幼馴染みとの夜
「騒がしかったね」
逸美が上目遣いでまだ帰らないよね。という空気を作る。
まぁ特に会話してないしな。
「菊花ちゃんだからなぁ。それにしてもほのかさん落とすとは持久力あるなぁ」
「ま、絆されたんだろ。家族ぐるみに」
それなりに見ていたらしい健が呆れたように胡座を崩す。
「教えない方が良かったんだろ?」
「ん、助かる。健。逸美も。レンも良ければ教えないでくれると嬉しい。特にうちの鎮兄さんには絶対教えないよーに」
不思議そうなレンにお願いをしていると背後で逸美が「しってるんじゃあ?」とか呟くが知ってても誰から聞いたか答えられない状況だとあいつは使ってこないからいいんだ。だから、バンシーは知ってるけどレックスは僕の直通連絡先知らないことにしてるしね。
「そろそろレンを迎えにとか言い訳つけて寄ってきてもなんだから、健、レンを送ってくれる?」
「あん? 俺かよ」
「そう健」
一人で戻れると言うレンを見て「健なら鎮兄さん確保連行できるだろ?」逸見と話す時間とりたいし、邪魔されるのはごめんだ。
「あー、了解。なんか寄こせよー」
「気が向いたらなー」
そんな風にレンも健も追い払った。
「えっと、千秋」
「うん」
逸美はあまり自己主張が得意ではない。だから健や美芳ちゃんは苛立って急かすし一二三ちゃんは相手にしない。でも、待てば言いたいことを教えてくれる。
「おかえり」
「ただいま」
なんでこのタイミングでなのかはわからないけれど、嬉しいのは変わらないし、会話は続けたい。
「新しい生活、怖くない?」
今は逸美の聞きたいことを聞くターン。
「知らないでこわいことは多いけれど、新しく知ることも楽しいかな。少しずつ探ってる最中な感じ?」
何度か口を開けてまた閉じて言葉を探して指や視線が彷徨っている。
「千秋のペースで?」
うまく言葉が見つからなかったんだろうか?
「……んー。たぶん、僕のペースで」
誰かに合わせなきゃいけないことも多いけどさ。
「大丈夫?」
「ん。大丈夫かな。うん、大丈夫」
「しんどい?」
「あー、それなりに難しいことも飲み込みきれないこともあるかな。それでも、出来ることを出来るようにするだけだから」
珍しく逸美が視線を合わせてくる。
「そっか。千秋、頑張ってるんだね」
「あー、なんつーか、鎮とかより届いてる感じがあるから無力感はマシかなー。たいしたことできねーんだけど」
自分の無力さに笑うしかできない。
「千秋は無力じゃないよ。僕が高校卒業できたのも健とならなんとか友達できるのも千秋がいてくれたからだから」
あー、逸美は引き篭もりたがるからなぁ。
でも、よかった。ちゃんと健のことは友達って認識してたんだ。
「千秋に見棄てられたら生きてる意味わかんないくらい依存していると思うけどウザがらないでくれると嬉しい」
「待て! 紬ちゃんいるだろ!」
彼女のために生きればいいだろ。彼女のために!
「千秋がちゃんと友達としていてくれてると思えるから紬ちゃんを見る余裕が生まれるんだよ? だからね、千秋はいてくれないと、出かけてもちゃんと繋がりを保っていてくれないと僕は不安になるんだ」
ちょっと聞きようによってはこわいくらいの事を言いながら照れ臭そうに笑う。
端末また破損した時は真っ先に登録連絡する。うん。約束しておこう。
「よかった。ちょっと困らせたけど、ウザいって嫌われなくて」
あー、うん。なんて言っていいのか。そうだな。
「逸美、ありがとう」
うん、照れ臭い。
お互いに照れくさく視線をそらしていた気がしたのに急に振られた。
「で、千秋、仕事上のパートナーな彼女ってなんの話?」
そこ、気になってたのかよ!?
「千秋に友達多いのはいいけどさ。目の前で親しげにされてるとサビシイ」
逸美、そーゆーことは紬ちゃんに言ってやれ。いや、恥ずかしがらずに。




