してきてミラちゃんがにこりと笑う。

もう片方の手はノブ兄と繋いでて。

もうじき11歳になるというミラちゃんは日本語が上手で明るい女の子だった。



そして日生双子下のメル友だった。

隆維と涼維の双子に溺愛されているミラちゃんは邪魔くさそうながらも嬉しそうだ。

なんとなく感じるものがあってノブ兄を見ると苦笑された。


似てるのだ。


日生兄妹とミラちゃんは。


日生家とノブ兄は仲がいい。


なんだかなとは思う。


「男って結局庇いあいなのかしら?」

ぼやきつつ帽子の角度を直す。

「大丈夫か? 宇美」

ARIKAで飲み物とかき氷を買ってきたらしいノブ兄が飲み物を差し出してくれる。

「大丈夫。それよりあの肥満猫大丈夫?」

肥満猫は今ミラちゃんに抱かれている。そのミラちゃんは涼維くんに抱きしめられている。


ほんとに、暑そう。



「夏だ! 海だ! ビーチだ! 夏のうろな名物! 男達の夢と憩い! 水着美人コンテスト!」

「今年もはじまるよっ!」


ステージの方からそんな声が聞こえてくる。

コスプレ司会による水着美女コンが進行していく。


「あれ? 稲荷山君って」

ウチに買い物によくきてくれるサツキちゃんと仲のいい男の子よね?


って言うか、私もあのぐらい強引に行った方がいいのかな?




閉幕直前、司会二人は友達じゃないよ宣言に苦笑しつつ、額を押さえる双子の友達の天音ちゃん。

「ナニあれ?」

「いつものやつがここで出るかー」

「いつもなんだ」

涼維くん、天音ちゃん、隆維くんの順だ。

「うん。いつもの。鎮さんとならうまくいくかなーって思ってたんだけどなぁ」

残念そうな天音ちゃんの言葉にノブ兄が苦笑する。

「しず君も難しいからなぁ」



「類友で結構うまくいくんじゃない?」

隆維くんがドリンクの氷を噛み砕きながらそう言った。




コンテストりのあとざわめきと興奮の残るビーチをノブ兄と二人で歩く。

「たまにこう出歩くといいねぇ」

「普段引き篭もってるからでしょう」

「いつ急患がくるかわからないからね」



「あれ? 信弘くんだ。なんだか久しぶりー」

「お久しぶりです」

栗色の髪とミラちゃんと同じ枯葉色の瞳。

「引き篭もってるからでしょ。彩夏ちゃん。って、いつこのうろなに? 沙夜香ちゃん」

ふわりとした栗色の髪の女性鎮くん、千秋くんの母親である彩夏さんがお互い様じゃんと軽く笑い飛ばす。

少し明るい栗色の髪の女性の方は秘密とばかりに笑う。


「もしかして、宇美ちゃん?」

「え?」

「前会った時は宇美ちゃんはまだ小学生だったから覚えてないかな?」


首をかしげて記憶を探っているとフラッシュバックのように光景が思い出される。

ノブ兄に抱きついている女性。振り返って微笑む顔に涙が残っていた。


「ごめんなさい。覚えてません」

「そっかー。私は本気で印象薄いなー」

気にした風もなく笑う人。

「あとでマジ千秋しばくーー」

続いた言葉に驚いた。

「だって千秋の呪いのせいな気がするんだもの」

「うろなの神社仏閣にね、さーやちゃんの仕事が失敗しますようにって願かけちゃったのよねーあの子」

あははーと笑いながら彩夏さんが教えてくれる。


「絶対そんな願掛けしない方がうまくいったでしょうにねー」

「あーやちゃん!!」



「じゃあ、いこさーやちゃん」

小さくデート邪魔してごめんねと聞こえた。

どっちがいってたのかはわからない。


でも、これってデートなのかなぁ


「ほら、宇美。あんまり波打ち際にいると足とられるぞ」

差し出された手に手を預ける。

これはちょっと嬉しいかもしれない。

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